児童手当、高所得者ほど「大人の小遣いに利用」って本当?【 調べてみました 】
本日は、児童手当に関する記事より。
■ 記事の概要
財務省は2020年度当初予算案の編成で、高所得者への児童手当について、廃止を含めた見直しを厚生労働省に要請する。世帯年収が高いほど「大人の小遣い」といった子どものため以外に振り向ける人が多いとの分析を踏まえ、本当に必要な世帯への給付に絞るべきだと主張する。
財務省によると、年収600万~1千万円未満の人のうち、39%が児童手当を「大人の小遣いに充てる」や「使わずに残っている」と答えた。年収1千万円以上だと、この割合は49%に上昇するという。年収300万円未満だと割合は13%になり、世帯の所得が高いほど子育てに使われていない実態が浮かび上がった。
19年10月から幼児教育・保育の実質無償化が始まり、子育て世帯への支援は手厚くなった。財務省は厚労省に児童手当の所得基準や給付額などの制度の見直しを求め、「特に所得基準を超える人への特例給付は見直すべきだ」と改革を要求する。(日経11/13より引用)
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■ 「?」な点
この記事見て、真っ先に思ったこと。
「大人の小遣いに充てる」や「使わずに残っている」を合計しているけれど、それって同じ分類なの?
「使わずに残っている」というのは「貯蓄」ってことではないのか?
もし、貯蓄なら「今後の子育て資金」ではないのか?「子育て」は児童手当が支給されている期間限定ではなく、その先の高校や大学までではないのか?
そもそも「大人の小遣いに充てる」なんて項目を高所得者がそんなに選ぶものなのか?
・・・「?」の連鎖です。クリティカルシンキングの出番ですね。
情報を確認しようと、財務省のホームページを調べてみました。結果、
【 財政制度等審議会 財政制度分科会 議事要旨等 令和元年10/9分 資料 】
(今は上記図が削除されたようです。理由はこの後を読んでください)
えっ・・本当なのか。これはショックな数字。しかし、まだ信じられない!出所の平成24年の調査データを見てみました。
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■ 平成24年の資料を見てみる
厚生労働省「平成24年 児童手当の使途等に係る調査」 という資料が引用元とあったので見てみました。
とりあえず「何に使ったか」に関する全年収の結果は以下のようです。
この結果のみで比較すれば・・・大人の小遣い1.8%に対し、貯蓄や未定は34.1%(複数回答あり)。いや、ちょっと待て。全体でこんな割合の「大人の小遣い」が、高所得者で急上昇するのか?
いよいよ、年収別の資料を見てみると・・
ん??使途の回答では、むしろ高所得者の方が割合が低いぞ・・。
では続いて年収別の使途金額ではどうか?
あれ?どういう事だ・・。特に「特例給付」は所得制限に該当する方々ですから最も高所得者層と言えるでしょう。この層の「大人のお小遣い」欄を見てみても・・・非常に低い。先ほどの資料では「特例給付除く」とありましたのであくまで参考ですが、実態としてデータと違いすぎる気がします。
そして、今回の財務省の基データとなったであろう「まとめ資料」を見ると・・・
財務省の資料↓ の「大人の小遣い」って、むしろ高所得者ほど増える「子供の将来のための貯蓄」項目にすごく数字が近い気が・・・。
間違ってる?私の資料の見方がおかしいのかな・・・。いや、・・・でもなぁ。もしミスだったら意味合いが違いすぎますしね。
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と、実は昨夜ここまで下書きしたのですが、朝、あまりに違うので不安になり、リアルタイム検索をしてみるとこんな記事が!
やはり、多くの方がこの報道内容には「?」だったようですね。私と同じ経路を辿り、同じく「?」な点が話題になっていました。そして、引用させていただいたおたまさんが、原因まで発見し、既に問い合わせを実行したとのことでした(ぜひブログを読んでみてください)。
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■ 制度について
現在、児童に関する税制や手当制度は結構複雑です。
例えば、現在の児童手当は、年齢や兄弟構成により月額10,000円~15,000円ですが、以下の所得制限があり、該当する場合には月5,000円となります。
所得税では平成22年度改正で16歳未満の子は扶養控除の対象外になりました。当時児童手当は、子ども手当という多少、今と違う制度でしたが内容としては、手当を増加させるので、扶養控除制度は廃止という改正でした。
所得税は、累進課税なので、高所得者ほど「扶養控除」の恩恵が大きいため、扶養控除よりも手当の方が「公平」だという改正でした。
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このように子どもに関する税制は、「扶養控除廃止」「手当も所得制限で減額」と所得差を意識した改革が進んできたのですが、この間の「幼児教育無償化」は所得制限無しでした。で、今度は手当を所得制限で受給対象外にするかとか制度自体を見直すかという話です。
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■ おわりに
私は、手当の見直しについて意見を言いたくて投稿したのではありません。(廃止反対!とかの声を期待した方すみません。現状、この点についてはフラットな立ち位置です。)
我が家も来年は3姉妹全員が幼稚園児なので、無償化制度でかなり優遇されます。児童手当についても所得に応じてより柔軟に対応すべきという意見もよく分かります。ただ、その一方、高所得者への税制は、給与所得、基礎控除、配偶者控除等、あらゆる部分で所得制限が設けられています(予定を含む)。一定の所得以上の方々はジワジワと税負担が高まっている現状。だからこそ、このような議論に必要なデータは、ミスリードがあってはならないと思います。
児童手当の趣旨は以下の通り。
児童手当制度は、児童を養育している方に手当を支給することにより家庭における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会をになう児童の健全な育成及び資質の向上に資することを目的にしています。 (厚生労働省HP)
私は平成24年の回答を見る限り、どの所得層も趣旨に合う使い方、貯蓄をしているように感じました。しかし、今回の報道を見た人は「高所得者は子供手当を自分たちのお小遣いにしているし、無駄遣いだ」という印象をもったかもしれません。
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このnoteも公開しない方がいいかな…と当初思いました。財務省や厚労省に恨みがあるわけでもないですし、怒りもありません。表題の件について「どうやらそうではなさそう」という事に安堵している心境です。もし同じように、昨日の報道で「高所得者め~!」と誤解されているケースがあれば「それは違うかもしれませんよ」という1つの気づきになれば…と思い投稿しました。
お読みいただき、ありがとうございました。 FB:https://www.facebook.com/takayoshi.iwashita ㏋:https://ibc-tax.com/