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第2話 北海道 ああ北海道 北海道(北海道連載2/15)

Day1 ザ・北海道を追い求めて

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 朝6時2分、乗客のまばらな特急北斗1号が函館駅を発った。空は一面雲に覆われているが、昨日のような肌寒さは感じない。車窓から見える大沼や内浦湾が、朝の空気で一層澄んで見えた。函館駅を発って小一時間。北の大地の絶景に見とれていたのも束の間、昨晩全く眠っていないツケが回ってきた。普段なかなか感じることのない強烈な眠気に襲われる。コンビニで購入した朝食だけは何とか食べきり、余計な抵抗は諦めて睡眠時間を確保することにした。乗り換える駅は終着の札幌駅ではなく、2つ手前の南千歳駅。到着までは2時間半あるとはいえ、事情が事情なので寝過ごすリスクがある。万が一のことを思って、スマホのアラームを設定しておいた。

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 眠って目覚めてを何度も繰り返しているうちに、列車は苫小牧駅に到着した。南千歳の一つ手前の停車駅である。幸いアラームが鳴る前に起きることのできた私は、アラームの設定を切り、網棚の荷物を降ろして乗換の準備を始めた。

 南千歳駅で釧路行きの特急「おおぞら」に乗り換え、本日のメイン・帯広を目指す。こちらもまた途中駅での降車になるので気を付けなければならない。車内は比較的混雑しており、各列に複数の乗客が着席していた。指定席を予約しておいて正解だった。

十勝の絶景に北の大地を全身で感じる

 一つ列車を乗り換えただけなのに、車内から見える風景がガラリと変わった。原っぱを悠然と歩く牛や、果てしなく広がるとうもろこし畑。北海道のスケールの大きさを身をもって思い知らされた。所謂「北海道らしい風景」を車窓からではあるが楽しむことが出来た。列車は一つ一つの停車駅で少しずつ乗客が降りていき、帯広駅に着いた頃には乗車した時の5~6割ほどになっていた。

そういうわけで帯広駅に到着したのだが、、、寒い。昨日ほどではないが冷える。。8月終わりの北海道はやはりこんなものなのだろうか。長袖長ズボンは各1枚ずつしか持参しておらず、それ以外はすべて半袖半ズボンの夏仕様で挑んだことを激しく後悔した。

 帯広近郊の観光地は、おのおの距離が離れている上に、バスなどの公共交通機関が充実しているとは言えないため、レンタカーを借りて移動することとした。車という選択肢を得たことで、行動範囲が一気に広がった。まず最初に目指したのは「ナイタイ高原牧場」。開けた景色、濃厚なソフトクリームの味は北海道1とも目される。北海道らしさをどこよりも味わえるのではないかーーー大きな期待を胸にハンドルを握った。

 十勝の道は見通しがよく、ひたすら直線が続く。良く言えば快適で走りやすい、悪く言えば単調で眠くなりやすい。眠気を呼び込まないために、窓を開けて歌いながら牧場を目指した。牧場までの所要時間は約一時間。どこまでも続く真っ直ぐな道、そして草原。この美しい風景をいつまでも大切にしていきたいと思った。

 高原牧場を名乗るだけあって、牧場近くは山道を登ることとなる。その山道から眺める風景が最高だった。いくつも重なり合う緩やかな丘、美しく映える青青とした草、牧草を食べながらゆったりと過ごす牛たち。求めていた北海道の風景がここにあった。一面雲が広がっていたため、遠くを見はるかすことが出来なかった点だけは残念であったが、その美しさは十全に感じることが出来た。

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 山道をさらに登ると、一軒の建物が現れた。ここでは牧場の牛肉を使ったハンバーガーや牛乳を使ったソフトクリームを食べることが出来る。肉汁あふれるジューシーなハンバーガーも魅力的だったが、昨日ラッキーピエロでハンバーガーを食べたことを思い出し、ローストビーフサンドを食べることとした。空腹も相まって美味しさも格別に感じた。

 そしてお楽しみ、ソフトクリーム。北海道の牧場で食べる自家製ソフトクリームが美味しくないわけがない。大きな窓から牧場を眺めて口にした冷たい渦巻きの味はやはり期待を裏切らないものだった。

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 「なつぞら」の世界観にドップリ

お名残惜しゅうは候えど、次の目的地へ行かねばならぬ。天気がいいときの再訪を心に誓い、牧場を後にした。次の目的地は、連続テレビ小説「なつぞら」でお馴染み、「しばた牧場」のロケ地だ。備え付けのカーナビでルート検索をすると、目的地までの道のりは約60km。唖然とした。いくら北海道が大きいとはいえ、60kmも離れているのか...ただ、こんな時のためのレンタカー。有効活用してなんぼだろう。

 人も車も建物もほとんどない中、やたら幅の広い道路をただ真っ直ぐ進む。流れる景色が全く変わらず、不気味ささえ覚えた。ただ、見知らぬ土地でも信頼を置けるほどの方向感覚は備わっていないので、ひたすらカーナビの指示に従った。周囲に何もないが故に却って迷いつつも、なんとかロケ地に到着することが出来た。駐車場を見ると、他に車は止まっていないようだ。雨でぬかるむ足元で、靴を水びだしにしながら「しばた牧場」の看板を目指す。こちらもまた、果てしなく続く草原と遠くに構える山のコントラストが非日常感を与えてくれた。

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 牧場入口の看板に辿り着いた。あくまでロケセットのため、実際の牧場があるわけではなく、砂利道と看板だけが残されている極めてシンプルな場所だ。ただ、十勝の大地の中を逞しく生きてきた柴田家の姿が目の前に浮かび上がるような心地がした。

 ドラマの主題歌である「優しいあの子」が頭の中で再生された。十勝の眺望と、旅する自分の姿が重なり合い、幾度となく聴いてきた曲がまるで違う曲のように思えた。

「めげずに歩いたその先に 知らなかった世界」ーーー遠くても何とか来たからこそ見られた、初めての風景

「切り取られることのない丸い大空」---雲がかかっていても分かる、大きな大きな、天に吸い取られてしまいそうなほどの澄んだ青空

 それにしても空気がきれいだ。空気がきれいだと、心まできれいになる。この数か月で溜まったストレス、不満、やるせなさ等が洗い流されるかのようだ。何もない場所ではあるが、いつまでもいたくなる。簡単な言葉では言い表せない魅力が、十勝にはあった。

 足も靴下もビショビショになりながら、次の目的地「真鍋庭園」を目指した。またしても道のりは60km。ため息をつく前に割り切り、アクセルを踏んだ。「真鍋庭園」は、帯広市の住宅街に位置する植物園だ。数ある展示の中に、これまた「なつぞら」の撮影セットがある。主人公・なつが幼少期に大きな影響を受けた少年・天陽のアトリエと生家が保存されている。閉館時刻直前のため長居はできなかったが、デッサンから小道具までドラマそのままだった。撮影セット以外にも多数の草花。大きな樹木が強烈な存在感を放ち、時間が許すのであれば暫く立ち止まって眺めていたいところだった。

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 レンタカーの返却時刻と釧路行きの列車の発車時刻が少しずつ近づいてきた。帯広市街へ入り、駐車場に車を止めて夕食の店を探す。帯広駅から少し歩いた所には繁華街があり、平日ながら賑わいを見せていた。メインストリート沿いのレストランに入り、夕食を取った。地元の食材を使ったメニューが豊富だったが、特に印象的だったのは黄身まで白い卵のサラダである。ゆで卵に甘みを感じたのはこの時が初めてだった。肉や野菜をがっつり食し、疲れた体に再びスイッチが入った。

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 このあと、突然の腹痛に襲われてトイレ探しに苦戦したり、ガソリンスタンドの場所が分からずあたふたしたりと若干パニックに陥ったが、なんとか落ち着き無事にレンタカーを返却することができた。釧路行きの特急に乗り、すぐまた眠りについた。

釧路駅に到着したのは夜10時。駅から10分ほど歩いて本日の宿となるゲストハウスに到着した。この後私に(結構ガチな方の)身の危険が押し寄せようとは・・・

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