漢方エキスの併用について

以前家庭医学会だったかでシンポジストを頼まれた時、フロアからまだ漢方初心者と思われる女医さんが質問した。

「漢方薬は併用しない方が良いと教わりましたが本当でしょうか」

そうしたら別の講師の先生がすかさず「併用したら良いですよ。併用した方が良い」ときっぱり言い切ったので、質問者は困惑の体だった。私はその講師の先生を存じ上げなかったので黙っていたが、補足するとこう言う意味である。



漢方エキスは漢方の弁証と本草学、すなわち生薬に関する学問に習熟すれば併用して良いし併用した方が効果の上がる場合もある。そもそも一つの漢方処方の中でも各々の生薬の効果効能を考えて組み合わされているのだから、そうした個々の生薬の効果効能が分かり、あれとこれを組み合わせると何がどう変化するのか理解出来れば、併用は全く問題ない。しかしそう言う理論を知らなければ、併用しない方が良い。



例えば「この人は気虚だが瘀血もあるので、補気剤に活血薬(駆瘀血薬)を併用しよう。具体的には補気剤の補中益気湯に活血薬の桂枝茯苓丸を足そう」、というのは、当然有りだ。気虚が何で血瘀が何でどの生薬が補気でどの生薬が活血の作用を持っているのか分かっていれば、それは加えて良いよ、と言うことだ。しかしそれが分からなければ、何を基準に併せるのか分からないから、やらない方が良い、と言うかやりようがない。その先生は講演を聴いても漢方や中医学に通暁していたので、ご自分の立場から「併せた方が良い」と言われたのだろうが、上に述べたようなことを全く知らなければやめておいた方が良かろう。



ただ、製薬メーカーの手帳に書かれた適応症は昭和36年の法律のままなので、あれを頼りに漢方を使ってもまず、効かない。まあ何でもそう簡単に早道はできないので、「すぐ使える何とか」ではなく、一から順番に勉強していって欲しい。一から十まで学べとは言わないから、せめて一から三ぐらいまでは基礎を学んで欲しい。そうでないと生兵法は怪我の元になる。

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