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クワガタクライシス

1.初めに


 こんばんは。IWAO です。
 今回は、今すぐにでも取り上げるべき話が出てきたので、それについてお話をします。また、本来の構成の短縮版となるため、そちらの方ももうしばらくお待ちください。

2.事件

 今回、取り上げて考える事案は、こちらになります。

  こちらの記事では、「スマトラオオヒラタクワガタとオオクワガタが和 歌山県田辺市内の山で捕獲される。どちらもペットとして飼育していたもの が逃げた可能性があるため、注意してほしい。」という内容になります。(https://www.agara.co.jp/sp/article/225770 を要約)

 私が、この記事を読んだ時、最悪、外国産のカブトムシ・クワガタの飼育が規制されることにつながりかねないと感じまじた。私が、何故、そのようなことを考えるようになったのか、カブトムシ・クワガタの現状について簡単な解説をした上で、説明・考察していきます。

3.カブトムシの多様性

 皆さん、カブトムシと言ったら、この画像のように、大きな角を持った夏の生き物とのイメージが強いのではないでしょうか?

(我が家のカブトムシです。10年ぶりのカブトムシで、立派なオスが生まれました。また、このオスの遺伝子を持った幼虫が今年誕生しました。大きくしたいですね。)

 しかし、カブトムシは、夏にだけ生きる昆虫ではありませんし、日本にいるカブトムシはどれも同じでもないことがわかっています。特に、日本のカブトムシはどれも同じではないことをここで解説します。ここの記述は、主に、小島渉氏の『不思議だらけ カブトムシ図鑑』を基に記述しています。
この文献の感想として、「自然に住むカブトムシの魅力がつまった」もので、非常に読みごたえがありました。カブトムシとはどのような生きものかを知るために購読することをお勧めします。


 カブトムシは、ほぼ日本全土(北海道、沖縄を除く)に生息していることがわかっています。また、各地域ごとのカブトムシを比較した場合も違いがあることがわかってきました。
 まずは、離島と本土の違いでは、離島の方が、体に対して角が小さいことがわかってきました。例えば、屋久島では、体の大きさが同じでも角が短い個体がいることがわかっています。この屋久島のカブトムシは、形態的な違いから新亜種(t.dicthotomus.shizuae)と記載されています。
 他にも、離島の方が、本土の個体よりも小型化していることが挙げられます。それに加え、卵も本土のものと比較した際、大きいものが多いことや脂肪が多く蓄えられていることがわかっています。特に、これらの点で共通して考えられることは、「離島の方が本土よりもエサの条件が悪いことが原因となっている上、遺伝的にも大きくならない」ことが確認されています。特に、「離島の方が本土よりも大きくならない」では、人間が用意する腐葉土が離島ではあまりないことが挙げられます。他にも、成虫が利用するクヌギも十分に生息していない、もしくはないため、別の樹木を代用していることが要因として挙げられています。本土と比較した際、離島の方では、成長・生殖のために使える栄養が十分にないこととそのような環境で、子孫を残し続けた結果、小さいカブトムシが生まれやすいようになったと言われます。このように、離島のカブトムシは、独自の進化を遂げたと言えます。
 さらに、形態的な違いだけでなく、体の中にも違いがあることがわかっています。カブトムシが大きくなるためには、幼虫期間に卵から孵化してから冬までにどれくらい大きくなれるのかが重要になっています。つまり、春以降は大きくなれないということを意味しています。ただ、本土同士のカブトムシを比較した際、北のものほど小さくなるなどの話があまりないことを疑問に思った研究者(小島渉氏)は、台湾から北海道までのカブトムシを集め、同じ温度で飼育し、体重を測り、成長速度を記録しました。その結果、北方のものほど成長が早く、南方のものほど成長が緩やかであることが確認されました。下の画像はイメージ図となります。


(元の文献から筆者が作成。参考はこちらの文献から
https://academist-cf.com/journal/?p=13491)

 このような結果になった理由は、北方の方だと気温が早く低くなるために早く成長する必要があるのに対し、南方のだと冬が来るまでに十分な時間があるため、成長が緩やかであると考察しています。
 以上のように、離島と本土では形態的な違いだけでなく、成長速度のような遺伝的な面にも違いがあることがわかりました。カブトムシ研究家の小島渉氏は、「海外のものを含め、カブトムシの分類形態は大きく変わることが予想される」との趣旨を述べています。このことから、地域の大きく離れたカブトムシ同士では、姿・形はそっくりでも中身が全く別物となる可能性があると言え、非常に多様な存在であると言えます。今後、どのような研究でカブトムシのことがわかるのかが楽しみなります。また、このような事実から、国産のカブトムシでも産地が不明のものを野外に放してしまった場合、その地域固有で独自に進化したカブトムシを滅ぼすことになることが考えられます。

4.海外クワガタの脅威

 外国のカブトムシでもここで書くようなリスクが起こる可能性がありますが、海外のクワガタの場合、実験で確認済みであることからリスクが非常に高いと言えます。
 五箇公一氏らが行ったヒラタクワガタの系統樹の研究では、「日本のヒラタクワガタは、系統樹から見た場合、父祖の地から最も遠くまで進出した非常にユニークな個体群であること」などと述べており、「日本列島の歴史を反映した貴重な遺産だ」とも言及しています。私は、このことから、ヒラタクワガタが日本の生物多様性の豊かさを示す貴重な動物であると感じました。また、海外のものと在来のものの遺伝子を見た場合、遺伝子で見た場合、非常に遠い存在であることが確認されています。
(*海外と在来のヒラタクワガタの系統樹を確認したい場合、こちらのサイトを確認してください。↓

 
 他にも、本土ヒラタのオスとスマトラヒラタのメスを掛け合わせ、交雑するのかを確認した実験を行った際、産卵が確認され、成虫になることが確認されました。その雑種(F1雑種)同士の妊性調査した際も、卵が得られたことも確認されました。このことから少なくとも2代目(F2)までは増殖可能と言えます。よって、海外のヒラタクワガタと在来のヒラタクワガタでは、雑種が生まれ、それが拡散するリスクがあると言えます。
 今回の事件とこの雑種の実験をあわせて見た場合、実験と条件が合わなくとも、このスマトラヒラタのオスから雑種が生まれるリスクがあったと言えます。最悪、この個体を機に、日本のヒラタクワガタの遺伝子が消えることもあり得ました。先述したような国内のカブトムシでも、このような事態を招きかねません。どこで獲れたのか分からないカブトムシ・クワガタを野生に話すことは、絶対にやめてください。
 
他にも、外国産のマルバネクワガタの仲間が、特定外来生物に指定されています。ヒラタクワガタに限らずですが、逃がすなどの行為で、他の外国産カブトムシ・クワガタを特定外来生物にしなようにしてください。

5.考察

5-1:問題になりにくい

 これは私自身の感じたことですが、海外のカブトムシやクワガタが野外で見つかっても、あまり問題として、取り上げられてないような気がしますし、今回の事件がヤフーニュースに取り上げられても生物の関係で著名な人によって取り上げられている印象もあまりなかったです。その理由として、水生生物で比較してみます。
(*私の感想なので、実態と違った場合は申し訳ありません。)
 

 まず、①では、昔ながらのきれいな川を取り戻すために魚を放流するなどの意図で、本来その場にいない魚、品種改良であるメダカ、ニシキゴイ、金魚を間違って放流する、産地が離れすぎた生物を放流してしまうことが現在進行形で起こっています。これらは、ニュースに取り上げられやすい上、間違ったことと批判されることが非常に多いです。カブトムシ・クワガタにおいても同様のことを行っても批判はされますが、あまり取り上げられることが少ない気がします。
(*実際、地方議会議員によるカブトムシの訪虫が批判されることがありました。以下の文献でその詳細がわかります。また、環境保全や現在の日本が抱えている環境問題について広く解り易く書かれているので、購読をお勧めします。)


 私が問題になりにくい原因は主に②と③にあると考えます。水生生物の場合、メダカやカワニナが代表例で挙げられますが、これらは、地域・水系ごとで遺伝子や形態が違うことが明らかになっており、分布域などの区分も作成されています。しかし、カブトムシの場合はどうでしょう?地域ごとでどのような違いがあるのかの詳細はあまりわかっていない所があります。研究がまだしっかりされていないから、世間にもあまり知られていないと感じます。

5-2:今回の事件で考えてほしいこと

 私が、カブトムシ・クワガタの飼育に詳しいわけではないので、どのような個体が逃げた・逃がされたのかについて分からないことがあります。それでも、どのような個体が逃げたのかについて以下の3パターンを考えています。

 ①の場合、ふたがしっかりしまってなかった、あるいはかごを壊して逃げてしまったなどの管理がしっかりしていなかったために逃げたというパターンです。続いて、②は、どの生き物にも共通してあるパターンになります。これが原因で、特定外来生物に指定された生物もいます。どんな理由があろうと野外に逃がすのは、絶対にやめましょう。
 今回、私が特に警戒しているのは、③のパターンです。カブトムシ・クワガタといった時、「夏の生き物」という印象が強く、夏に限定された生きものと思っていませんか?これから、そのイメージを捨てましょう。当然、秋以降も幼虫となって来年の夏に備えています。その上、現在の地球温暖化の影響や地理によっては、外国のカブトムシ・クワガタが冬を越せる環境が、日本にはあります。外国のカブトムシ・クワガタが野外に逃がされた場合、遺伝子汚染の問題が起こり、在来のカブトムシ・クワガタが絶滅することにつながりかねません。これは、在来のものでも同じで、冬を越せるため、遺伝子汚染のリスクは、外国のものよりも高いと思っています。その上、外国のカブトムシ・クワガタとの餌・メスをめぐる競合によって、在来のものが住処を追われることも考えられます。
 ③のパターンが起こるシナリオは、「飼いきれないのなら、逃がしなさい。」や「外国のカブトムシ(クワガタ)は、日本の寒い冬は生きられないから、せめて自然で残りの生涯を過ごしてほしい」や「殺すくらいなら、逃がしなさい」などと親が子供に悟っていることが考えられます。私は、自分の子供に生き物を絞めるようなことをさせたくない気持ちを決して否定しません。その上で述べますが、命を大切にするのは、「目の前の命だけを大切にすることだけでしょうか?」その生き物を逃がす事で生まれる不幸があります。その生き物が逃げたせいで、住処を追われる在来種や農業の被害を被って迷惑をする人がいます。自分たちの行動が迷惑をかける原因になります。どうしても買い切れなくなった場合、自分で絞めることも責任だと思います。ただ、ショップによっては、飼いきれない個体を引き取ってくれる所もあります。最後まで飼った生きものを自分でどうけじめをつけるのかが大切です。ACのCMで「優しそうに聞こえても、これは犯罪者セリフです」と突きつけるものがあります。これは、犬・猫の限らず、どの生き物でも同じです。改めて「責任もって最後まで」を心掛けてください。

6.まとめ

 以上が、ペット個体のクワガタが見つかったことから私が考えたことになります。
 私も、本土のものではありますが、オオクワガタとヒラタクワガタを飼育しています。しかし、両者とも養殖個体であるのは、明白です。私自身が、野生に放してしまうことは絶対に合ってはならないので、飼育する際の管理を気を付けなければなりません。
 今回のブログでは、私の書いたことよりも、参考にした記事・文献を読み、拡散してもらえると嬉しいです。下記に参考・引用文献一覧を載せます。是非、紹介・拡散お願いします。
 また、カブトムシ・クワガタにおいては、書きたいことがたくさんあるので、今回のものをベースにボリュームアップしたものを投稿するつもりでいます。
 今回も、読んでくださり、ありがとうございました。

参考・引用文献一覧

今回の記事

・小島渉 『不思議だらけ カブトムシ図鑑』 彩図社 2019年

・カブトムシの地域差について

・外国産ヒラタクワガタとの交雑の問題について







 


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