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人材研修で注目された、福島にある小さなガス会社の社長のセカンドキャリア

僕が社長になった理由-篠木 雄司さん-
おもしろい研修をやっている会社の社長さんということで、ご紹介いただいたのですが、お話を聞いて本当に驚きました。特にコンサルティングや研修会社が入っているわけではなく、篠木さんご自身で読んだ本や考えたことから実践していく中で、生まれた研修だったんです。今は会長職になり、人材育成の活動の幅を広げつつ、世界をバックパックで巡り、第一線のエネルギーやインフラについて学んでいるのだといいます。新しい会長の在り方を実践している篠木さんの人生について、お伺いしました!

2019年夏、”いわみんプロジェクト”として、社長や起業家、独立して活動している方を対象に100人インタビューを実施しました。彼らがどんな想いで起業し、会社を経営しているのか? その中での葛藤や喜び、そして未来に向けて。熱い想いをたくさんの人に伝えたいと思っています。

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篠木 雄司(しのぎ ゆうじ)さん

株式会社アポロガス 代表取締役会長
昭和37年5月生まれ。
福島県立福島高校、慶應大学商学部卒業
東邦銀行入社。平支店・国際部・NewYork-trainee・相馬支店勤務等
平成5年 アポロガスへ入社
平成19年 代表取締役社長就任
令和元年5月 会長就任
平成25年度経済産業省「おもてなし経営企業選」
平成26年中小企業庁「がんばる中小企業300社」
平成28年「ふくしま産業賞金賞」、日経BP社「人づくり大賞2016優秀賞」
平成29年人を大切にする経営学会「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」、「企業価値認定」
令和元年 初の著書『福島の小さなガス会社がやっていた 世界最先端の社員教育』(あさ出版)
『福島の小さなガス会社がやっていた 世界最先端の社員教育』(あさ出版)

自由になりたい気持ちから
大空を飛べるパイロットを夢見た幼少期

 小さい頃は星が好きで天文学者になりたいと思っていました。結構太っていたから、よくからかわれていたので、自由になりたいって気持ちが強かったのかもしれません。小学6年生の時、教室の窓から空を見てあの雲の上に行きたい、鳥のように自由に空を飛びたい!って思っていました。その思いから、パイロットにもあこがれていました。
 福島のいなかに生まれ、長男だったこともあり、家業であるアポロガスを継ぐこともぼんやり意識していました。高校の針路を考えるときも50%ぐらいかな、そんなことを考えていました。大学では今まで新聞配達のバイトをして貯めた200万円で、語学学校とコンピュータの勉強のためにワシントンDCへ留学しました。半年後コロラド州に引っ越し、僕の小さいころからの夢だった自家用パイロットの免許を取得しました。親に事前相談をすると危ないと反対されるので、当初は黙ってフライングスクールに通って、「あと一回だけ飛行機の操縦をすれば合格する」ってタイミングで許可をもらいました。

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▲今ではバックパックを背負って、世界のエネルギーやインフラ状況を学びにいっています。

 いざ、就職のタイミングでは家に入るかどうか迷いました。父親からは「いろんな経験をしたほうがいい。社会勉強になるから」と言われて、地元の銀行へ就職を決めました。銀行では、普通の支店経験や4年目にニューヨークへ半年ほど行くチャンスももらいました。その後、融資・得意担当として、経営者の方たちと接する機会も多く、若いうちから非常にいろいろな経験をさせてもらいました。これらの経験から、会社経営に興味も持つようになりました。

銀行員時代との対応に
ギャップにショックを受けた平社員時代

 そこで、30歳のときに、父が仲間と共同経営するアポロガスに入り現場の飛び込み営業、しかも役職の無い平社員からスタートしました。飛び込みで行っても門前払いされる日々で、相当ショックでした。今までの銀行マンの私に対する対応と、小さな会社の平営業担当社員としての私に対する対応は全く違うものがあり、中身は同じ人間なのに肩書きという看板が変わったことで、こんなにも態度が違うものなのか、と落ち込みました。
 あるとき、いつもより少し遠くまで営業してみようと人里離れたところまできたとき、ほんの数軒しかないような効率悪いエリアで、アポロガスのボンベを見つけました。「先代のだれかがここまで営業開拓したからこそ、こんなところにお客さまがいるんだ」と気づき、それがキッカケで前向きになれました。僕の初契約は20回訪問した結果の賜物です。ムダだと思うアプローチだとしても、まずは360度試行錯誤してみることで、見えてくるものもあるのだとこのときに思いました。

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▲母校福島高校にある「平成の飛梅」の前で。東日本大震災のあと、復興を盛り上げるため、太宰府天満宮さまから恵与(けいよ)いただいた梅です。

太宰府天満宮さまから恵与(けいよ)いただいた梅が満開アポロガスはガス供給企業ですが、篠木さんは“元気エネルギー供給企業”だと表明しています。特に東日本大震災後は、復興のために様々な活動に着手もしたそうです。地域の方たちに元気を与えるためには、社員が元気でなくてはなりません。そんな社員を元気にするための取り組み、研修の数々を一部ご紹介します。

僕にできることはなんだろう?
トイレ掃除と感謝を示す社員全員への手紙

 2000年に、グループ会社の代表取締役専務になりました。正直、業績が非常によくない状況で、僕に与えられたミッションは親会社への合併をスムーズに行うことだったんです。でも、20代の若手社員社員が、「この会社がなくなるなら辞めます」と言います。会社をなくすのではなく他にできることはないか? 売り上げ向上のための新規開拓、システムの合理化によるコストダウンなどを行いました。みんなで力を合わせたことで、1年後に黒字に回復することができました。

 僕は、修理もできないし、現場管理もできないし、図面も書けません。社員の頑張りを手伝うことが何もできないんです。じゃあ、感謝の気持ちを表すことだけは誰にも負けないようにしようと思い、経営者として心を伝えていく活動を始めました。当時読んだ本に、「社長がトイレ掃除をやる会社はつぶれない」と書いてあったので、さっそく実践しました。経営者としての自信も何もなかったので、やれることはなんでもやろう、という気持ちでした。

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 業績が持ち直す前のことです。クリスマス前に、ボーナスが出ないから子どもにクリスマスプレゼントが買えないという声を聞きました。そこで、お子さんがいる社員にはお子さんの名前の入った感謝状と5000円のおもちゃ券を贈呈しました。「感謝状 〇〇ちゃん  お父さんのおかげで、会社はこんなサービスをしてお客さまを喜ばせています。そして、〇〇ちゃんが笑顔でいてくれるから、お父さんは一生懸命働くことができます。〇〇ちゃんに感謝を込めておもちゃ券をプレゼントします。かわりにお父さんへとびっきりの笑顔をプレゼントしてください!」という思いを伝える感謝状です。それからは、毎月のお給料日に給料明細を渡すときに、僕から感謝の気持ちを込めた手紙を一緒に社員のみんなへ手渡しするようにしました。

 2007年に親会社であるアポロガスの社長になりましたが、最初の子会社での経営がその後の研修活動の原点になっています。お金を使わずに、いかに社員に喜んでもらうか? 彼らのモチベーションを高められるか? をずっと考えていました。苦し紛れの創意工夫ってやつです。お金をかけなくても、アイデア次第でできることはいっぱいあると感じました。
 ラジオDJ研修や着ぐるみ研修、薄皮饅頭の新しい食べ方を考える研修など、今では150種類ぐらいの種類があります。その場で起きた出来事をそのまま研修に変えてしまうこともあります。そこから何を学び、どう思ったか、今後どう生かすのかを考えレポート提出してもらうんです。失敗もすべて研修になります。会社の利益に直結しなくても、アポロガスの社員として成長しお客さまとのつながりが結べたら、十分意味があると思っています。

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2019年の春、篠木さんは社長を交代して会長になったのだそう。今後の活動と抱負についてもおうかがいしました! 写真は「幸せの黄色いコップ・プロジェクト」で、子どもたちに講演をしている様子です。

社長から会長へ。
そして、エネじぃとしての活動スタート!

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 会長第1弾の活動は、ずっとあこがれていたバックパッカーになっての旅行です。エコ大国であるドイツを1週間かけて視察してきました。アポロガスはエネルギー供給会社ですが、今後どのようにシフトしていくのかはわかりません。先んじてエネルギー改革を行っている国を視察して、“エネじぃ”として会社のみんなに情報発信していくための冊子を作っているところです。10月には『エネじぃワールドツアー』の第2弾として台湾へ。年に3回くらい継続していけるといいなと思っています。
 さまざまな研修や会社の組織運営が評価されて、多くの賞を受賞したことで、講演・研修などに呼ばれることも増えました。若い経営者の人たちに、エネじぃとしての生き方を見せることで、自分も社長業終えたらこんな活動の仕方もあるな、って思ってもらえたらいいなと思います。

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▲エネじぃとして環境を考える旅に出てまとめたレポートを冊子に。会長として新しいステップを踏み出しました!

篠木さんは現在、エネじぃとして「幸せの黄色いコップ・プロジェクト」をライフワークとして始めたそうです。地元の福島で、小学6年生と中学2年生にコップを使った授業(「人生の生き方の実験」)を開催し、さらに「人生の生き方の実験」を全国47都道府県に伝える事を目標に講演活動を行っているのだとか。もちろん、全国からお声がかかることが多く、講演活動でも忙しくしています。篠木さんのこれからの活躍から目が離せません!

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▲篠木さんの最新著書には、多くの研修について書かれています。人材育成のヒントがたくさんあります。


下町の2D&3D編集者。メディアと場作りのプロデューサーとして活動。ワークショップデザイナー&ファシリテーター。世界中の笑顔を増やして、ダイバーシティの実現を目指します!