見出し画像

サウンドマーケティング入門②~音を利用したブランド戦略~

サウンドマーケティングについての世界を紹介する3話構成ブログ、今回はその2話目です。

①聴覚の特性について (前回)

②音を利用したブランド戦略 (今回)

③サウンドスケープの重要性 (次回)

今回のブログを書くにあたり主に参考にしているのはこちら

なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか ~サウンド・マーケティング戦略~

画像1

本書の著者、ジョエル・ベッカーマンはサウンド・マーケティング戦略を専門とするマンメイド・ミュージック社の創立者。

同社は色々な企業のサウンド制作を手掛けていますが、日本人にも馴染みが深い作品の一つに、IMAXシアターで映画鑑賞をする際に流れる「映画開始前のカウントダウン映像」が挙げられます。

画像の上部にある"Sonic Anthem"(ソニック アンセム)という言葉を頭の片隅に入れておいてくださいね。(詳しくは後ほどお話します)

個人的にこの映像が大好きなんです。

カウントダウンと共に流れる英語メッセージ

THE ULTIMATE MOVIE EXPERIENCE (究極の映画体験)

WATCH A MOVIE (映像を観るのか)

OR BE PART OF ONE (それとも一体化するか)

IMAX環境の鮮明で高画質な大画面と、完璧に計算された音響システムでこの映像を見ると、こちらのテンションは一瞬でフルボルテージに達します。

たしかにIMAXは通常料金+700円(池袋グランドシネマサンシャインの場合)と割高ではありますが、この映像を見る度に「やっぱりIMAXにして良かった!」と毎回納得するんですね。まさしく、音を有効に活用した顧客体験の創造にピッタリの事例です!

本書の著者ジョエル・ベッカーマンはこう語ります。

「音を最大限に活用したければ、CMソングではなく、アンセムをつくれ」

anthem(アンセム)とは、聖歌・讃美歌などが原義で、national anthemとなると「国歌」を意味します。

さて、ジョエル・ベッカーマンが言う「アンセムをつくれ」の真意は何なのか?少し長くなりますが、本書から該当箇所を引用します。

アンセムの重要性 (本書P.153~)

『ブランドストーリーやブランドの価値を伝えるために、自分だけのオリジナル曲をつくろうと考えている人は、ぜひアンセムをつくるべきだ。そうでないと大きなチャンスを逃すことになる。ナショナル・アンセム(国歌)がなぜ人々を鼓舞するのか考えてみれば、その重要性がよくわかる。

ソニックロゴの多くは、アンセムをさらに短くしたもので、CMの最後にほんの数秒流れる場合がほとんどだ。そうした音の断片は、中には記憶に残るものもあるかもしれないが、聴き手には何も伝わらない。なぜなら何の感情も湧かないからだ。長めのアンセムがないと、聴き手の感情を引き出すことはできない。文脈がないとストーリーを語ることはできない。ストーリーを語るには、戦略が必要だ。』

「ソニックロゴ」については聞き馴染みのない方も多いかもしれませんが、次の画像を見れば「あ~、これか!」とピンと来る方がほとんどだと思います。ここではソニックロゴではなく、サウンドロゴになっています。

一瞬の効果音だけのもの、言葉だけ、旋律があるもの、旋律と言葉が組み合わさって歌になっているもの・・・ 色々ありますが、これらを総称して「サウンドロゴ」とか「ソニックロゴ」と呼びます。

こういうの上手くはまると便利ですよね。

上のYouTubeの紹介事例の中で個人的に上手いなと思うのが、

「あなたとコンビに、ファミリーマート」

「はじめてのアコム」

テレビを良く観る方であれば、きっとメロディーと一緒にスラスラ歌えてしまうんじゃないでしょうか。消費者金融を利用するシーンはあまり想像したくありませんが、必要な時に第一想起されるブランドになるためには、これは抜群の方法と言えます。

また上の紹介事例にはありませんでしたが、次の2つも見事です。

「富士サファリパーク」

「サッポロ一番 みそら~めん」

前者はインパクト抜群!「ホントにホントにホントにホントにライオンだ~」という串田アキラさんのパワフルな歌声と共に脳裏でサウンドがリフレインされる方も多いはず。

後者も良くできています。やや専門的な見地から解説すると「みそら~めん」のメロディーを「移動ド」で捉えると、み=ミ、そ=ソ、ら=ラ、言葉と音がしっかり対応しており、プロの技が光っているのが分かります。

さて「ソニックロゴ」について補足解説をさせて頂いたところで、再び本書より引用を続けます。

『戦略を練る前に、まずCMソングとアンセムの違いを理解しておこう。CMソングは覚えやすいが、聴き手の感情に訴えるストーリーを完全に語ることができるのはアンセムだけだ。

アンセムには主旋律が含まれている。それらを絞り出して編曲すれば、いろいろな音楽スタイルにつくり直すことができる。アンセムは、「ハリー・ポッター」「スターウォーズ」「007」「パイレーツ・オブ・カリビアン」などのシリーズ映画において、今回の作品と次回作品に連続性を持たせるための手段だ。いわば作品をくっつける糊の役目を果たす。

音を利用したブランド戦略の正しい手順に従えば、ソニックロゴとCMソングは、アンセムの主旋律をもとに制作すべきである。

この観点から言えば、ブランド戦略を綿密に練り上げた上で、「アンセム」をつくり、そこから「ソニックロゴ」や「CMソング」を派生させている企業はまだまだ少ないでしょう。

この部分の戦略が実に見事なのがディズニーです。

せっかくなので、こちらについても本書より解説を引用します。

『「星に願いを」の最初の7音は、ディズニー映画のオープニングを飾るソニックロゴに取り入れられているほか、ディズニー・クルーズ・ラインの周遊船に装備されたエアホーンからも聞こえる。

この最初の7音のすごいところは、それを聴いただけで曲全体を思い出すだけでなく、当時の思い出や感情がよみがえってくる点だ。

例えば、映画「ピノキオ」を見たときの感動や、ディズニーのテーマパークへ行ったとき、マジック・キングダムの前で大きなぬいぐるみのキャラクターと並んで撮った写真を思い出す人もいるかもしれない。そういえばまだ母親の家の暖炉の棚に飾ってあるはずだ。』

戦略に基づいたアンセムの効果、うまく実感して頂けたでしょうか?

最後にアンセムづくりにおいて、重要なポイントを本ブログのまとめにします。

アンセムを制作する際に大切なのは、まず伝えたいストーリーを明確にした上で、ブランドが提供するさまざまな顧客体験を伝える音をつくることだ。そのためには戦略が必要だ。

戦略のないソニックロゴを聞いても視聴者が思い出すのは・・・せいぜいCMだけだ。』

うーむ、手厳しい!! されど箴言です。

本書に興味を持って頂いた方は、実際に読んでみることをお勧めします。特に第5章「サウンド・マーケティングはこう実践する」では、アメリカの通信大手AT&Tの事例が載っており、これが抜群に面白いんです。

マンメイド・ミュージック社がAT&Tから託された3つのチャレンジ

1, Humanize brand (ブランドに人間味を持たせる)

2, Improve reputation and trust (評判と信頼の改善)

3、Increase recognition and attribution (認知とロイヤルティの向上)

AT&Tから課されたこれらのハードタスクに、マンメイド・ミュージック社が音と音楽を使って、どのようにアプローチし、どんな結果が出たのか? 気になる方はぜひ読んでみてください!

概要だけだけ手早く知りたいせっかちな方は、英語になりますが、manmademusic社のHPよりwork/att をご覧ください。下のリンクからアクセスし、画面トップに表示される「WATCH」をクリックすると視聴できる1分24秒の映像は必見です。「ソ・ソ(オクターブ上)・ラ・ミ」の4音のソニックロゴが色々なバージョンで展開される手法は音楽家としてとても参考になりました。

今回はこんな所で。

次回は「サウンドマーケティング入門③~サウンドスケープの重要性」というテーマでLandscape(風景)ならぬ、音の環境(Soundscape)についてお話します。

最後まで読んで頂きありがとうございます。次回もお楽しみに!(^^)!

eラーニング+リアルレッスンで効率良く学べる音楽教室

江古田Music School

代表  岩倉 康浩

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?