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ここが僕のスタート地点。もっと上の景色を見る。MF日高大【Voice】

いわきFCの選手やスタッフの、知っているようで意外と知らない彼らのパーソナリティを掘り下げていきます。今回登場するのは、切れ味鋭くサイドを駆けるMF日高大選手。昨年から中心選手として活躍し、今年は選手会副会長を務めています。

▼プロフィール
ひだか・まさる
1995年生まれ。広島観音高→流通経済大→Honda FC
2019年いわきFC入団

■しっかり稼いで、彼女の夢を実現させてあげたい。

昨年12月に結婚式を挙げた新婚さん・日高大選手です。チームでまだ少ない既婚の選手ですが、結婚してどんな変化がありましたか。

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「やっぱり生活のサポートは大きいです。練習から家に帰るとご飯があって、話し相手がいる。それは僕にとって、すごく大事なことです。そして、結婚して人としても成長できたと思います。

 彼女とはHonda FCで浜松にいたころからつき合っていて、僕も奥さんも、いわきに来るまでは正社員で働いていました。安定していたので、お金のことをちゃんと考える機会はあまりなかった。でも、いわきFCに移籍してプロ契約の選手になり、結婚したことで『俺がやらなきゃ』という気持ちが出てきました。

 だから今後、プロサッカー選手としてもっともっと稼ぎたい。そして、彼女がやりたいことを何不自由なくさせてあげたい。彼女が今後何をしたいと思っているのかは、実は僕も知りません。僕のことを気にして、何も言わないでくれているんですよ。だからこそ、彼女が安心できるぐらいしっかり稼いで、夢を実現させてあげたいです」

■サッカー選手として最も成長できた、Honda FCでの2年間。

日高選手は広島県出身。広島観音高から流通経済大を経て、2017年にHonda FC(本田技研工業フットボールクラブ)へ。JFL王者のHonda FCを選んだ理由は何だったのでしょうか。

「大学4年の最初の半年は流通経済大学ドラゴンズ龍ヶ崎でプレーして、JFLのファーストステージで優勝。そこから卒業後の進路を考えました。Jリーグのクラブからもオファーをもらっていたのですが、練習に参加して感触がよかったHonda FCを選びました。Honda FCは実業団クラブ。安定しているのはメリットですが、それよりも、当時Jでやっていく自信がなかったことが大きいです。

 正社員として浜松にあるトランスミッション製造部で仕事をしながら、サッカーを続けていました。仕事は火・水・金の三日間、朝8時から昼12時まで。車のトランスミッションの部品をマシンで切って小さくして、磨いて機械に入れ、硬さを測る。そんなマニアックな仕事をしていました。でもすごく楽しかったですよ。僕はもともと工作が好きなんです。たまたまそういう仕事に就くことができてラッキーでしたし、いい経験になりました」

日高選手はHonda FC入りする前の自分を「身体能力だけでサッカーをやっていた選手」と評します。Honda FCは現在もJFLに王者として君臨していますが、Jリーグへの昇格意思を持ちません。でも天皇杯でたびたびJリーグのクラブを破るなど、非常にレベルの高いチーム。そこで2年間、基礎をみっちりとやり直したことが、飛躍へとつながります。

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「1年目は、技術面で基礎ができていないことをたびたび指摘されて苦しかったです。特に言われたのは止める・蹴るというサッカーの基本と守備のポジショニング。うるさく言われて腹が立ったこともありましたが我慢。ひたすらスキルを磨きました。半年ぐらい経って、やっとスタメンで試合に出られるようになり、そこから徐々に自信がついてきました。今振り返ると、Honda FCでの2年間は、サッカー選手として最も成長できた時期だったと思います」

■この歳で移籍できなかったら、プロは諦める。

Honda FC時代、日高選手はサイドバックとしてチームのJFL2年連続完全優勝と史上初の3連覇に貢献。2018年にはJFLベストイレブンに選出され、押しも押されもせぬチームの中心選手へと成長しました。しかし、そこにとどまることなく、Honda FCでのプレーに区切りをつけようと考えていました。なぜなら頭の中に、自分のサッカー選手としてのロードマップを明確に描いていたからです。

「Honda FCで2年プレーして、24歳までにプロ契約で他チームに移籍する。もしそれがかなわなかったら、プロを諦め会社に残る。そう決めていました。サッカーを辞めても本田で働き続けることも、意識していないことはなかった。でもそれをするなら、会社員として昇進することも意識せざるを得ない。自分に本当にそれができるのか? という葛藤もありました」

そんな時に、いわきFCから獲得のオファーがありました。いわきFCというチームには、どのような印象を持っていたのでしょう。

「今もHonda FCでプレーしている古橋達弥さんが、田村監督の湘南ベルマーレの時代の先輩なんです。達弥さんから『いわきFCにいる後輩から連絡があって…』など、ちょっとした話は聞いていました。それとGK坂田(大樹)が大学の同期で、連絡を取り合っていたんです。それでいわきFCの状況は聞いていましたが、何よりすごいと思ったのは坂田の身体の変化です。細かった坂田が今やあの大きさですから、もし自分がいわきFCに入ったら、きっとめちゃくちゃ変わるだろうなと…。

 大学~社会人でプレーする中で、パワーは常に課題でした。正直に言って、JFLはスピードでどうにかなってしまう部分もある。でも、自分が見ているのはそこじゃない。今よりワンランク上の選手になるには何が足りないのかを考えたら、もっと筋力をつける必要性を感じました。Jリーグやヨーロッパのサッカーを見ると、自分は世界レベルのサイドバックと比べて明らかに線が細い。いわきFCでしっかりトレーニングを積んで、もともとあったスピードにパワーがプラスされれば、自分は変われると思いました。

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 でも、実際にオファーをいただいた時は迷いましたね。一番の問題は所属リーグです。JFLのチャンピオンチームから東北社会人1部のチームに移籍するわけです。いくらいわきFCの環境やクラブビジョンが優れていても、プレーするカテゴリーを落としてまで移籍すべきなのか。そこは悩みましたし、チームにも止められました。『いわきFCは今後間違いなくJFLに上がる。移籍はその時でも遅くない。あと1年待ってはどうか』と。

 でも、僕の中には自分で決めた移籍のタイムリミットがありました。年齢を考えると、プロサッカー選手になるのはこの時がギリギリ。このタイミングでHonda FCから出られなかったらプロ選手は諦めようと決めていたので、待ちたくはありませんでした」

■社会人リーグレベルのプレーをしない。

こうして2019年、いわきFCにやって来た日高選手。しかしJFLベストイレブンの目から見ると、当時所属していた東北社会人リーグ1部のレベルは残念ながら劣っていました。Honda FCで培ったスキルを落とさないためにはどうすればいいのか。最も悩んだポイントはそこでした。

「正直、不安もありましたね。1本1本のパスの精度を維持するには、単なる止めて蹴って、という練習だけでは難しい。質の高いポゼッションの練習をする中で、ギリギリの判断を磨いていく必要がある。それをなかなか実戦で経験できないのが難しい。それでもスキルを維持するには、小さな一つ一つのプレーにこだわるしかない。チームが戦うのは東北社会人1部だけど、自分はそのレベルのプレーをしない。それを常に意識しました」

卓越したスピードとテクニックですぐさま信頼を勝ち取り、中心選手としてチームを引っ張った日高選手。JFL昇格への山場となった「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2019」ではゲームキャプテンを務め、全試合で活躍。決勝ラウンド第二節・おこしやす京都AC戦では貴重な先制ゴールを挙げました。

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「全国各地域の優勝チームが一カ所に集まり、一発勝負で昇格が決まる。その緊張感は独特でした。Honda FCでは『勝って当たり前』というメンタルでプレーしていましたが、それとはまったく違う。そしてあのハードなスケジュールは、Honda FC時代の自分ではこなせなかったかもしれません。予選ラウンドは3日連続で3試合、決勝ラウンドでは中1日休めましたが、それでも5日間で3試合。1試合でも負けると昇格の可能性がかなり薄れる。そんな大会は経験ありませんでした。

 ハードな緊張感あふれる大会を勝ち抜くためには、何が大事か。痛感したのはメンタルの重要性でした。試合を見た方なら、僕らが勝ちたいという気持ちを前面に出して戦ったことを理解して下さっていると思います。(田村)雄三さんが選手の気持ちを理解し、チームを一つにまとめ上げてくれたおかげです。

 もちろん大会中、肉体的な疲労はすごくあった。でも、このアグレッシブなプレースタイルをこのスケジュールで見せられるチームは、絶対に僕らだけ。自分達は1年を通じて、厳しいトレーニングでフィジカルを磨き続けてきた。他のどのチームよりもやってきたという、はっきりした自信がありました」

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■キャリアはまだ始まったばかり。JFLでは終わらない。

JFLに舞い戻った日高選手。今年のスタートは思いも寄らぬ事態に見舞われましたが、福島県は5月中旬に緊急事態宣言を解除。チームも7月の開幕に向け、ここから徐々にトレーニングを本格化させていきます。

「今年はメンバーが大きく変わり、技術の高い選手が増えました。戦術が大きく変わることはないですが、昨年よりも個で打開する状況が多くなると思います。個人としては、選手会副会長になったことはそれほど意識していません。昨年もゲームキャプテンを務めていましたから、今年もしっかりとチームを鼓舞していきたい。

 Honda FCを出ていわきFCに移籍したタイミングが、僕のプロサッカー選手としてのスタート地点だと思っています。だから、キャリアはまだ始まったばかり。もちろんJFLで終わるつもりはない。もっともっと上を目指します。Jリーグの景色を見たい。

 今シーズンは試合数が減った影響で、1試合1試合の重みが変わってきます。つまり、引き分けでOKという試合はない。相手も引いてばかりはいられず、前に出てくるでしょう。きっとそこは、僕らにとって有利に働く。相手が前に出て空いたスペースを、スピード感のある攻撃で突く。そんな戦い方になると思います。今年はこれまでとまったく違ういわきFCを見せられる自信がありますし、優勝も十分狙える。でも意識しすぎないこと。いわきFCらしさを忘れず、いわき市そして双葉郡の皆さんの活力の源になれるよう頑張ります」

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▼日高選手をもっと知るための、4つのQ&A
Q1:休みの日はどう過ごしていますか?
A1:奥さんが料理好きなので、一緒に何か作ったりしています。あとは犬を飼っているので、犬と遊びますね。

Q2:奥さんと二人で出かける所は?
A2:二人ともコーヒーが好きなので、カフェによく行きます。でも思うんですが、結局おいしいのはセブンイレブンのコーヒー。めちゃくちゃうまいですよね。いろいろなお店でコーヒーを飲んだ結果「やっぱりセブンだな」と(笑)。

Q3:好きなサッカー選手は?
A3:よく聞かれるのですが、特にいないんですよ。逆に、そう思われるような選手になりたいです。

Q4:古巣のHonda FC戦は燃えますか?
A4:もちろん燃えますが、怖さもあります。上手い選手がたくさんいるので、ボールをぜんぜん獲れないかも…。まぁ考えすぎるとダメなので、リラックスしてやりたいですが難しいかな。胸を借りる試合にはなるでしょうけども、優勝を争う大一番になったら熱いですね。 

次回は、1年目にして早くもファンの心をつかんだもう一人の選手会副会長・DF田中龍志郎選手にお話をうかがいます!

(終わり)

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