2024年ここまでのチームビルディングと新スタジアム建設について(後編)【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】
いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智のコラム。2024年シーズンのここまでの振り返りと、新スタジアム建設について語る後編です。
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■地域の課題を解決するラボ型スタジアム
J2のリーグ戦と並行して進んでいるのが、新スタジアムの建設計画だ。
いわきFCの新スタジアム建設は今、どのような状況なのか。今、何が起きているのか。そこが曖昧ではいけない。だからこそホームタウンのいわき市と双葉郡、そして浜通り、ひいては福島県全域にお住まいの方々に向け、わかりやすく伝えていきたいと考えている。
ご存じの通り、いわきFCは一昨年にJ3を制し、昨年からJ2で戦っている。今J2で戦えているのは、いわき市他関係者の皆さんの尽力のもと、いわきグリーンフィールド(現・ハワイアンズスタジアムいわき)を改修していただいたおかげである。
だが観客席を覆う屋根などの施設やVARなどインフラの必要性といった事情で、すべての条件を満たした上でのJ2・J1ライセンスは取得できない。そのため2024年のJ1ライセンスは、施設基準の例外適用申請を行った上で取得した。
つまり、現状のライセンスは仮交付のようなもの。そして、例外規定の適用には期限がある。我々はJリーグに対し、2025年6月までに新スタジアム建設計画を提示せねばならない。そして2027年6月末までに着工し、最長2031年シーズンの開幕までに完成を間に合わせる必要がある。
このような状況の中、いわきスポーツクラブは昨年、スポーツ庁による「令和5年度スポーツ産業の成長促進事業『スタジアム・アリーナ改革推進事業』」の委託契約を締結。それを受け、追手門学院大の上林功准教授を座長とする新スタジアム検討委員会「IWAKI GROWING UP PROJECT(以下IGUP)」を設立。まず委員会の中に「分科会Ⅰ」を始動させた。
これは最初から言ってきたことだが、今回の新スタジアム建設における主語が「いわきFC」であってはいけない。なぜなら、いわきFCのホームゲームは年間わずか20試合程度。残りの345日にスタジアムをどう活用していくかを考えると、主語はあくまで「地域」であらねばならない。「いわきFCのためにスタジアム作りましょう」という考えでは、地域の多くの方々に我が事感は生まれないし、スタジアムができても足を運んでくれないだろう。
以前もお伝えしたことだが、今回のプロジェクトで建設するのはいわき市、双葉郡そして浜通りという地域の課題を解決するラボ型のスタジアムであってほしいと思っている。
大事なのは、作った後。スタジアムがあることで、この地域の未来がどう変わっていくか。多くの人にさまざまなことを妄想してもらいたいと考え、ここまで議論を進めてきた。
分科会Ⅰは市民によるコンセプト作りを目的とし、昨年に11回開催。市民の方や有識者を始めとする多士済々の20人が集い「地域」を主語に意見を交わしてきた。
そして分科会Ⅰと並行して「ユースプロジェクト」を始動。子ども達や若い人達の意見を収集。さらにいわきFCのホームゲームで来場者からスタジアムに関する意見を収集。新スタジアム建設に向けた機運の醸成を少しずつ進めている。
この流れを受け、いわきスポーツクラブは近々、分科会Ⅰとユースプロジェクトの内容をビジョンブックという形でまとめ、配布する予定だ。
少しでも多くのホームタウンの皆さんにこれを見ていただき、いわきFCに興味のない人も含め、幅広く意見を聞いていきたい。地域の皆さんに現状を知っていただき、ああでもないこうでもないと賛否両論が生まれる。それが一番大事なことだと思う。
■場所の選定は、自治体の都市計画に準じる話でなければならない
今年いわきスポーツクラブは、令和6年度のスタジアム・アリーナ改革推進事業者に決定。Jリーグへの計画提示まで1年を切ったこれからは、以前の検討内容を踏まえ、スタジアムの具体像を考えていく。
ここで関係してくるのが以下、Jリーグが掲げる「理想のスタジアム」4要件だ。
上記を満たした上で、新スタジアムとはどのような姿が望ましいのか。今後は場所、ファイナンス、そして実際の仕様などを詰めていくことになる。
まず、どこに建てるか。4要件の①から考えれば、スタジアムと地域資源を掛け合わせ、より多くの経済効果、社会効果、そして地域の活性化を生み出す場所でなければならない。つまり、広大な土地があるから人里離れた山の中に作ろう、とはならない。
実際、いくつか考えている候補地こそあるが、まだこれからだ。ただしどこになるにせよ、いわき市を始めとする自治体の都市計画に準じる話でなければならないし、地権者交渉もある。
そして場所が決まった後は、「民設民営」を基本とした上で、誰が事業主体となってスタジアムを建設するのかを考えねばならない。簡単に言えば「誰がどのような形でお金を出すのか」ということ。その座組みを今後はっきりさせる必要もある。
繰り返しになるが「いわきFCのためのスタジアム」ではたぶん成立しない。
この場所をきっかけに、今いる現役世代がどのように地域を変えていくのか。そして子供達の未来がどう輝いていくのか。上手くいけば、人口減少が進む地方において、スポーツの力で地域を変えるハブとして機能できるかもしれない。そのモデルケースになれたら非常にうれしく思う。そのことを今、いろいろな場所で説明して回っているところだ。
■ハワスタで得た学びは、新スタジアム建設に必ず生きる
チームがJ2に上がったことで、明らかに応援してくださる方が増えてきた。ここまで上々の戦績を残していることもあり、ホームタウンの皆さんの関心の高まりを肌で感じている。
2024シーズンではここまで、1試合平均4144名(※J2全20チーム中15位)の方々に来ていただいた(第24節終了時点)。2023シーズンの平均から大幅に増加しており、第10節の清水エスパルス戦と第13節のジェフユナイテッド千葉戦では5000名を超える方々が来てくださり、グッズや飲食の売上も大きく伸びている。本当にありがたいことだ。
クラブの成長とともに、観戦環境をできる限りアップグレードさせてきた。非常に大きかったハワイアンズスタジアムいわきの通信環境の問題は大幅に改善された。だが、まだまだ課題は残っている。例えばキャッシュレス端末が一部機能しなかったり、入場時の待機列の問題、あとは駐車場の問題もある。
他にも細かいことを言えばたくさんの課題があるけれど、常にお客様の声を聞きながら素早く動き、今できることを最大限にやっている。それにより、いわきスポーツクラブ社内に多くの知見が溜まりつつある。そして今、ハワスタで取り組んで得た学びは、新スタジアム建設に必ず生きてくるだろう。
ハワスタの今の熱狂空間がもっと規模の大きい新スタジアムで実現されたら、いったいどうなってしまうのだろう。想像するだけで胸が熱くなる。素晴らしい未来に思いをはせつつ、今ここにある課題の数々と向き合っていきたい。
(終わり)