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新年のご挨拶 〜10周年と再起動【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】

▼プロフィール
おおくら・さとし

1969年、神奈川県川崎市出身。東京・暁星高で全国高校選手権に出場、早稲田大で全日本大学選手権優勝。日立製作所(柏レイソル)、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビルでプレーし、1998年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015年12月、株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役就任。

■「次の10年」に向かう重要な1年


謹んで新春のお慶びを申し上げます。
昨年は弊クラブに対するご支援、ご声援、誠にありがとうございました。本年も変わらぬご支援をいただけますこと、よろしくお願い申し上げます。

2015年12月に誕生したいわきスポーツクラブは今年、10周年を迎える。これまで大きな成長を続けてきたクラブの経営が少しずつ成熟段階へと入っていく中、どのような手を打って「スポーツを通じて社会価値を創造する」というミッションを達成していくのか。チームはどのような戦いを見せて熱狂空間を創出し、地域の皆さんの心に寄り添い続けるのか。

2025年は「次の10年」に向け、とても重要な年になるだろう。

今年について語る前に、まずは昨年を振り返っていく。詳しくは昨年末に行われたクラブカンファレンスの内容もぜひ参照いただきたい。

2024年は「UNLEASH」(=解放する)というスローガンを掲げた。これは2023年の反省を踏まえたものだ。

一昨年はJ2昇格によって周囲からの注目も集まり、選手もスタッフもどこか浮ついた雰囲気のままシーズンに入った。はっきり言えば準備不足。そしてケガ人が多く出たことに加え、初めてJ2を戦う選手がほとんどで戸惑いも多かった。その結果、開幕第一節の厳しい敗戦が尾を引いて下位に低迷。シーズン中盤からどうにか立て直し、辛くも18位でJ2残留を果たしたが、多くの反省が残った。

チームを見ていて、これまで持ち続けてきたサッカーへの純粋な思い、やろうとしてきたことが失われつつある気がした。だからこそ今一度「サッカーが好きだ」という思いを解放し、もっと純粋に自分と向き合ってほしい。そう思って掲げたのがUNLEASHというスローガンだった。

2024年は約半数の選手が入れ替わったが、J2での経験値を増したことは大きかった。J3とのレベル差を理解し、キャンプでもいい準備ができた。開幕節で水戸ホーリーホックに敗れはしたが、内容はそれほど悲観するものでもなかった。そして第二節のファジアーノ岡山とホーム開幕戦で、終了間際にFW谷村海那のゴールで同点に追いつき引き分け。チームはそこから徐々に調子を上げていった。

上々の成績を収めた大きな要因が、フィジカルトレーニングに対する取り組みの変化だろう。

これまで強みとしてきたフィジカルにおいて、J2の対戦相手の選手もそれなりにレベルが高く、簡単に差はつけられない。その上で昨年、選手達の動きを見ると、俊敏さが足りずにどこか鈍臭さを感じたり、球際で競り負けることが多かった。継続的なストレングストレーニングで基本的な身体作りはできていても、それが試合での動きに生かされていない印象があった。また、ストレングストレーニングとスプリントトレーニングの連携も今一つと感じていた。

今まで取り組んできたストレングストレーニングのメニューをさらにサッカーに生かし、もっと速く、強くなる。そのために「日本のフィジカルスタンダードを変える バージョン2」と名づけ、トレーニング内容の見直しを図った。

友岡和彦ストレングス&コンディショニングコーチと秋本真吾スプリントコーチの二人と念入りに計画を練り、これまでのやり方を踏まえて新しいメソッドにチャレンジ。ストレングスとスピード、サッカーの技術の連携を図っていった。その結果、選手達は上々のパフォーマンスを示し、負傷者の数も減少した。

■DF堂鼻の獲得と石田の成長

チームは序盤戦から勢いを出し、J2で中位以上をキープし続けた。そんな中、夏場に大きな試練を迎えた。今年FC今治から新たなCBの核として獲得したDF照山颯人がV・ファーレン長崎に移籍。いわきの環境に慣れ、試合の中で存在感を示しつつあった矢先の出来事だった。

この時は正直「チームが崩れてしまうのではないか」という危機感があった。そんな中、福島ユナイテッドFCから来てくれたのがDF堂鼻起暉だ。

同じ県のユナイテッドさんから選手を獲得することには正直、複雑な思いもあった。ただし夏の移籍だけに未知数の選手を獲るのはリスクが高い。彼のことは対戦相手として何度も見てきたし、キャプテンでもあり性格の真面目さも聞いていて安心感があったのは確か。何より本人が難しい状況の中、覚悟を決めて来てくれた。そして加入1試合目でゴールを挙げ、インパクトを残した。夏場の連勝は彼の存在なしに語れない。

堂鼻は先日契約を更新し、来年もいわきFCで戦う。まだまだできないことも多いが、自分を客観視して分析できるので、今の自分に何が足りないかを理解している。性格的にもいわきFCに合っており、とてもいい補強だったと思う。

もう一つ大きかったのが、DF石田侑資の成長だ。一昨年はケガで満足に出場機会を得られなかったが、昨年は格段によくなった。もちろん課題はたくさんあるが、起用し続けることで成長していった印象がある。

彼らの活躍で照山の穴を埋め、不安を払拭できたのは大きかった。とはいえ今後もシーズンの中で、夏の移籍は覚悟せねばならない。今年からは年2回チームを編成するイメージを持たねばならないだろう。

また今年は育成型期限付き移籍でMF西川潤、DF大森理生、MF大迫塁、FW棚田遼、そしてFW熊田直紀、MF柴田壮介をJ1クラブから預かり、鹿島アントラーズから来ていたMF下田栄祐は育成型期限付き2年目を迎えた。

みんながきっちりと身体作りの成果を示したし、全員を強くできた。もともと能力の高い選手達だけに、重要な戦力にもなってくれた。今後進む道はそれぞれだが、若い彼らにとって大切なのはメンタルコントロール。自己犠牲を強いられる状況で自分自身に厳しくし続け、それぞれのチームを勝利に導く存在に成長することを願っている。

そして今年も引き続き、若手選手をJ1からの育成型期限付き移籍で迎え入れる。我々が選手に求めるレベルは高い。「今はJ1で試合に出られないけど、いわきに行けば成長できるかも…」程度のマインドでは、J2で1年間戦い続けることは難しい。だからこそ、しっかりと覚悟を持って来てほしいと思う。

■上位クラブとの差

シーズンでは15勝9分け14敗の勝ち点54で9位。終盤近くまでプレーオフ進出の可能性を残すなど、選手もスタッフも本当によくやってくれた。

ただし、J1に昇格した清水エスパルスや横浜FCなど、上位クラブとは力の差を感じた。特に優勝、昇格プレーオフ圏内入りがかかった終盤の戦いで、ファジアーノ岡山、清水エスパルスはしっかりと力を発揮してきた。

例えば清水にアウェーで0対1で敗れたゲーム。昨年と比べてスコアは大幅に改善されたが、決して一発のセットプレーで敗れたわけではない。あれだけ押し込まれたのは、総合力の差があったと言わざるを得ない。

ここで言う力の差とは個人の能力というより、11人+7人のデザインの中での総合力の差だ。もちろんこちらもFW熊田などサブの質は高かったが、特に残り5試合で、総合力で優位に立たれたことを痛感した。FW谷村が警戒され、チームの戦術も分析されていく中、守備が耐え切れなかったことも反省として残る。

ただし、上位チームとの差は追いつけないものではまったくない。それは選手が一番わかっているだろう。たとえ点を取れなくても我慢できる試合運び、そして負けそうな状況でも勝ち点1を積み上げられる戦い方ができれば、来季さらに順位を上げられるはずだ。

一方、現状のクラブ規模から考えれば、この9位という成績は決して悪いものではない。

ホームゲームの観客動員は順調に伸びている。J2昇格初年度の2023年が平均約3,400名であったのに対し、J2参入2年目の昨年は平均約4,300名。比例してチケット収入も2023年の8,900万円に対して1億2,800万円と大幅にアップした。そしていわきスポーツクラブの売上は2022年の約8億円に対し、2023年は約10億円。そして2024年は約14億円となる見込みだ。この14億円のうち移籍金が約12%を占めるが、これは毎年得られるものではない。ゆえに今の実力値は約12億円といったところだろう。

観客動員も売り上げも大きく伸びているが、現状のクラブ規模や選手の年俸でいえば、J2中位である。そんな中、我々は何を武器に勝利を目指すのか。

答えは以前から変わっていない。

我々の最大の強みはチームビルディング。中でも我々が創設時から徹底的に取り組んでいるのが身体作りであり、それを担うのはクラブだ。

ただ若い選手を連れてきて、現場に預け、はい終わり、ではない。我々はクラブとして、優れたポテンシャルと強い成長意欲を持ち「この仕組みに入れたら変わるだろう」という期待を持てる若い選手を獲得する。そして彼らをチームビルディングのプロセスに乗せて鍛え上げる。そして彼らの成長を勝利と相関させていく。我々は育成クラブではない。若くポテンシャルの高い選手達を鍛え上げ「魂の息吹くフットボール」を展開することは「勝つため」のアプローチだ。

今年もこの方針がブレることはない。

■新スタジアムと人材育成

そして、いわきスポーツクラブの今年の活動について。

あらためて見直したいのが我々のストラテジーだ。いわきスポーツクラブのミッションは「スポーツを通じて社会価値を創造する」こと。その実現のため、以下5つの戦略を掲げている。

・スポーツファシリティの整備・運営
・魂の息吹くフットボールで熱狂空間を創出する
・世界基準のチームビルディング
・地域との一体化
・未来を担う人材の育成

「魂の息吹くフットボールで熱狂空間を創出する」「世界基準のチームビルディング」「地域との一体化」については、福島県リーグから始まったいわきFCの戦いやいわきFCパークの整備などを通じて、さまざまな取り組みを行ってきた。今年はそれに加えて、いよいよ「スポーツファシリティの整備・運営」そして「未来を担う人材の育成」について、大きな一歩を踏み出す。

おそらく多くの方々が関心を寄せていらっしゃるであろう新スタジアムの建設については場所の選定を進めつつ、検討委員会「IWAKI GROWING UP PROJECT(I.G.U.P)」を通じて、スタジアムのあり方についての議論。現在はI.G.U.Pの分科会において、試合のない345日においてのスタジアムの活用、周辺の経済効果、社会効果、いかにして地域の皆さんに役立てるか、そしてどのような形でマネタイズするか、といったテーマで意見交換を行っている。

そしていよいよ今年6月、Jリーグに対する具体的な整備計画を提出する。具体的には場所とスタジアムの使用、事業主体といったことを、Jリーグに提示せねばならない。

これについては「まちづくり」の視点で行政としっかりと連携する必要があるのは言うまでもない。ただスタジアムを建てるだけでは地域の振興に貢献しない。いわき市を始めとする浜通りが多くの人でにぎわう未来を創出する。その絵を描けないことには、スタジアムを建設する意義は見つからない。そのためにも場所の選定とスタジアムのコンセプト策定は非常に重要。計画が順調に進んでいけば、2031年の開幕を新スタジアムで迎えることとなる。

そして「未来を担う人材の育成」についても、二つの新しい取り組みが始動している。

まず一つ目が「GROWTH FOR TOMORROW 〜みらいへのつばさプロジェクト」だ。今回、福島県と「福島県におけるこどもの居場所への支援に係る連携・協力に関する協定」を締結。いわきFCから羽ばたいた選手が残した移籍金収入の一部を「ふくしまこども食堂ネットワーク」に寄附し、寄附金はホームタウンを中心に福島県のこども食堂に分配される。

いわきFCで優れた選手を育て、そこで得た移籍金の一部を地域の子どもに還元する。選手を育てた結果得られた移籍金を単なるクラブの収入で終わらせず、地域の子どもたちの未来に向けた投資に充てる。

このサイクルはいわきスポーツクラブを立ち上げた時からの思いであり、かねてから目指していた循環である。そして今回、福島県と協定を締結したことも大きい。いわき市からスタートして浜通りへと広がった我々の活動を、福島県全域へと波及させる流れを作ることができた。

また昨年12月下旬には、いわき市内の廃業となった旅館を活用し、アカデミー向けの寮を立ち上げた。

現在、福島県外や遠方からの加入希望者が増えており、彼らに栄養価の高い食事を提供するなどして、育成環境の充実を図っていく。加えて特別指定選手や入団間もない若手選手や練習生らの住環境も整備でき、大きなメリットとなるだろう。

ただし、県外から育成年代の有望選手を積極的に獲得するつもりではない。育成はこれまで通り近隣地域の子ども達をメインにU-15とU-18の合計6年間で考え、高校卒業後は大学に進学してもらう方針に変わりはない。

未来を担う人材の育成についてはこれまでストラテジーの中に掲げながら、まだまだやり切れていないことも多かった。地域とクラブが一体となって、子どもたちの未来を支えていく。それは、2015年のクラブ創設から目指し続けてきたこと。今年ついに始まる取り組みを、本当にうれしく思う。

■今一度足元を固め、謙虚に貪欲に

今年10周年を迎えるにあたり、これまで支えてくださったファンの皆様に、あらためて感謝の思いを伝えたい。我々は今一度足元をしっかりと固め、2025年も謙虚に貪欲に戦っていく。

東日本大震災から14年。我々はまだ何者でもない。90分間止まらず、倒れずに走り続けること。浜を照らす光となること。10年前に我々が志したことは、まだ何も達成されていない。

We are just getting started
我々はまだ、始まったばかりだ。

2025年のいわきFCに、ぜひご期待ください。


令和7年1月1日
株式会社いわきスポーツクラブ
代表取締役 大倉智

(終わり)

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