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トランジションデザインの実践: 京都から2050年の生きがいを夢想する(その1)

米カーネギーメロン大学デザイン学部が2015年に提唱した、トランジションデザインという新しいデザイン論について、本noteでは度々記事を発信してきました(文化をデザインするTransition Design その1 その2)。

この夏、京都工芸繊維大学KYOTO Design Labにて、招聘デザインリサーチャーとして活動する(関連記事その1 その2)中で、京都という歴史都市で、まだ世界でもほとんどケーススタディの無い、トランジションデザインの実践に挑戦していたので、本記事では8/8に水野大二郎先生と行った、最終セッションの内容をまとめます。

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本セッションは3時間の参加型形式で、参加者の方にも手を動かしてもらいながら、トランジションデザインの中核をなす「全体子モデルの構築」「過去からの逆照射」といった概念の理解を得ると共に、実践への応用可能性やデザイナーの再定義について議論を行いました。

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背景: デザインの射程の現在

「デザイン」という言葉は従来のプロダクトやコミュニケーションという範疇を越え、体験、サービス、ソーシャルイノベーションとより社会性を孕んできており、その先にある文化や政策、社会のデザインというレベルにも拡張されようとしています。

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また、デザインの目的も、目の前の問題を解決するためのデザインだけでなく、スペキュラティブデザインに代表される、問題提起のためのデザイン、また、近年のSDGsなどの標語の盛り上がりと共に、持続可能な未来へ橋渡しするためのデザインと、その目的にも種類があると考えています(この話は別途記事にしたいと思っています)。

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その2軸で近年のデザイン論のバリエーションを整理し、今回はその中でも、元々デザインの対象が拡大していった先にある超大規模・包括的なデザインとして注目をしていた、持続可能な未来に向けた、社会規模の価値観の変化をデザインするトランジションデザインの実践を京都で行いました。

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理論: CMUが提唱するトランジションデザイン

トランジションデザインは、2015年、アメリカのカーネギーメロン大学(CMU)デザイン学部により、地球規模の巨大な問題に対して、社会規模の価値観の移行をデザインする理論として提唱され、論文発表やオンラインでマテリアルを公開するなど、戦略的に展開を行なっています。

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一方で、非常に大きなデザイン理論のため、学際的な心構えや態度が語られているものの、提唱者のTerry Irwinらはデザインの実践者ではないこともあり、実践で使えるツールについては発展途上の段階で、具体的な事例はアメリカでもまだほとんどない状態です。そのため、今回は実践の中で理論を読み解きながら、ツールも開発しながら進める必要がありました。

まずはトランジションデザインの理論を読み解き、実践型のプロセスとして私が独自に以下のように解釈・定義しました。ここで語られているいくつかの重要な概念を紹介します。

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1. Mapping Wicked Problem
トランジションデザインでは、地球規模・惑星規模の複雑な問題(Wicked Problem)を対象とします。気候変動、貧困、移民問題といった、単一のソリューションでは解くことが不可能な、また完全に解決するということももはや不可能なスケールの問題に対し、人々の価値観やライフスタイルはどう変わっていけばいいのかをデザインします。

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2. Mapping multi level perspective
トランジションデザインでは、巨大な問題が様々な分野・階層の要素が複雑に絡み合っていることを理解した上で、全体子(Holoarchy)モデルという考え方を大事にします。

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このタスクは分子・細胞レベルから惑星レベルまで、全ての要素はOne for all, All for oneの相互依存性を持っているという考え方のもと、見ている視点をマクロ視点・ミクロ視点と多層的に上げ下げしながら問題の根本原因や、相関関係を探っていきます。

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理論の中では鍼灸師(Acupuncturist)という単語が出てくるのが特徴的です。ある点を打つと、体全体の血流や淀みが解消するように、全体のシステムを頭に置きながら、淀んでいる要素を発見するのがトランジションデザイナーの役割です。

今回のセッションでは、このマルチレイヤで社会システムを捉えるという試みを、理論では紙の上で2Dでやるところ、タンジブルな3Dの参加型ツールとして新たにメソッドを開発し、おそらく世界で初めて参加型セッションで実験的に試行してみました(詳細は次回の記事にて)。

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3. Visioning Future Lifestyle

マクロ・ミクロ視点で社会システムや、その裏側にある人々の価値観を明らかにしたら、そのインプットをもとに、2050年・複雑な問題がまっさらに解消した、理想的な世界のシナリオを思い描きます。

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2点、トランジションデザインの特徴を挙げるならば、
1つは、技術ではなく人々の価値観の変化や遷移を捉えること。なぜその問題が発生したのか、なぜ今人々はそのサービスを求めているのか。それらのインプットから、未来の価値観を夢想します。HOWをデザインするのではなく、WHYをデザインする理論です。シナリオを描くことで、サステナブルな社会に向けたスローガンやキーワードのレベルから、未来の解像度を上げる試みと言えるでしょう。

もう1つは、現在〜未来だけでなく、過去もみること。商業的利益を上げるための速い知恵(Fast Knowledge)に対応する言葉として、時間のかかる知恵(Slow Knowledge)という言葉が96年、環境学のDavid Orr教授から提唱され、トランジションデザインの大事な概念になっています。これは人が何百年、何千年続けてきた伝統やその土地固有の生き方、暮らしの知恵などは、意味があるから残ってきたはずで、それはきっと未来にも繋がっていくだろうという、人間本来の力や精神・知恵を信じる考え方です。

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4. Backcasting
トランジションデザインは、面白い未来を描いて終わりではなく、描いたビジョンから今何をすれば良いのかに戻ってくるバックキャスティングを理論に含めています。

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未来から返ってきた施策を実行してみて、結果をモニタし、ビジョンを修正する、そのサイクルが重要であると説いています。

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時に結果が形に現れるまで10年単位で時間がかかるということも理論では語られており、セッション内ではそのような超長期的なプロジェクトをどう設計・マネージすればよいのかが1つのトピックとして上がりました。これはCircular Economyやコミュニティデザインなどの分野でも同様の議論がありそうです。

次回予告

以上が、トランジションデザインの理論として語られている部分で、今回のプロジェクトでは、これを京都において実践し、京都から2050年の生きがいを夢想した結果として、パフォーマンスやプロダクトなど複数のビジョンを作成しました。

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次回は実践の結果、結局どんなアウトプットができたのか、参加型セッションの詳細、およびトランジションデザインと21世紀のデザイナーの展望をお伝えしたいと思います。

補足: もっとトランジションデザインの理論を学ぶ

そういえばトランジションデザインの提唱者のTerry IrwinのCMUでの講義も普通にYoutubeで配信されていたので、僕の記事みるより本人の動画見た方が良いと思います。本当良い時代になったものですね。



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NY在住のデザインリサーチャー。東大 → IBM Design → 現在はスペキュラティブデザインを探究すべく、NYのパーソンズ美術大学にてアンソニー・ダンに師事。日本から出て行くデザイナーのキャリアモデルを作りたい。学術と藝術のあいだで。
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