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おもいだす。アニメの日々。

TVアニメの制作進行をやっていた私は、その日も、アニメーターから回収したばかりの原画を車で運んでいた。新青梅街道の田無付近。時間は朝方4時頃だったと思う。他の車は皆無で、走っていて気持ちがいい。赤信号で止まったら、

いきなり自分の車に雷が落ちた。

バリバリバリという凄まじい音がした。そして、不思議なことに、車が勝手に走り出したのだ。落雷に驚いてアクセルを踏んでしまったのか。慌ててブレーキを踏み直したが、車は止まらない。勝手に動く車は、あれよあれよという間に赤信号のさなかの交差点に突っ込んだ。何がどうなっているのか、さっぱりわからないが、危ないことだけはわかる。歩行者がいたら、確実に跳ね飛ばしていた。冷や汗が出た。

車はそのまま交差点を通過した。斜めに走っていたようで、対向車線に進入し、ガードレールにぶつかって、やっと停止した。呆然自失である。なんで車に雷が落ちるのか。ブレーキとアクセルを踏み間違えたのでもなし、なんで車が急発進したのか。何もわからず、運転席で固まっていると、おもむろにドアが開いて、知らないおじさんに車から引きずり出された。

車から降りて、仰天した。車体の後部が、アルミ缶を踏んづけたみたいに、ぐちゃぐちゃに潰れていた。そして、後方、交差点をはさんで、さきほど私が信号待ちをしていた場所には、大きなトラックが止まっている。だんだんと状況が飲み込めてきた。あの轟音は、車のガラスが割れる音で、落雷によるものではなかった。私の車はトラックに追突されて、弾き飛ばされたのだった。

私を車から出してくれたのは、そのトラックの運転手だった。彼は責任をもって私を助け出し、救急車を呼んでくれた。車は半壊していたが、私自身の身体には何の異常もないように思えた。やがて救急隊員がやってきて、私は救急車に乗った。そのとき、思い出したのだ。私は仕事の途中だった。自分が所持している原画は、すぐに動画会社に手渡す予定だったのだ。事故現場は、その会社のすぐ近くだ。私は救急隊員にお願いをした。

「病院に行く前に、原画を渡したいので、取引先の会社に寄ってもらえませんか?」

そうしたら、「救急車はそんなことのためにあるものじゃない」と注意された。私は逆上した。当時の私は完全なワーカーホリックで、こんな状況でもどうにかして仕事を片付けなくてはいけない、と頑なに信じていた。ちょっと病的だったと思う。事故にあったことで気分が高揚していたこともある。私は救急車のなかで怒鳴った。「病院行かなくていいから、降ろしてくれ!」

救急隊の人々は、呆れた、というような表情を浮かべていたと思う。私は、いちど収容された救急車を降りて、動画会社まで歩いていった。会社に入ると顔なじみの制作進行がいて、原画を受け取ってくれた。ミッションを果たしたぞ!という満ち足りた気分になった。そのとき、先ほどの救急隊員が私を追いかけて会社に入ってきた。「あんた、やっぱり病院行ったほうがいいよ!」

そんなかんなで、私は再度救急車に乗り、病院に運ばれた。半日ほど病院のベッドで寝て、会社に帰ろうと思ったら、身体が全く動かなかった。全身がムチ打ちになっていたのだった。みなさんも気をつけてほしい。ムチ打ちはあとからやってくるぞ

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