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指先から光へと

しばらく距離を置いていたものにまた近づきたくなるのは、もうあの頃の自分に戻ることはないと確信したからだと思う。記憶と音楽は密接に結びついている。思い出しても前ほど寂しくなったり不安に苦しむことなく、淡々とそれらをまた沈めていける。その作業を安心してできる場所に今はいると思う。

ずっと好きだったバンドの曲がある時から聞けなくなったことがあった。ある曲を二度三度と繰り返し聞くうちに悲しみに近い感情がわき起こった。感傷もメランコリーも既知のものだったけれど、そこを飛び越えてどこか心の深いところが泡立つ感覚、何かが狂っていくような感覚と言えばいいのか。まだ忘れていないのだと思った。誰かのさよならに怯えて、だからまた別の誰かを求めて執着してを繰り返す。夕焼けと朝焼けを見るとなぜだか胸騒ぎがしていたあの頃。


しばらくぶりに聞いた彼らの新しい曲は、励ますでもなく救おうとするでもなく、振り返るとただそこにいてくれるような感じがした。歌詞の余白に想いを浮かべながら、あの頃より幾分厚みを増したボーカルの声に、本当に長い月日が流れて行ったんだと思った。

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