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フリーランスになるリスクとデメリット

この記事は2020年3月に公開され、2021年11月に加筆・修正されたものです。

こんにちは!獣医師の森田です。
皆様のお力添えもあり、最近ではフリーランスの獣医師というキャリアが周知され始めています。

そんな中、水をさすわけではありませんが
今回はフリー獣医師が負うリスクについて解説して行きたいと思います。

メリットに関しては様々な媒体で公表しているので、今回はデメリットにのみ焦点を当てています。
あらかじめご承知ください。

フリーランスの獣医師の実状をメリット・デメリットをご理解頂いた上で、ひとつの選択肢として捉えていただければ幸いです。

このブログでは"個人事業として開業し、動物病院と業務委託契約を結ぶ獣医師"と定義します。

賠償責任のリスク

賠償

個人事業主であるフリーランスの獣医師は被雇用者の勤務獣医師と違って、業務によって起こる全てに対して責任を負う義務が生じます。

特に重要なのは万が一の際の賠償責任の所在です。

例えば、

・獣医師が業務上の過失によって動物に怪我をさせてしまった
・獣医師の診療に携わる動物看護師が獣医師の過失によって動物に怪我をさせてしまった。
・獣医師が管理すべき動物が業務上の過失によって逃げてしまった


などの事故が起きてしまった場合、業務委託契約の場合は全ての責任を診療を行った獣医師本人が負う可能性があります。

あらかじめ動物病院と話し合った責任の取り方(○:△の割合で獣医師と動物病院が賠償費用を請け負う、賠償の上限は□を超えないものとするなど)を契約書に記載し、万が一の際の責任の所在をはっきりさせておくことがとても重要になります。

こういった事故は起こらないにこしたことはありません。
しかしながら、受け入れる動物病院側にもフリーランス側にも心理的なハードルとなってしまいます。

そういった心配に備えるため、私が運営する獣医フリーランスネットワークでは2022年の4月、社団法人化に伴い会員のフリーランス獣医師様に向けた獣医師賠償保険をプランニングしております。

Facebookグループにて随時情報を公開しておりますので、ご興味なる方はぜひご参加ください!

獣医フリーランスネットワークFacebookグループはコチラ

業務委託契約においては、
"業務上の過失は原則、診療を行なった獣医師本人が負うものである"
ということをフリーランスになる前に覚えておいて頂ければと思います。

契約上のリスク

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業務委託の体裁をとっていながら、実態は指揮命令関係があり、労働者のように扱っている(働いている)場合、偽装請負という違法行為にあたり動物病院側が厚生労働省からの指導、罰則を受ける可能性があります。

獣医師にとっての業務委託契約とは本来、委託された業務(診療や手術、検査等)を受託した個人が首尾一貫して自己完結することです。

偽装請負を防ぐためには診療をある程度自己完結できるスキルが必要であると共に、

・業務の遂行に当たって指揮監督を受けない
・一箇所の動物病院の業務に専属していない
・社員と共同で、社員と同じ内容の仕事をしていない
・始業・終業の時刻や休憩・休日、作業場所が拘束されない
・時間給、日給、月給等、時間単位ではなく
成果や作業内容単位で報酬が計算されている
・発注者の就業規則が適用されない

などの点に注意しなければいけません。
もちろん、どれかひとつでも当てはまらなければ即アウトというものではありません。

総合的に見て業務委託契約と言える内容であるか雇用契約のような内容であるかを判断されます。
また、ここで重要になってくるのが契約書です。

・業務内容の範囲
・契約期間
・委託費用
・守秘義務・個人情報の取り扱い
・契約解除、解約
・損害賠償
・不可抗力
・再委託
・権利帰属

について明記された、いわゆるちゃんとした業務委託契約書を用意する事がとても重要です。

万が一、偽装請負を疑われてしまった場合、必ず契約書のチェックが入ります。契約書作成を怠ると、いざという時に自分だけでなく、提携先の動物病院が被害を被ってしまいます。

動物病院によって上記項目の許容範囲や内容も大きく異なります。
個人事業主として動物病院と契約する際は偽装請負にならないよう、契約書を信頼できる弁護士さんや行政書士さんに作成してもらいましょう。

契約書作成でお悩みの方は獣医フリーランスネットワークまで気軽にお問い合わせください。

社会的信用のデメリット

クレジット

会社員と比べ収入が不安定な個人事業主は社会的信用が低く、各種審査に通りづらいことがあります。

具体的にはクレジットカードを作りづらくなったり、住宅ローンを組みづらくなったりします。

クレジットカードを作ったりローンを組んだりする予定がある人は、できるだけ会社員のうちに審査を済ませたほうが良いかもしれません。

あるいは後述する福利厚生のデメリットもありますので、
副業OKの会社であれば会社員としての籍を残しながら個人事業主としての活動を行うダブルワークなどもオススメです!

福利厚生のデメリット

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「フリーランスになると福利厚生が無くなる」
という話は皆さん聞いたこともあるかもしれません。

原則として、会社に所属する獣医師は
・厚生年金(+国民年金)
・被雇用者健康保険(組合健保、協会けんぽ、各種共済組合)

に加入しており、その他にも休業補償、退職金、産休・育休など会社ごとの福利厚生の恩恵を受けることが出来ます。

個人事業主とその従属者は
・国民年金
・国民健康保険

に加入することが義務付けられてはいますが、内容が大きく異なります。

〜年金の違い〜

国民年金+厚生年金のいわゆる二階建て保障と、国民年金のみの一階建て保障では(現在の年金制度において)将来的に貰える年金の額がかなり変わってきます。

2021:11:1資料.001

2021:11:1資料.002

詳細は割愛しますが、ご興味のある方は以前書いたnote「フリー獣医師と年金」を参照していただければと思います。

これらの数字はあくまで

・ずっと個人事業主として働いた場合
・現在の年金制度が今後も適応された場合

の数字ではありますが、フリーランスになるとその分将来の保障は手薄になります。

小規模企業共済付加年金、その他の資産運用方法を活用し、"自助努力"には一層力を入れなければいけないのがフリーランスです。

〜保険・保障の違い〜

会社員の獣医師は健康保険、労働保険に加入しています。
これらに加入することで健康保険証をもらえる以外にも下記のような恩恵を受ける事ができます。

・傷病手当金
病気や怪我で働けなくなり、給料が出ない時に支給されるお金。お給料の約2/3が最大1年半支給される。

・出産手当金
出産のために会社を休んでお給料が出ない時に支給されるお金。産前42日-産後56日の間、お給料の2/3が支給される。

・扶養制度
健保に入っている人は一定の収入以下の家族を扶養に入れることができる。扶養に入った人(奥さん、旦那さん、子供)は保険料を負担することなく保険証をもらうことができる。

一方でフリーランスは国民健康保険に加入する事が義務付けられており、保険証をもらえることは変わりないのですが、上記の手当金や扶養制度がありません。

つまり、"休んでいる期間は収入が途絶える"ということです。

自分で決めたルールで働く以上、提携先の会社が守ってくれるということはありません。怪我や病気についても自己責任が伴います。
これに対しては、自身で民間の保険(医療保険や生命保険)に加入し備える必要があります。
働けなくなった先の保障を自身で用意しなければいけないという点も自由の代償です。

まとめ

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以上、フリーランスとして働く上で感じたリスクやデメリットについて解説させて頂きました。

フリーランスは自由である一方、行動には常に自己責任が伴います。
かっこいい言い方をするとリスクとベネフィットは表裏一体なのです。

リスクと上手に付き合うためには、

・責任の所在を明記した契約書の作成
・万が一に備えての保障、保険への加入
・将来に備える貯蓄、資産運用
・信頼できる士業者との連携

が欠かせません。

また、フリーランスとして個人事業を開業する際は、慎重な判断が必要です。

僕はそれを誰に確かめたら良いか分からず、本を何冊も読んで手探りの中の開業しました。

そして、税理士さんや社労士さん、行政書士さん達にアドバイスを仰ぎ、
提携先の動物病院さんからの寛大な支えもあってようやくこのキャリアを形にすることが出来ました。

この恩はこれから先、フリーランスを目指す方々に返していきたいと思います。

独立を考える獣医さんへ、僕でよければいつでもご相談に乗りますので、TwitterやFacebookなど気軽にご連絡ください!

以上、自由な獣医さんこと森田慶でした!

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

著者:森田慶
Twitter:https://twitter.com/Jyellowgorilla

2016年 麻布大学卒業
最近、体重のことを気にして糖質オフの発泡酒に変えたが物足りず、罪悪感を感じながら結局ビールを飲んでいる。


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