雑文



「殺人現場を描きたい。必要な道具を用意して」

 と彼女が言ったから僕は100円均一の店で白い画用紙と6色入りのマーカーを買ってきた。彼女はまず苦痛に顔をゆがめた少女を描いた。そしてその少女に突き刺さるナイフを描いた。そして最後に傷口から流れ出る血を描いた。描きおえると彼女はマーカーを手に持ったまま僕の方を振り返ってにっこり笑った。「服を脱いで」彼女は言った。僕は言われた通りにする。彼女はマーカーで僕の胸から腹までを塗りたくった。血のような赤色で僕の上半身は染まった。

「こんなことをしていても何にもならない」

 と彼女は言った。こんなことってどんなこと?と僕は尋ねた。すると彼女は「オオタカの背中に乗って空を飛ぶこと」と答えた。

「気持ちよさそうだけど」と僕は感想を言った。

「そんなにいいものじゃないよ」と彼女はミルクをコーヒーに入れながら言った。香ばしい匂いが僕の鼻をつく。

「そもそもまず、人間1人を背中に乗せることができるようなオオタカは現実界には存在しない」 お尻の大きなウエイトレスが僕たちのテーブルのそばを通り過ぎていく。顔に大きなアザのある老人のコップに水を注いで厨房へ去っていく。尾てい骨のあたりに小さな糸くずがついている。老人の隣の大学生は本を片手に読みながらオムライスをむしゃむしゃ食べている。


「だから、まず私は幻想世界に行かなければいけない」彼女の言葉に僕は頷く。

「そしてそこで、卵からオオタカを育てなければいけない。たくさんの愛情を注ぎ、時間をお金を犠牲にしてオオタカを大きくしなければいけない」僕は目を閉じる。

「それでも成功するかどうかはわからない。運の要素もからんでくるから。そして仮に巨大なオオタカを育てることができたとしても、まだ問題は残っている」僕はレモン水を口にする。

「安全性の問題だ。振り落とされることなくオオタカの背中に乗り続けることは難しい。ゴーグルやパラシュートも必要だ。用意するものはたくさんあるし、訓練も必要になるかもしれない。保険にだって加入しないと」

「現実界で、遺伝子組み換えで巨大なオオタカを作るという方法もあるけど?」と、いきなり僕は言ってみた。彼女は少々戸惑った表情を見せた後でこう言った。

「なるほどそれでもいいかもしれない。でも依然として安全性の問題は残る」


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大学卒業後ずっと書き続けていた日記や雑文や小説などを投稿していこうと思います。面白いかどうかはさておいて、とにかく量だけはたくさんあります。今までそれしかやってこなかったからです。試行錯誤しながらやっていきたいと思っています。

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