雑文


 文章を書こうとすると決まってこうもりが現れた。僕はこのこうもりを心の底から憎んでいた。このこうもりが僕の頭の周りを飛んでいる間はいかなる文章も書くことが出来なかった。こうもりは書き上げた僕の文章にケチをつける。センテンスごとにあそこが駄目だ、ここが繋がっていない、この比喩は不必要だ、君には才能がない、今すぐ筆を折りたまえ、うんぬんかんぬん…そんな罵詈雑言を次から次へと僕に投げかけてくる。その悪口を聞いていると僕はもう、2度と文章など書いてやるもんかという気持ちになってしまう。このせいで何度多大な不利益を蒙ったかわからない。このこうもりのせいで僕は書き上げるべき時に書き上げるべきものを書き上げることができない。

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 ここには誰もいない。なぜそんなことがわかるのだろう?僕は自分に問いかけてみる。誰かがそう言ったからだ、という答えを自分の記憶が返してくる。しかしその誰かの顔と名前までは思い出すことは出来なかった。覚えていることと言えば空が青かったこと。焚き火が何かがとても暖かかったこと。それから何かとても甘くて美味しいものを食べながら歩いていたこと…。それぐらいのものだ。

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 たくさんの豚がいた。木の柵で囲まれた…100平方メートルほどの土地の中で数十頭の豚が放し飼いにされていた。みんな思い思いに奇声を発したり糞をひりだしたりしていた。

 ここがどこなのかということは不思議と気にならなかった。ニューヨークとパリと東京と北京とジャカルタの間にどんな違いがあるというのか?それはもちろん目をこらしてよく見てみれば違いは100個でも200個でも見つけることはできるだろう。しかしそんなものは僕にとっては差異でもなんでもなかった。僕が望んでいたのは圧倒的な特徴であった。それは別に光輝く王冠でもあるいは痛々しい傷でもよかった。認識した瞬間に納得できる何かであれば何でもよかった。僕はそれだけを望んで生きてきたのだが…結局それを手に入れることはできなかった。だから僕は自分が今いる場所だとか、自分が今話している相手が誰なのかということについてさっぱり興味を持つことが出来なかった。どこまで行ってもそこは「ここ以外」で、誰であろうがそれが「僕以外」であることに変わりはなかった。しかしこんな話はもうやめよう。あまりにも抽象的すぎる…


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 林檎飴だった。と、ふと僕は思い出した。あの時食べながら歩いていたのは林檎飴だったな、とふと今思い出した。

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