ギュスターブの思索

欲望とは何だろう?


僕は問いかける。僕すなわちギュスターブは問いかける。。

床に敷かれた熊の毛皮の上に寝転びながら、僕は考える。

欲望とは何だろう?


問いかける前にすでに答えは出ている。「もう1度やりたいことだ」と。


彼は考える。僕はもう1度ルイーズの体に触れたいと考えているのだろうか?いや違う…。もっと問いは正確になされなければならない。「ルイーズの体にもう1度触れるところを想像したとして、僕はそれを嬉しく思うのだろうか?」


 正直なことを言えば、僕は嬉しいと思うだろう。しかしそれは肉の喜びではないのだろうか?精神に到達した時の喜びとは大分違うものであるように思う…。いや、それでも欲望は欲望なのではないだろうか?


 リュシウク・ハーネムの体には僕は触れなかった。一晩中彼女の体を眺めて過した。いつか読んだ中国の物語に出てきた、長年かけて貯めた金でようやく買ったのにも関わらず、連日の疲れで思わず眠ってしまった娼婦を起こすこともなく、一晩中眺め続けてそれで満足した男のように。リュシウクの体には僕は触れなかった。しかし僕は彼女の体に触れたいと思っている。「1度触れて、その時の体験が非常に面白かったから、もう1度触れたい」と思っているわけではない。「1度目は触れることができなかったから、今度こそは触れたい」そう思っているのだ。


 ある状況を想像し、そこから快感を得ることができるならそれを「したい」ということでいいのだろうか?ならばある状況を想像しても、そこから苦痛しか得ることができないのならそれは「したくない」ということなのだろうか?…なら僕にとって苦痛とは何だろうか?大学に行って法律の勉強をしていたことだろうか?…しかし楽しいことも経験したのだ、あの時期には…。そして快楽の中にも苦痛はある。ルイーズとの思い出の中には、数多くの苦痛もあったのだ。だとすれば欲望とは何なのだろうか?

 かつて触れたことのあり、もう1度触れたいと思っているルイーズ。その幻影が僕の前に現れる。そしてかつて触れたことがなく、だからこそ1度だけでも触れたいと思っているリュシウク。その幻影も僕の前に姿を現す。そして…


 僕は何も書かれていない便箋を取り出し、宛名のところにまずこう書く。

「ルロワイエ・ド・シャントピーへ」

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