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【物語】アリスの冷蔵庫はみどりいろ


調子は悪くないんだよね、冷蔵庫。でもそろそろかなー。かれこれ25年になるし。

電気代、意外とかかってるかもだし。。


アリスは里帰り中の娘と何度となく出かけたショッピングセンターで冷蔵庫を目にするにつけ、徐々に買い替えの欲求を高めていたのです。



これは、元パパがマンションを購入して間も無く、それまで元気だった冷蔵庫がお逝きになって慌てて量販店で購入したんだったな。

あの時我が家は間違いなく幸せな家族だった。

次女の小学校入学に合わせて購入したマンションは、2階の角部屋。

お隣さんは次女と同い年の愛ちゃんと年子の妹の佳ちゃんの4人家族。気さくな奥さんとはすぐ仲良しになれた。

引っ越してすぐ入学式を迎えた次女はアウェイでかなり緊張してたので、一緒に登校できるお友達がいるのはとてもありがたかった。

マンションの隣の一軒家にも同い年のあおいちゃんと、長女と同い年のお兄ちゃんまでいて、「このマンションは我が家のために準備されていたんじゃん!」と、順風満帆、怖いものはいっこもなかったな、あの頃は。

新しい生活が始まって間も無くの梅雨の頃だったかな。

冷蔵庫が冷えなくなっちゃって、

「うわー!!!ヤバイよパパ!冷蔵庫あったまってるよ〜」

いつも遅いパパが珍しく早めに帰れるからと、待ち合わせて一緒に買い物をして帰宅した。

冷蔵庫にしまおうと扉を開けたら異様な雰囲気。

電気がつかず、なんだか水浸し???


「うわー、ヤバイヤバイ。冷蔵庫壊れたみたい!

治んないよね。😭

買わないとだねー。お金あるー????」

「あるかってあるわけじゃないけど、さすがに冷蔵庫は買わないとだろ。」


早速トンボ帰りの如く街へ逆戻り。

遅くまで開いてる量販店で「冷蔵庫は白!」って頭だったのに、ドアの開きが合わず両開きタイプでしかも緑色を致し方なく購入したんだった。

それから10年後に離婚して、

逃げるように引っ越した先へも一緒に連れてって、その後3回の引っ越しもものともせず今も働きつづけてくれてるんだよね。


1回目は、小さなアパートで、冷蔵庫だけが台所にで〜〜〜〜んと大きすぎ。

子供たちが部活で使う氷やペットボトル、作り置きのタッパーや食べ残しをまんま入れたりするので、サイズダウンは考えられなかった。

出ていく私たちが、何を持って何を置いていこうと「なんでもいいよ」って何も文句も要望も言わなかったね。そう言えば娘たちのことは可愛がってくれたし大事に思ってくれてたな。

引越しは長女の彼氏が友達と手伝ってくれた。

当時大学生だった彼氏はたまたま引越し屋さんでバイト中。

ほんとタイミングがよかった。

彼氏の友達のA君はまちの電気屋さんの長男さんで、エアコンの取り外しと取り付けもしっかりやってくれたし、確か引越し代も「いいっすよ、みんなでメシ食えるだけもらえれば」って彼氏の言葉に甘えさせてもらって、1万か2万くらいしか渡してない。

出世払い。しっかり稼げるようになって、もう少し渡せるようにしなくちゃ!

って、あの時も心に誓ったんだった。


次の引越しもまた彼氏が手伝ってくれた。

ようやく少し広めの部屋に引っ越しできるってチョー嬉しかった!

3LDKの8階で、南東の角部屋。長女が探してきた部屋で見晴らしも良くて住み心地は抜群だったな。緑の冷蔵庫もちゃんと用意された場所に居心地良さそうだった!


その次。なぜかまたアパートに引っ越したんだよね。なぜかなー?

なんとなく居やすいという感覚があって決めたんだけど、またしても台所の大きさと緑の冷蔵庫は不釣り合いで、でも堂々と「なにか?」って顔して鎮座してたっけ。狭い台所ではっきり言ってちょっとお邪魔だったけどね。


最後はここ、3LDKの今の我が家にはちょうど良い大きさ。

引越しは毎回長女の彼氏が請け負ってくれて、かつてのバイト先とのつながりで手配してくれて。。緑の冷蔵庫が一番の大物で「ごめんね、毎回毎回。でも今度こそここが最後だから。」

中古だけど終の住処として購入したマンション。売っちゃおうかな〜って考えることもあるけど、また引っ越しとなったらやっぱり大変だし、最後って言ったのに〜ってなっちゃう。


25年前は致し方なく買った緑の両開きだったけど、引っ越しのたび不自由なく使えたのは両開きだったから。緑色のボディーは目に優しくそれでいて存在感があって、引越しのたびその場所に慣れるまでちょっと不安な私たちを、「大丈夫だよ、食材は任せて。みんな自分のことだけ考えて頑張れ。疲れて帰ってきたらほら、必ずほっとできる何かを入れておけばいいよ。鮮度は保っておくからさ!」って。たぶんそう言ってた。


引越しって、好きでやってる側面があるけど、実は場所に慣れるまで意外とストレスだったりする。

環境が変わってもお気に入りの持ち物が一緒だから安心できるとか、いつも顔を合わせる家族が一緒だから怖くないってことがある。

同じように家族の食を一手に引き受けてる、ってそれは言い過ぎだけど、緑の冷蔵庫がそこにいる台所は、なんとなく落ち着かない日々のなか、その場所に本当の意味で慣れるまでの心のよりどころになっていたんだよね。


壊れたら壊れたときのことだ。

元気なうちはこのままにしておこう。

「自分のタイミングで決めてね。みどりちゃんが疲れたーってなるその時まで安心して元気でそこにいなはれ♫」


これって過去をひきづってることになるんだろうか・・・・

いや、物を大事にしてるということになる。

いやいや、もはや物でもないよ。みどりちゃんだもん。



かくしてアリスは冷蔵庫の買い替えを据え置いた。

引っ越しするならまた連れて行けばいいやん!と思う一方で、引越しを決めたときにはみどりちゃんが「疲れたからそろそろね」と「バイバイ」って言ってくるかもな、とも感じるアリスなのでした。



【創作墨字:れいぞうこ】

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食材を冷やして鮮度を保ったり、アイスや氷を作ったり保存したり、もはや現代人の生活に欠かせない家電製品です。加えて台所にで〜〜〜んと居座って存在感を示し、もちろん中は冷え冷えなのだけれど、裏側の熱(温かさ)のように、なんとな〜〜〜くほんわかあったかい冷蔵庫。なんとはなしに母のように頼れて、食で困ったときには冷蔵庫が解決してくれることも多い。

アリス家では食材ばかりか心の拠り所にまでなってくれた冷蔵庫を創作墨字として創ってみました。

「冫」は氷を表します。頼もしいの「束」は袋に物を閉じ込めるの意があります。母のように温かい冷蔵庫。「日」はあたたかな煮物の象形です。食材を詰め込んで冷やして鮮度を保ち、そこから取り出された食材は温かい煮物となって皿に盛られ食卓で家族を癒します。母も子も、体も心もほっとしますね。


「冷」の漢字の成り立ち:「氷の結晶」の象形と「頭上に頂く冠の象形」と「ひざまずく人」の象形(「神意を聞いて、すがすがしい」の意味)から、すがすがしい氷を意味し、そこから、「ひえる・つめたい」を意味する「冷」という漢字が成り立ったそうです。

「頼」の漢字の成り立ち:「とげの象形と刀の象形」(「刀でとげのように刺す」の意味だが、ここでは、「柬」に通じ(「柬」と同じ意味を持つようになって)、「袋に物を閉じ込める」の意味)と「子安貝(貨幣)」の象形から、金品を袋に閉じこんで、「もうける」を意味する「頼」という漢字が成り立ったそうです。

「温」の漢字の成り立ち:「流れる水」の象形と「あたたかな煮物の象形と皿の象形」(「あたたかい」の意味)から「あたたかい」を意味する「温」という漢字が成り立ったそうです。



この記事はこちらの企画に参加しています。

チーム冷蔵庫さん、よろしくお願いします!!!!🤗



そしてさらにいつものこちらにも。5月のお題は「私の好きな緑色」です。



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追伸)

この記事はながた先生のこちらの記事からインスピレーションをいただきました!ながた先生ありがとうございます❤️




今日も最後まで読んでくださりありがとうございます! これからもていねいに描きますのでまた遊びに来てくださいね。