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連載小説 九本足のタコ(28)


オレはすぐに明石のタコ軍団のNo.2になった。トップはもちろん長老だ。オレは経験の浅い若いタコ達に人間に捕まらない術を惜しみなく伝授した。

面倒見の良いオレの周りにはいつも若いタコ衆がたむろっていた。彼らはオレの事をタコ造兄さんと呼ぶ様になった。


プラッチック製のカニを涎を垂らして見ていた若いタコに、よく見ろコレは罠だ、とカニの下に付いている銀色の大きな針の事を教えてあげたり、タコ壺に入って寝ているタコ達を片っ端から起こして回ったりした。

噂によるとオレのおかげで明石のタコは近年稀に見る不漁になり、人間達は明石のタコが絶滅危惧種になる日も近いと騒いでいたらしい。


夏の海水浴シーズンが近づいて来た。この時期は人間がモリを持って潜って来るから要注意だ、と若いタコ衆に注意した。

早速来やがったぞほら、オレが足で指した先にはシュノーケルと水中メガネを付けた人間が水面を泳ぎながら獲物を探している。若いタコ衆達は、ヤバいよヤバいよ、タコ造兄さんありがとう!と言って一目散に散って行った。


人間はモリを構えながら素潜りで此方に一気に向かって来た。オレは落ち着いて岩陰に身を潜めた。普通の人間にはオレの保護色を見破る事は出来ない。オレには絶対の自信があった。


つづく

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