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連載小説 下宿あだち(50)最終回


吉田先輩は第一志望だった一流国立大学に無事合格し、ポンタより一足先に下宿あだちを出て行った、先輩は別れ際に、美味しいお好み焼き屋が沢山ある街だから遊びに来いよ連れて行ってやるからな、とアパートの住所と電話番号を書いた紙を渡し、これはもう使わないから、と電気コンロをくれた、

神先輩は地元の国立大学に合格した、あれほど無口だった先輩は合格すると別人の様に明るくなり、吉田先輩の部屋で住人四人でお祝いパーティーをした時は初めて飲んだビールのせいか真っ赤な顔でペラペラ喋り出したのにはたまげた、引っ越しの時に持っている文庫本を全てポンタに置いて行ってくれた、

マッチ先輩は、来年はテレビのある下宿がいい、と他の下宿を見つけて引っ越した、結局四人の住人は全て出ることになり、来年の下宿あだちは一年生が四人入ることになるらしい、


ポンタは今日下宿あだちを出る、

ちょうど一年前と同じようにポンタは玄関前に立ち沢山の思い出の詰まった下宿あだちを見上げていた、

ここで過ごした一年、数え切れない程の出来事が走馬灯のように思い出された、錆びたポストに書いてある下宿あだちの文字は心なしか去年より薄くなった様に見えた、

日奈子と俊介とゴンが自転車で引っ越しの手伝いに来てくれた、ポンタは去年一人でここに来た、でも今は一人じゃない、いつの間にか増えた荷物を四台の自転車に分けて積んだ、

お城の内堀の水面が午前のフレッシュな日差しを受けキラキラと輝いている、古い城下町の小さな通りには間口の狭い長屋が隙間無く連なっている、


「ありがとう」

ポンタは下宿あだちを見上げて呟くと自転車のペダルを力強く踏み込んだ。



下宿あだち 完


長い間読んで頂き本当にありがとうございました。

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