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暗中模索

パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 14.

「低温長時間発酵」という言葉だけを頼りに配合や工程も全くわからないまま試作をしていたとき、こう思った。

「低温とはいえ冷凍するわけではないから長時間の発酵に耐えれる生地じゃないと。それならイーストはかなり減らすんだろうな。
イーストを増やして発酵時間を短くするのが間違った効率化なら、その逆である イーストを減らして発酵時間を長くするのは、恐らく方向性として合っているに違いない」

また、パンの魅力であり最高の手段と思える発酵だけれど、長時間労働を助長しかねない諸刃の剣でもあると思ったぼくは、こう考えた。

「中途半端な発酵時間にするから却って長時間労働になるんだ。いっそのこと発酵時間をかなり長くすれば、その間に家に帰ってご飯を食べ、お風呂に入って寝ることもできる。これでもっと美味しくなるならやるだけの価値はあるな」

このハード系の生地を長時間発酵させる製法は以前からフランスにあったようだけれど日本で広がるきっかけとなったのは、やはり志賀シェフだとぼくは認識している。
先日書いた料理王国さんのパン特集(2001年)から更に以前、アルトファゴスさんでの時代から志賀シェフはこの製法をされていた。
もしかしたら当時東京の職人さんの中には同様の製法をされていた方もおられたかもしれないけれど、少なくともぼくの知る限り関西で見聞きしたことはなかった。

ぼくはフランスでの料理修業から帰国するとき、料理、お菓子、パンの原書を何冊も購入していたのでこの試作の際には製法や配合なり、ヒントが載っていないかと調べてみたけれど所有するものの中には見当たらなかった。
だから暗中模索での試作になったし、完成したバゲットを試食したときのことをぼくはこう書いている。

これまでに食べたことのない味で、作った自分たちが驚いた。

「これで合ってるんですかね?」

「いや、わからん。志賀さんの作られた本物を食べたことがないし」

そこでぼくは志賀さんのバゲットを確認するため、バゲット2本を買うためだけに東京まで日帰りで行くことにした。
志賀さんのバゲットを食べたぼくらは「似てるよね?多分これで合っているよね?」と話し合い、うちの今のバゲットになった。

パクりパクられて生きるのさ 1.

こうして店頭に並べるようになったものの、とても美味しいとは思いながらぼくの中では一抹の不安が残り続けた。

つづく


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