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ヘミングウェイの6単語の小説

 noteで使っている機械学習のアルゴリズムはそれほど複雑なものではないのだろう。ベイズ統計をベースに教師なし学習で予測した他の記事を表示しているくらいのものなのではないかと思う。
 閲覧履歴を中心に、投稿した記事のタイトルをマイニングして(全文を解析しているようには思えない)、関連度が高い記事を抽出して、ランダムに出しているような感じがする。

 ネット通販のようにリコメンドが売り上げに高確率で直結するサービスならば、もっと確度をあげる必要もあるのだろうが、noteのようなプラットホームだと他のユーザーの記事が読まれるかどうかは収益に直結するとは思えない。
 noteの場合、広告が無遠慮に入ってくるわけではなし、ユーザーの個別のデータを云々するにしても他のサービスと比べたら明らかに偏っていそうだし、そもそもデータの量自体が突出して多いとも思えない。
 そういう意味で収益の柱がなんであるのかはなかなかに不思議なのだが、企業とのタイアップが増えているから、そういった方面で何かしらあるのだろうかと想像している(貢献度の低いユーザーですみませんねえ)。

 またもや前置きが長くなりすぎた。
 しかも書こうとしたのはリコメンドで表示された投稿から思い出したことで、機械学習はどうでもいいんだった。

 先日、ヘミングウェイの「6語の物語(six word novel)についての投稿が表示されて、とても懐かしくなった。
 6つの単語で物語を作る遊びのようなものだが、物語/小説というのは結局こういうものなのだよな、と納得し、文豪と呼ばれる人がつかんでいる本質のすごさに、若かりし頃の僕はノックアウトされたのだった。

 ヘミングウェイが賭けをして即興で作ったとされる6語の小説はこんなものだ。

「For sale; baby shoes, never worn(売ります、赤ん坊の靴、未使用)」

 有名な伝説だから知っている人も多いだろう。
 ヘミングウェイが作家仲間と呑んでいるときに賭けをして、その場にあったペーパーナプキンにささっと書いたと言われている。
 実話ならヘミングウェイらしくて格好いいけれど、実際にあったとしたらパパはきっとまたフローズンダイキリを飲んでいただろうし、場所はフロリダのキーウエストかハバナあたりのはずだ。
 パリかスペインである可能性もあるけれど、その頃すでにこんな芸当ができるほどになっていたかどうか疑問だし、ノーベル賞受賞後だとしたら飛行機事故の後遺症でこんなに陽気な遊びはしなくなっていたと思う。まあ、実話かどうかなど、どうでもいいことなのだけれど。

 要は「6つの単語」を並べただけで、誰もが単語の数よりも多くのことを想像する。小説のキモはそこにあるのかと、過剰に説明を加えなければ伝わらないのは技術が乏しい証拠なのかと、若い僕は衝撃を受けたのだった。
 同時に、俳句や和歌を習わずとも身近なものとして育つ日本の風土では、こうした6単語縛りのような感覚は理解しやすいようにも感じた。
 小説というものの本質は日本育ちの人間には捉えやすいのかもしれないと。

と言いつつ、それから40年近く経っても全然わからないのが現実です。

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