一挙版 幸せになりたいエルフの冒険 第五話 エルフと悪魔 前編
エルフの女の子デフィーは、
友達のダークエルフの女の子
フィリアと一緒に、
幸せを探す冒険の旅に出ました。
旅の途中で人間の女性作家の
シャイルを仲間に加え、
三人は広い草原を歩いています。
シャイル「そう言えば、
幸せを探すって言う
旅の目的は聞いていたけど、
目的地は聞いていなかったね。
これから何処に
向かう予定なんだい?」
デフィー「実は・・
詳しい行先は
まだ決めていないんです・・」
シャイル「そうだったのかい?」
フィリア「うん、
とにかく僕達が
今までに行ったことが
無い場所に、
探しに行こうと
思っているんだ」
デフィー「はい。
それでこの先に見える
あのカシマール山を越えて、
大陸の内陸側に行ってみようと
思っているんです」
シャイル「・・なるほどね、
分かったよ。」
少し表情が曇るシャイル。
シャイル「・・方角的に
そんな気はしてたけど、
やはりあの山を越えて
内陸側に行くのか・・」
デフィー・フィリア「?」
デフィー「どうしたんですか?
シャイルさん」
フィリア「何だか気が進まない
みたいだけど?・・」
シャイル「あっ、いや、すまないね。
実は最近町で
今話に出たカシマール山の
気になる噂を耳にしてね・・」
デフィー「?
気になる噂ですか?」
フィリア「どんな噂なの?」
シャイル「うん・・
あくまで噂なんだけど、
最近カシマール山に、
その・・
『鬼』が出るらしいんだよ・・」
フィリア「鬼!?」
デフィー「鬼・・ですか・・」
シャイル「ああ、そうらしいんだ・・
私は以前に何度か
カシマール山に
登ったことが有るんだよ。
でもその時は、
鬼を見たことは勿論、
鬼の噂も聞いたことは
無かったんだ。
だけど最近になって
鬼を見かけたって人が
何人か居るらしくってね・・
まぁ、
私が実際に見た訳じゃ無いし、
町の人から又聞きした話だから、
本当かどうかは
分からないんだけどね・・」
シャイルの話を聞き、
少し不安な表情になるデフィーとフィリア。
シャイル「それに町で聞いた気になる噂は
もう一つ有るんだ・・」
フィリア「えっ?何?何?」
デフィー「教えてください、
シャイルさん」
シャイル「うん・・
それが何でも、
最近カシマール山の方から
町に来た人達の中に、
まるで精気を
吸い取られてしまったように
無気力な人間が、
何人か居るらしいんだ・・
まぁもしかしたら、
中には元々
無気力だったって人も
居るのかもしれないけどね。
でも、
以前は元気で
ハツラツとしていた
町の人間が、
カシマール山から
帰ってきたのを境に、
まるで人が
変わってしまったように
すっかり塞ぎ込んで、
何も手に着かないほど
無気力な状態に
なってしまったって話も
聞いたんだよ・・」
デフィー・フィリア「・・・」
黙って顔を見合わせるデフィーとフィリア。
デフィー「シャイルさん・・
実は私達も、
数日前に立ち寄った町で
同じような話を聞きました」
フィリア「うん・・
鬼の話に、
無気力になってしまった人達の話。
怖いとは思ったけど、
噂話だったから
あまり信じては
いなかったんだ・・」
シャイル「そうかい・・
二人も耳にしていたのか。
鬼の噂と無気力な人間達、
両方ともカシマール山に
関係しているみたいだけど、
何か関連が有るんだろうか?・・」
デフィー・フィリア「・・・」
心配そうな表情を浮かべる
デフィーとフィリア。
シャイル「・・悪い話が続いてしまって
申し訳ないが、
気が進まなかった理由は
それだけじゃないんだよ」
デフィー・フィリア「?」
シャイル「さっきの話からすると、
デフィーちゃんも
フィリアちゃんも
カシマール山の向こう側、
つまりは
大陸の内陸側の地域には
行ったことがないんだよね?」
デフィー「はい、有りません」
フィリア「うん、無いよ」
シャイル「私は以前に何度か
内陸側の地域に取材や旅で
行ったことが有るんだけど、
内陸側はこっちの沿岸部と比べると
少し物騒と言うか、
治安が悪いんだよ・・。
だから内陸側に居る時と違って、
危険が伴うかもしれないんだ・・」
デフィー・フィリア「!・・」
デフィー「そうだったんですか?」
フィリア「・・知らなかったよ」
シャイル「ああ。
鬼や無気力な人間達の
噂の真偽は分からないけど、
そんな噂が広まるからには
何かしらの理由や
原因が有るんだと思うんだ。
そして
カシマール山の向こう側、
内陸側が物騒なのは事実。
つまりカシマール山を越えて
内陸側に行くことは、
このまま沿岸側で旅を続けるよりも
危険が増すことになるかも
しれないんだよ。
・・それでも行くのかい?」
デフィー・フィリア「・・・」
シャイルの予想外の話に
黙り込んでしまうデフィーとフィリアですが、
デフィーが口を開きます。
デフィー「・・シャイルさん、
ご忠告ありがとうございます。
カシマール山に登り
内陸側へ行くことは、
今以上に危険が伴うことに
なってしまうのかもしれません・・。
でも、
それでも行ってみたいんです!」
シャイル「!」
デフィー「自分がこれまで
慣れ親しんで過ごしていた、
勝手の知った場所に居続ければ
安心で安全なのかもしれません・・
でも、
それでは見ることの出来ないもの、
出会えないもの、経験できないことが
有ると思うんです!
私は今までずっと
森の中の狭い世界だけで
暮らしてきました。
そこは私にとって
安心して暮らせる
安全な場所でした・・。
でも、
それに甘んじて
慣れて勝手の知った
安心で安全な場所で
過ごし続けた結果、
新しい出会いや経験は
次第に少なくなってしまい、
『幸せ』も未だに
知らないままです。
そして思ったんです、
このまま同じ場所で
同じことを繰り返していては、
この先もずっと今までと
同じままなんじゃないか?
本当にこのままで良いのか?って・・
それで長年暮らしていた
故郷のビダーヤの森を離れて、
フィリアと一緒に旅に出たんです」
フィリア「デフィー・・」
デフィー「今まで長い時間当たり前に
繰り返し続けていたことを
急に変えるのは、
大変でしたし
怖かったです・・
辛いことも有りました・・。
でも、
そんなことが
気にならなくなるほど
得られたものが多かったんです。
旅に出てからの時間は、
森の中で暮らしていた時間と比べて
圧倒的に短いです。
だけど、
森の中で暮らしていた時とは
比べ物にならないほどの
出会いや経験をすることが
出来ました。
シャイルさんと出会えて、
一緒に旅をして、
今こうして話をしているのも
森を出て旅をしているおかげです。
もしもまだ
森で暮らし続けていたら、
こうしてシャイルさんと
話すことは勿論、
出会えてもいなかったはずです。
未知のものに出会うには
未知の場所に行かないといけない。
今持っていないものを
手に入れるには
今まで探したことが無い所を
探さないといけない。
幸せも同じだと思うんです」
シャイル「・・・」
デフィー「だからこそ、
例え危険かもしれなくても
まだ見たことの無い場所、
行ったことの無い場所が
有るのなら、
どうしても行って
見てみたいんです!
もしかしたらその場所に
幸せが有るのかもしれないから!」
デフィーの話を聞きながらも、
視線を落として何かを考えているシャイル。
その表情は厳しいものでした。
デフィー「ごっ、ごめんなさい、
長々と話してしまって・・」
シャイル「いや・・」
デフィー「でもカシマール山の
向こう側に行きたいというのは、
私の個人の勝手な思いです。
もしかしたら危険な目に
遭うかもしれない場所に、
私の都合で
フィリアやシャイルさんを
付き合わせる訳にはいきません。
だから別のルートを考え・」
シャイル「いや、行こう!」
デフィー「えっ!?」
フィリア「?」
シャイル「行こう!
カシマール山を越えて
内陸側へ!」
デフィー「で、でも・・」
シャイル「ふふっ、
私としたことが
つい弱気になってしまっていたよ。
この旅に同行させてもらったのは、
日常を離れて
今まで見てこなかった新しい世界を
見る為だったというのにね・・」
デフィー「シャイルさん・・」
シャイル「作家の私にとって、
あらゆる出来事や経験が
作品の糧になるんだ。
危険?
むしろ打って付けじゃないか?
何か起こればそれが
作品に生かせる
絶好のチャンスになる!
そんな機会が有るのに
行かないなんて選択肢は無いさ!」
フィリア「シャイル・・」
シャイルの意見を聞いて嬉しくなるフィリア。
フィリア「デフィー、
内陸側を見てみたいと言う思いは
僕も君と同じだよ。」
デフィー「フィリア・・」
フィリア「それに、
君が行く所なら、
僕は何処へでも
一緒に行くつもりだよ!」
デフィー「・・・
二人共、
本当に良いんですか?
危険かもしれないんですよ?・・」
フィリア「うん!」
シャイル「ははっ、
いつの間にか
立場が逆になってしまったね。
勿論、答えはオッケーさ!
望むところだよ!」
デフィー「フィリア・・シャイルさん・・
ありがとうございます・・」
嬉しそうに言うデフィー。
シャイル「よし!
行先は決まったね。
・・とは言うものの、
備えは必要だと思うんだ」
フィリア「備え?」
デフィー「備え?ですか?」
シャイル「ああ、
つまりは身を護る術のことさ。
二人は格闘技や護身術の経験が
有ったり、
今現在武器を
持っていたりするかい?」
デフィー「わ、私は一応
弓術の経験が有ります。」
シャイル「そうなのかい?」
デフィー「はい、
ちなみに武器と言う程では
有りませんが、
もしもの時に備えて
スリングショットを持っています。
本当は弓矢を持ってこれれば
良かったんですが、
旅で持ち歩くには嵩張るので
代わりに持ってきました。
勿論、
使わないで済むなら
それに越したことは
ないんですけど・・」
フィリア「デフィーの弓矢の腕は
すごいんだよ!
百発百中なんだから!」
シャイル「それはすごいね、
是非見て見たいよ。」
デフィー「はい、でも今は・・
機会が有れば」
シャイル「ふふっ、
楽しみにしているよ。
デフィーちゃんは弓術か、
フィリアちゃんはどうだい?」
フィリア「僕はデフィーと違って
遠距離の的を狙う
弓矢は苦手で・・
でも接近戦が主体の
体術なら得意だよ!」
シャイル「聞いておいてなんだけど、
二人共そんなことが
出来たんだねぇ・・
見た目からはまったく
想像できなかったよ」
照れくさそうに笑うデフィーとフィリア。
デフィー「フィリアの体術はすごくて、
私は体術の練習で一度も
フィリアに勝てたことが
無いんですよ」
シャイル「失礼を承知で言うと、
その見た目から
そんなに強いようには
見えないけど、
意外だねぇ・・」
フィリア「えへへ、
デフィーは優しいからね、
本気を出してないからだよ。
僕も一応護身用に
ナイフを二本持っているよ。
ナイフは護身以外にも
何かを切ったり捌いたり、
蒔を割ったりにも使えるからね」
シャイル「そうか・・
二人共小さくて可愛く見えるのに、
それぞれ武術の経験が有るんだね。
驚いたよ、
でもそれなら大丈夫かな」
フィリア「えへへ、
小さくて可愛く
見えるかもしれないけど、
僕達はシャイルよりも
長く生きてるんだよ」
シャイル「ああ、そうだった、
エルフは長命なんだったね。
見た目は幼く見えても、
人間の私より年上なのか・・」
フィリア「そうだよ、
これからは僕のことを
フィリアお姉ちゃんと呼ぶように」
シャイル「えっと、それは・・」
デフィー「もう!フィリアったら!」
フィリア「えへへ!冗談だよ。
それでシャイルは
何か武術や護身の経験は有るの?」
シャイル「実は私もフィリアちゃんと同じで、
接近戦主体の格闘術を少しね」
フィリア「ええ!?そうなの?
今度手合わせしようよ!」
シャイル「ふふっ、そうだね、
是非お願いするよ。
私よりも長く生きている
フィリアお姉ちゃんからなら、
まだ私が知らないような技術を
色々学べるだろうからね」
フィリア「えっへん!
そうだよ、
フィリアお姉ちゃんに任せなさい!
手取り足取り
色々教えてあげるよ!」
シャイル「お願いします!
フィリアお姉ちゃん!」
デフィー「二人共・・」
フィリア・シャイル「はははははっ」
シャイル「それにしても
本当に意外だったよ。
まさか二人が
武術を会得しているなんて、
外見からは
とても思わなかったからね」
フィリア「それはお互い様だよ。
僕達もシャイルが
格闘術をマスターしているなんて
思わなかったもの」
デフィー「はい」
シャイル「いや、
マスターと言う程では・・
子供の頃親に
無理矢理習わされたというか・・」
その頃のことを思い出し、
少し表情が曇るシャイル。
シャイル「まぁ、
この話はまた今度にしよう。
さて!
進路も決まったし、
備えが有ることも分かった。
それじゃあ
カシマール山に行くとしようか!」
フィリア「そうだね!」
デフィー「はい!」
デフィー達は大陸の内陸側へ行く為、
カシマール山に向かいます。
しばらく歩き続け、
長く続いた草原を抜けて
カシマール山の麓に到着した三人は、
少し休憩したのち山を登り始めます。
カシマール山は高い連山で、
大陸の沿岸側と内陸側を分断するように
三人の前に立ち塞がっています。
鬼が出る噂に加えて
無気力になってしまった人間の噂を
町の人達から聞いていたので、
警戒しながら登る三人ですが、
予想に反して道中は特に何も起こらず、
順調に登り進めることが出来ました。
しかし暫くすると、
快調な足取りで登り続ける
デフィーとフィリアと違い、
普段あまり遠出をしないシャイルが
バテてしまいました。
シャイル「はぁっ・・はぁっ・・
ふっ、二人共待っておくれ・・」
フィリア「なんだいシャイル、
僕達よりずっと若いのに
だらしないぞ?」
シャイル「すっ、すまない・・
ひっ、日頃から・・
散歩をしているから・・
運動不足では・・はぁっ・・
無いと・・思って・・
はぁっ・・
いたんだけど・・
はぁっ・・
傾斜が有るだけで・・
こうも疲れ方が・・
はぁっ・・
違ってくるなんて・・」
フィリア「まぁ確かに、
同じ距離を歩くのでも
平面と斜面とでは違うからね」
デフィー「そうね・・
シャイルさんも辛そうだし、
今日は出発してから
かなりの距離を歩いているから、
また少し休憩しましょうか?」
フィリア「そうだね、それが良いね」
シャイル「あっ、ありがとう・・
たっ、助かるよ・・
はぁっ・・」
デフィー達は少し開けた場所に移動して
休憩を取ります。
休みながら周りの景色を見渡すフィリア。
フィリア「・・それにしても、
この山は初めて来たけど
何だか鬱蒼としているね・・」
デフィー「ええ・・
山全体に高い木が生い茂っていて
日が当たらないせいか、
薄暗くて湿気も多い感じね」
シャイル「はぁっ・・はぁっ・・
そっ、そうだね・・はぁっ・・
でもっ、
沿岸側と内陸側を繋ぐっ・・
交通の要だから・・
山道は・・割と・・
しっかり整備されているしっ、
ひょっ、標識も分かり易くっ・・
多めに配置されているから・・
見た目に反して・・はぁっ・・
迷うことはっ・・はぁっ・・
少ないんだよ・・」
デフィー「そうですね、
道は広めで表面も
しっかり整地されているし、
標識も小まめに分かり易く
配置してあるから安心ですね」
フィリア「うん!確かにそうだね。
これなら道に迷う心配は
無さそうだね!」
シャイル「はぁっ、はぁっ・・
それにっ・・
地図も・・コンパスも有るし・・
はぁっ・・
私は何度か
この山を・・
越えたことが有るから・・
はあっ・・
大丈夫だと思うよ」
フィリア「それなら安心だね!」
デフィー「はい、頼もしいです!」
シャイル「ははは・・
まぁ・・
こんな息も切れ切れな・・
状態で言っても・・
全く説得力が無いけどね・・」
フィリア「あはははっ!」
デフィー「フィリア!」
フィリア「あっ、ごっ、ごめん・・」
シャイル「はぁっ・・いっ、いいんだよ・・
それより気になるのは・・
町で聞いた
例の『鬼』の噂だね・・」
フィリア「うん・・そうだったね・・
確かに
この鬱蒼とした雰囲気だと
何か出ても
おかしくなさそうだよね・・」
デフィー「フィッ、フィリア!
そんなこと言わないでよ!
怖くなってきちゃうわ・・」
シャイル「ふふっ、
まぁ鬼に関係無く、
山は危険がいっぱいだからね。
噂の真相はともかく、
ここからも注意して油断せずに
進もう!」
デフィー「はい!」
フィリア「うん!」
少し休憩してシャイルの息が整うと、
三人は気を引き締めて
再び山を登り始めました。
しかし数時間後、
道はしっかり整備されていて、
標識もこまめに配置され、
地図もコンパスも有り、
土地勘の有るシャイルが居るにも関わらず、
三人は道に迷ってしまい、
山の中腹で立ち往生してしまいます。
シャイル「あれっ?
おかしいなぁ・・
前に歩いた時はこんな所に
出なかったんだけどなぁ・・」
フィリア「そうなの?」
シャイル「ああ・・。
何でだ?
ちゃんと標識を確認しながら
その通りに歩いてきたし、
その道も以前に通ったことの有る
道だったんだよ。
地図だって定期的に見ながら、
方角もコンパスで
確認していたのに・・」
デフィー「はい、確かに
『カシマール山頂上』って書かれた
標識が指す方向に向かって、
その道の通りに歩いてきましたし、
途中に迷うような分岐点は
無かったと思います」
フィリア「でも・・
標識は全く見なくなったし、
今居るのは
背の高い木々に囲まれた
薄暗い場所で、
道らしい道も
無くなっちゃったよ・・
これって道に
迷っちゃったんじゃ・・」
シャイル「う~ん・・
そうだよね、
これはやっぱり
迷っているよね・・」
デフィー「・・どうしましょう?」
シャイル「そうだね・・
何にせよ、
ここが何処だか分からないのに、
このまま闇雲に先に進むのは
危険そうだよね。
一度引き返して
場所が分かる所まで戻ろうか?」
デフィー「はい・・
その方が良さそうですね」
フィリア「うん。
よし!え~と・・
あれっ?
僕達どっちから
来たんだっけ?・・」
デフィー「ああ・・」
引き返そうと振り返るデフィー達ですが、
辺りに道らしい道は見当たらず、
来た方向が分からなくなってしまいます。
シャイル「あ、安心して二人共!
コンパスが有るから方角を見れば・・
えっ!?」
手に持ったコンパスを見て
唖然とするシャイル。
フィリア「ど、どうしたの?シャイル」
シャイル「そっ、それが・・
コンパスの針が回り続けて、
止まらないんだ・・」
針の回り続けるコンパスを
デフィーとフィリアに見せるシャイル。
デフィー・フィリア「!・・」
フィリア「・・ど、どうなっているの?」
シャイル「・・分からない、
こんなこと今まで
一度も無かったのに・・」
デフィー「・・・」
シャイル「まずいね・・
これじゃあ方角が分からないよ」
フィリア「えっ?そ、それじゃあ
頂上までの道も、
ここまで歩いてきた道も、
戻る方角も
分からないってこと?」
シャイル「・・ああ。」
フィリア「どっ、どうすればいいの~?」
デフィー「落ち着いて、フィリア」
フィリア「でっ、でも・・
道も標識も無くなっちゃったし、
地図を見ても場所が分からない、
頂上までの道も
ここまで歩いて来た道も
分からなくなっちゃったし、
おまけにコンパスも
使えないんだよ・・」
デフィー「ええ、
分かっているわ。
でも焦っても問題は解決しないわ。
まずは落ち着いて
どうすればいいか
皆で考えましょう」
シャイル「そうさ、
落ち着いて皆で考えれば
何とかなるよ」
フィリア「・・・
ごっ、ごめんよ二人共。
初めての場所で迷っちゃった上に、
それがこんな薄暗くて
不気味な場所で、
しかも『鬼』の噂も有ったから、
つい焦っちゃって・・」
シャイル「!・・」
デフィー「?
どうしたんです?
シャイルさん」
シャイル「そ、そうだった・・
道に迷ったことですっかり
忘れていたよ・・
この山には鬼が出るかも
しれないんだった・・
そんな山の中で道に迷って・・
今居るのは何か出ても
おかしくないような
暗くて不気味な場所で・・
更には日も暮れかけている・・・
はぁっ・・はぁっ・・
どっ・・どっ・・
どうしよう?・・・」
混乱してしまい
少しずつ息が荒くなるシャイル。
デフィー「お、落ち着いてシャイルさん」
フィリア「そうだよシャイル、
やっとこっちの気持ちが
落ち着いて来たのに・・」
シャイル「はは・・すっ、すまない・・
ふぅ~・・
落ち着け~、落ち着くんだ・・」
深く呼吸をして
気持ちを落ち着けようとするシャイル。
デフィー(いけない、
フィリアもシャイルさんも
疲れと恐怖で判断力が
鈍っているみたい・・
このままじゃまずいわ・・)
「フィリア、シャイルさん、
提案が有るんですがいいですか?」
フィリア「何だい?デフィー」
シャイル「?」
デフィー「私達は今、
道が全く分からなくなって
しまったし、
日も大分傾いてしまっているわ。
そんな状況で
これから道を探しに歩き始めて、
もし見つからないまま
夜になってしまったら、
山道はとても危険だわ。
そこで、
少し怖いけど今日はここで
野宿をすることにしませんか?」
シャイル「うっ・・
こ、ここでかい?」
フィリア「う、う~ん・・」
戸惑いの表情になるフィリアとシャイル。
フィリア「・・でも、
デフィーの言う通りだよね。
この場所は
日が暮れて暗くなったら、
今よりも更に不気味で
怖くなっちゃうだろうけど、
まぁ・・仕方が無いよね・・」
シャイル「・・そ、そうだね・・
いくら不気味で怖くて
この場所から離れたくても、
この状況で今から道を探して
更に歩くのは、
止めておいた方が良いだろうね・・
もし仮に、
上手く道が見つかったとしても、
暗くなるまでに山を越えるのは
無理だろうから、
道を見つけられない場合と同様に
夜の山道を歩くことになってしまう。
それはデフィーちゃんの言うように
とても危険だからね。
より迷い込んだり、
それ以外のトラブルに遭う
可能性も出て来る・・」
大きなため息をつくシャイル。
シャイル「・・気が進まないけど、
今日はここで
野宿させてもらって、
明るくなってから
動き出した方が
良さそうだね・・」
デフィー「二人共
賛同してくれて
ありがとうございます。」
フィリアとシャイルに
笑顔でお礼を言うデフィー。
フィリア達も笑顔で答えます。
デフィー「さあ、
そうと決まったら
早速準備に取り掛かりましょう。
暗くなってしまうと
作業が大変になりますから」
フィリア「了解!」
シャイル「同じく!
さっさと準備を終わらせて
晩御飯を食べて、
今日の所は早く寝ちゃおう!」
その時三人の居る場所から少し離れた所に
小さな灯りがポツンと灯りました。
フィリア「ん?あれは・・」
デフィー「どうしたの?フィリア」
フィリア「あそこ・・ほら、
あそこに灯りが見えるんだ・・」
灯りの射す方向を指さすフィリア。
シャイル「灯り?本当かい?」
フィリアの指さす方向を見る
デフィーとシャイル。
デフィー「・・本当だわ、
確かに灯りが点いているわね。
しかも家の灯りみたいね・・」
フィリア「うん!
灯りが点いているなら
人が居るってことだよね?
道を聞けるかもしれないし、
行ってみようよ!」
シャイル「・・確かに
家の灯りみたいだけど、
おかしいな・・」
フィリア「何がなの?」
シャイル「いや、
カシマール山には、
民家も山小屋も無かった
はずなんだけどなぁ・・」
フィリア「えっ?そうなの?・・
でも、
あの灯りは家の灯りに
見えるし・・」
シャイル「うん、
私にもそう見えるんだけど、
だからこそ
おかしいと思ったんだよ・・」
フィリア「前にシャイルが来た時は
無かったけど、
その後に
新しく出来たんじゃないかな?」
シャイル「・・まぁ、
その可能性は
無くは無いけど・・
でも地図にも、
ここまで来た標識にも、
建物の表記は無かったし・・」
フィリア「すべての建物が
地図や標識に載っているとは
限らないじゃない?」
シャイル「う~ん・・
まぁ、確かに」
フィリア「もしあの灯りが家の灯りで、
その家に人が居て
道を聞くことが出来れば、
鬼が出るかもしれない山の
この薄暗くて不気味な場所で、
野宿をしなくて
済むかもしれないんだよ?
とにかく行ってみようよ?」
シャイル「そうだね、
何にせよこの場所での
野宿は避けられるね」
フィリア「ねっ?」
デフィー「そうね・・
でも、
いきなり押しかけてしまって
迷惑じゃないかしら?・・」
シャイル「まぁ、
その可能性は有るけど、
行くだけ行ってみようよ?
とりあえずは
迷っているこの状況から
抜け出せるかも
しれないんだからさ」
デフィー「そうですね、
分かりました。
・・それにしても二人共、
本当に噂の鬼が
怖かったんですね?」
シャイル「い、いや、
そう言う訳じゃ無いよ。
無いけどまぁ、
用心の為だよ、用心の」
フィリア「そうそう、
それにほら、
その鬼の噂も上手く行けば
家の人に聞けるかも
しれないじゃない?」
シャイル「そう!それだよ!
鬼の情報収集も兼ねてさ。
ねっ?」
フィリア「うん!その通りさ!
ほら、
いよいよ暗くなってきたし、
完全に日が暮れる前に
とにかくあの家に行って
聞いてみようよ」
デフィー「ええ、そうね。
行ってみましょう」
日没が迫る中、
家の灯りを目指して急いで歩き、
何とか日が沈む前に家の前に辿り着いた三人。
その家は少し開けた場所に建つ、
新しく出来たばかりの木造の家でした。
フィリア「はぁ~・・
着いた~!」
シャイル「ああ、
完全に暗くなってしまう前に
無事辿り着けて良かったよ」
デフィー「はい」
シャイル「はぁ・・
日が暮れて行く暗い山の中で
灯りの灯った家を見ると、
何だか気分がホッとするよ」
フィリア「あっ!見て見て!
『カシマール山荘』って書いた
看板がかかってるよ」
シャイル「えっ!?
本当だ、
良かった・・
もしかしたら泊れるかも
しれないね」
フィリア「うん!」
デフィー「はい!」
シャイル「近くで見てみると
新しい建物みたいだから、
以前は無かったけど
新しく出来たみたいだね。
とにかく助かったよ」
フィリア「ねぇ、泊めてもらえるか
どうか聞いてみようよ!」
デフィー「ええ」
シャイル「そうだね」
フィリア「すいませ~ん、
誰か居ませんか?~」
シャイル「急で申し訳ありませんが、
どなたか
いらっしゃらないでしょうか?」
フィリア達が山荘の前で呼びかけると、
腰まで有る長い黒髪を
背中で結った、
紺のワンピースにエプロン姿の
若い女性が、
ドアを開けて中から出てきました。
女性「はいは~い、
お待たせいたしました~。
お泊まりのお客様ですか?」
シャイル「はい、
こんな時間に飛び込みで
申し訳ないんですが、
今晩こちらで泊めて
いただけないでしょうか?」
女性「もちろ~ん、
大歓迎ですよ~。
わたくしは
このカシマール山荘の管理人、
レイジーと申します。
三名様ですね~、
本日は
ようこそいらっしゃいました。
さあ、
どうぞ中にお入りください」
シャイル「ありがとうございます、
レイジーさん。
私はシャイルです。
山を登り始めたはいいものの、
途中で道に迷ってしまい
困り果てていた所だったので、
泊めていただけて
本当に助かりました」
レイジー「あらあら、
それは大変でしたでしょう?
シャイル様、そちらのお二方も
中に入ってゆっくりしてください。
すぐにお食事の準備を
致しますので」
フィリア「お食事?わ~い!」
デフィー「フィ、フィリア・・」
レイジー「あら?
よく見たらこちらのお客様は、
エルフさんと
ダークエルフさんですか?
わたくしの山荘に
珍しいお客様が来てくれて
大変嬉しいですわ」
デフィー「は、初めまして、
デフィーです。
今晩は急だったにも関わらず
泊めていただき
ありがとうございます。
お世話になります、レイジーさん」
フィリア「僕はフィリアです。
よろしくお願いします、
レイジーさん!
山の中で野宿するつもりだったので、
泊めてくれて本当に助かりました。
ありがとうございます!」
レイジー「デフィー様に
フィリア様ですね、
本日はようこそ
お越しくださいました。
さあ、中に入って
ゆっくりくつろいでくださいませ」
フィリア「わ~い!
おじゃましま~す」
デフィー「フィリア・・
失礼します、レイジーさん」
レイジー「フフフフッ・・・」
三人とレイジーは、
明かりの灯された山小屋の中へ入っていきます。
宿泊の受付を済ますと
部屋に通されたデフィー達は、
荷物を降ろして一休みします。
少しするとレイジーが、
夕ご飯の支度が出来たことを知らせに来ます。
部屋から食堂に移動して
レイジーの作った料理を食べる三人。
料理が美味しかったことに加え、
一日中歩いて疲れていたので食が進み、
三人はあっという間に料理を
平らげてしまいます。
食事が終わると三人はレイジーを交えて
会話をし始めました。
レイジー「本日のお客様は皆様だけなので、
ゆっくりとお寛ぎください」
シャイル「ありがとうございます」
フィリア「レイジーさんの料理
すっごく美味しかったよ!」
デフィー「はい、とても美味しかったです。
ごちそうさまでした」
レイジー「あらあら~、
そう言っていただけると
嬉しいですわ~。
腕によりをかけた甲斐が
有りますわ~」
シャイル「本当に美味しかったです。
久しぶりにお腹いっぱい
食べてしまいました」
レイジー「フフフフッ・・
疲れが取れる秘密の調味料が
入っているんですのよ~」
フィリア「へぇ~、秘密の調味料?
何?何~?」
シャイル「私も知りたいな、
それが美味しさの
秘密なんですか?」
レイジー「フフフ、
フィリア様、シャイル様、
申し訳ありません。
お客様と言えども秘密なんですよ」
フィリア「そっか~、
教えちゃったら秘密じゃ
なくなっちゃうもんね」
シャイル「確かにね」
レイジー「フフフッ、
その通りですのよ~。
・・・ところで皆さんは
何処かに旅行中なんですか?」
シャイル「いえ、
何処か決めた場所に
旅行と言う訳ではないんです」
デフィー「私達、
幸せを探す旅の途中なんです」
レイジー「あら~、幸せを?」
デフィー「はい」
フィリア「でも、
旅を始めて何日か経つんだけど、
まだ見つけられなくって・・」
デフィー「そうなんです・・。
レイジーさんは幸せについて
何か知りませんか?」
レイジー「あらあら~、
幸せについてですか?・・
う~ん・・
弱りましたわ~、
申し訳ありません、
今まで考えたことが無かったので
分からないですわ・・」
フィリア「僕達もそうだったんだよ、
それで幸せが
どんなものか知りたくなって
旅に出たんだ」
デフィー「はい」
シャイル「私はその途中から
二人の旅に同行させて
もらっているんです」
レイジー「あら~、
そうだったんですね」
デフィー「まだ見つかってはいないけど、
少しずつ近づけている気はして・・。
それで範囲を広げて、
今まで行ったことが無い
内陸側を探してみようと思って、
このカシマール山に登ったんです」
シャイル「その途中で道に迷ってしまい、
日も暮れかけて困っていた所に
このカシマール山荘の灯りが見えて、
今こうして泊めてもらっていると
言う訳なんです」
フィリア「うん!
本当に助かったよ、
もしレイジーさんが
泊めてくれなかったら、
今頃山の中で
野宿していた所だからね」
レイジー「あらあら~、
それは大変でしたね~。
お役に立てたみたいで
何よりですわ~」
シャイル「そう言えばこの山荘は
いつ頃出来たんですか?
以前は無かったと思うんだけど」
レイジー「はい、つい最近
出来たばかりなんですよ~。
このカシマール山は、
内陸側と沿岸側とを行き来する為の
限られたルートの一つなので、
結構登山者が多いんです。
なのでそんな方達の
お役に立てたらなぁ~と思って
この山荘を開業したんですよ~」
シャイル「なるほど、
やはり前に来た時は
まだ無かったんですね。
地図や途中の標識に
載っていないのも、
新しいからなんですか?」
レイジー「はい、
まだ開業したばかりで
諸々準備が
整っていないからなんですよ~」
フィリア「ほらね、
シャイルは少し考え過ぎなんだよ」
シャイル「そうだったみたいだね。
でも三人で確認しながら
標識通りに進んで来たのに、
迷ってしまったのは何故だろうね?」
レイジー「ああ~、それは多分、
最近登山道が少し
変わったからじゃないかしら~?
何でも山の一部を新たに切り開いて、
以前よりも頂上に近くて通りやすい
新しいルートを作るみたいなのよ~。
でもまだルートが途中で
完成していないのに、
既に標識の一部が
配置して有るみたいなのね、
だからきっと
そのルートを通って
来たんじゃないかしら~?」
シャイル「なるほど、
標識通りに歩いていたのに
途中から見覚えの無い道になった上、
道が無くなってしまったのは
それが原因だったんだね。
しかし、
道が完成していないのに、
標識を配置してしまうのは
どうかと・・」
レイジー「本当よね~。
それで迷ってしまう方が
多いみたいで・・
この山荘を訪れるのは
大半がその方々なんですよ~」
フィリア「僕達もそうだもんね」
レイジー「フフフッ、
わたくしは人が来てくれるから
嬉しいですけど、
迷ってしまう人があまりにも
多いようなら、
何とかしないと
いけないですよね~」
フィリア「でも、
迷ったおかげで
レイジーさんにも会えて、
美味しいご飯も
食べられたんだから、
悪いことばかりじゃなかったかな」
レイジー「まあフィリア様、
そう言ってもらえると
嬉しいですわ。
フフフフッ・・」
嬉しそうに笑みを浮かべるレイジー。
シャイル「・・ところでレイジーさん」
レイジー「はい?」
シャイル「最近町で
このカシマール山に関する
妙な噂を耳にしたので、
お伺したいことが有るんですが・・」
レイジー「何でしょう?
わたくしに
お答え出来ることでしたら」
シャイル「ありがとうございます。
では伺いますが、
最近このカシマール山に
『鬼』が出ると言う話を
町で聞いたのですが・・
本当なのでしょうか?・・」
レイジー「鬼?・・
鬼って頭に角の生えた
あれですか?」
シャイル「ええ、恐らく・・」
レイジー「あら、まぁ~・・
町ではそんな物騒な噂が
流れているんですか?
わたくしは
このカシマール山で
山荘を営みながら
暮らしていますけど、
そんな噂を
聞いたことが有りませんし、
勿論実際に鬼なんて
見たことも有りませんよ~」
フィリア「本当!?本当に?
じゃあこの山に
鬼は居ないんだね?」
レイジー「ええ、本当ですよ~。
もしこのカシマール山に
鬼が出るのなら、
そんな場所でのんびりと
山荘なんてやって暮らして
いられないですもの」
シャイル「確かに・・そうだよね」
フィリア「は~良かった~、
それを聞いて安心したよ~。
この山で実際に暮らしている
レイジーさんが言うんだから、
間違いないよね」
レイジー「ええ、
断言しても良いですよ~、
このカシマール山に
鬼は出ませんよ。
フフフフフッ・・」
シャイル「ありがとうございます、
レイジーさん。
噂話とは言え
少し不安だったので・・」
フィリア「ふふっ、
やっぱりシャイルも
鬼が怖かったんだね?」
シャイル「まぁね、
でもレイジーさんの話を
聞いたおかげで安心できたよ。」
デフィー「あの・・レイジーさん、
もう一つ気になることが有るんです。
続けてで申し訳ないですけど、
伺ってもよろしいですか?」
レイジー「はい、勿論。
わたくしに答えられることなら」
デフィー「ありがとうございます。
鬼が出る噂以外にも
町で聞いたんですが、
このカシマール山の方から
町を訪れた人や、
町からカシマール山へ行って
帰って来た人の中に、
酷く無気力な人達が
居ると言う話を聞いたんですが、
何かご存じありませんか?」
レイジー「・・このカシマール山の方から
来た人達や、
町から山に出掛けて
帰って来た人達の中に、
無気力な人達が
居ると言うことですか?」
デフィー「はい、
町で聞いた話なんですが・・」
シャイル「私も町でその話を
聞いたんだけど、
一度や二度じゃなかったので
気になっていたんです」
レイジー「あら~・・
それはきっと、
旅で疲れてしまったからですよ~。
この山荘を訪れる方の中にも
無気力に見えるほど
疲れ切った方が、
たまにいらっしゃいますから~」
デフィー「・・そうなんでしょうか?」
レイジー「そうですよ~、
皆様もこのカシマール山を
登って来られたから
お分かりだと思いますが、
この山は結構傾斜が急だし、
標高も高いでしょ~う?
それに内陸側から来た人達は、
何かと物騒な環境で
過ごしてらしたでしょうから、
きっと気を張ることが
多かったんですよ。
だから
疲れ切ってしまったんだと
思われますわ」
シャイル「・・まぁ内陸側へは
私も言ったことが有るから、
分からなくもないけど・・」
レイジー「ねぇ~?
わたくしはこの山荘に
お泊りになった
無気力に見えるほど疲れている
お客様とも、
何人かお話ししたことが
有りますけど、
皆さん辛かった、疲れた、
とおっしゃってましたもの」
シャイル「う~ん・・
でも本当に
それだけなんでしょうか?・・」
レイジー「体力面でも精神面でも
疲れてしまい、
無気力に見えているだけですよ~。
わたくし、
ご本人達から聞いたんですから
間違いありませんわ」
デフィー「そうですか・・」
フィリア「直接話を聞いた
レイジーさんが言うんだから、
きっと間違いないよ」
デフィー「・・そうね、
私達はその人達を見たことも、
直接話したことも無いものね。
レイジーさん、
教えていただき
ありがとうございます」
シャイル「はい、
本当に感謝しています。
おかげで不安の種が
また一つ消えたんですから」
レイジー「いいえ~、
お役に立てて何よりです~」
シャイル「疲れが原因なら、
町で聞いた無気力な人達も
時期に元気になるだろう」
レイジー「その通りですわ~、
フフフフフッ・・
所で皆様、
長旅でお疲れでしょう?
そろそろ休まれては
いかがですか?
今の話に
出てきた方達のように、
疲れ切ってしまわれる前に
早く、た~っぷりと、
お休みになられた方が
良いですよ~」
シャイル「そうだね、
そうさせてもらおうか?」
フィリア「うん、
僕もうヘトヘトだよ~。
それにお腹がいっぱいになったら
急に眠くなってきちゃった」
デフィー「フィリアったら、
でも私も今日は疲れたわ・・
それにとても眠たい・・」
レイジー「ねぇ~?
皆様ご自分で思われている以上に
疲れてらっしゃるんですよ~。
だから早く休まれた方が
良いですよ~、
お部屋までお送りしますから」
旅と慣れない山歩きとで
すっかり疲れてしまったデフィー達は、
この日は少し早く眠ることにしました。
レイジーに先導され、
食堂から自分達の部屋へと
移動するデフィー達。
レイジー「さあ、お部屋に着きましたよ~」
シャイル「ああ・・
いつもみたく寝床の用意を
しなくていいのは助かるよ・・
何だか急にどっと疲れが出ちゃって、
今にもベッドに
倒れ込んでしまいそうだよ・・」
フィリア「うう~・・
僕もだよ」
シャイル「今日は泊めてもらって
本当に助かりましたレイジーさん。
それでは先に休ませてもらいます」
デフィー「色々ありがとうございます、
おやすみなさい、レイジーさん」
フィリア「おやすみ~、レイジーさん」
レイジー「は~い、お休みなさ~い。
今日はいっぱい歩いたから
ゆっくりたっぷり
お休みになってくださいね~。
フフフフッ・・
それではいい夢を・・」
レイジーが部屋を出ると、
三人はベッドに入り
すぐに眠りについてしまいました。
レイジー「フフフフッ・・
三人共本当に
疲れていたみたいね~、
あっと言う間に眠っちゃったわ。
さて・・
私はこれから
もう一仕事しないとね。
今晩は忙しくなりそうだわ・・」
幸せになりたいエルフの冒険 第五話
エルフと悪魔 一挙版・後編へつづきます。