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エクシア合同会社への出資金は取り戻せるのか?

【お知らせ】
現在、エクシア合同会社の件で多数のご依頼をいただいておりますので、受任を制限しております。新規のご相談はお受けできませんので、ご了承ください。

Twitterで「エクシア合同会社」に対する出資金が取り戻せないとの申告が散見されていますので、寄せられている質問に答えてみました。

※2022年4月29日:契約時期により出資スキームが異なることを追記しました。金商法の記載部分もわかりやすく書き直しました。

Q どんなスキームなのか?

エクシア合同会社の投資スキームは、契約した時期によって、いくつかのバリエーションがあるようです。

もっとも古いものは「2015年5月作成」のようですが、原本は確認できていません。
その次は、「2018年11月作成」と書かれたもので、この版には「2015年5月作成」とは書かれていません。
他にも「2015年5月作成 2019年12月改訂」と「2015年5月作成 2021年3月改訂」と書かれたものが確認できています。

なお、「エクシア合同会社」は、2019(令和元)年9月1日よりも前は「エクシアジャパン合同会社」という名称でした。

2018年11月作成版のスキーム

こちらの契約書にはスキーム図の記載がありません。

2019年12月改訂版のスキーム

  1. 投資家が「エクシア合同会社」(EXIA)の社員権を購入して出資をする。

  2. EXIAがシンガポール法人である「エクシアプライベートリミテッド」(EPL)に金銭を貸し付ける。

  3. EPLが外国為替証拠品取引(いわゆるFX)で運用をする。

  4. EPLはEXIAに貸金の元本や利息を支払う。

  5. EXIAは投資家に対して出資金の払戻や配当を行う。

エクシア合同会社「重要事項説明書」(2015年5月作成2019年12月改訂)より引用

2021年3月改訂版のスキーム

  1. 投資家がEXIAの社員権を購入して出資をする。

  2. EXIAが「融資事業」として不動産事業やその他国内外事業への融資をしたり、「投資事業」として「エクシア・アセット・マネジメント株式会社」(EAM)や「エクシア・デジタル・アセット株式会社」(EDA)等国内外の投資事業者に出資する。

  3. それ以外の投資の具体的な内容については記載なし。

  4. 投資先や融資先からEXIAに対する支払いの仕組みも記載なし。

  5. EXIAは投資家に対して出資の払戻や配当を行う。

エクシア合同会社「重要事項説明書」(2015年5月作成2021年3月改訂)より引用

Q いわゆる「ポンジ・スキーム」(金融詐欺の一種)なの?

現時点の情報では断定できません

Q 出資金の払戻しはできるのか?

エクシア合同会社の場合、定款に基づく任意退社は可能です。
会社法では、合同会社の社員を退社できる場合は限定されていますが(606条1項、3項)、定款で別段の定めをすることができます(同2項)。

もっとも、エクシア合同会社の場合、任意退社ができるとしても、必ずしも出資金の全額が払い戻されるわけではありません
なぜなら、定款には、代表社員が「その裁量により当社全体の払戻金額の総額の制限を設け、また、払戻金額の各社員毎の割り当てを行うことができ」、「各社員からの制限額を超える払戻の請求は、受け付けられないものとする」と書かれているからです。

現在、出資金の引出しができないとの情報がありますが、この条項に基づく制限でしょう。

Q 出資なんだから損をしても自己責任では?

必ずしも自己責任とは言えません

たしかに、一般論としていえば、合同会社の社員になるということは、株式投資と同じく、元本保証がされているわけでもなく、失敗をする可能性があります。
私も株式で百万単位で損をしたことがありますが、一般論としては、私の自己責任でしょう。

エクシア合同会社も、定款と同時に「重要事項等説明書」を交付しており、①元本保証がないこと、②他の債権に対する劣後性、③営業に関する指図ができないことを含め、様々なリスクは説明されています。

もっとも、具体的な勧誘方法次第では、法律上の争い方は考えられるところです。

Q 配当金は支払われているし、出資金が返ってきた人もいるから安心では?

必ずしも安心とはいえません。投資にリスクはつきものです。

配当金が支払われていたとしても、出資金が返ってきた人がいたとしても、その状況がいつまで続くかわかりません。
上記のとおり、元本保証がされていない以上、いつでも元本割れのリスクがあり、かつ、出資金の払戻しが制限されるリスクもあるからです。

Q 金融商品取引法は適用されるのか?

金融商品取引法が適用される可能性はあります
具体的には「みなし有価証券」または「集団投資スキーム」のいずれかの法律構成があり得ます。

金融商品取引法による規制

本件で問題となり得る金融商品取引法の規制は、㋐有価証券の発行者に対する行為規制(発行開示規制)と、㋑金融商品取引業者等に対する規制(業規制)があります。

発行開示規制の対象となる「有価証券の募集」をするためには、金融庁に有価証券届出書を提出する必要があり(金商法4条1項)、違反者には罰則が科されます(同197条の2第1号、同3号)。
また、目論見書を作成し(同13条1項)、相手方に交付しなければならず(15条2項)、これに違反した場合にも罰則が科されます(同200条3号)。

業規制の対象となる「金融商品取引業」を行うためには、金融庁に「金融取引業」の登録を受けなければならず(同29条)、違反者には罰則が科されます(同197条の2第10号の4)。

「みなし有価証券」による適用

合同会社の社員権それ自体は、金融商品取引法2条2項3号により「有価証券」とみなされる「みなし有価証券」です。

「みなし有価証券」の場合、「その取得勧誘に応じることにより相当程度多数の者が当該取得勧誘に係る有価証券を所有することとなる場合として政令で定める場合」でなければ、㋐発行開示規制の対象となる「有価証券の募集」にあたりません(金商法2条2項3号)。
具体的には、「その取得勧誘に係る有価証券を500名以上の者が所有することとなる取得勧誘を行う場合」に限られます(施行令1条の7の2)。
また、出資総額の50%超が有価証券に投資され(金商法3条3号イ⑵、施行令2条の10第1項3号)、かつ、出資総額が1億円以上であることも要件となります(金商法4条1項5号参照)。
エクシア合同会社が500名以上の者から取引勧誘を行っており、かつ、出資総額の50%超が有価証券に投資され、出資総額が1億円以上であれば、その他の適用除外に該当しない限り、発行開示制度の対象となる可能性があります。

他方、㋑業規制については、みなし有価証券の場合のうち、合同会社の社員権の募集や私募は、登録が必要な「金融商品取引業」の対象から除外されています(同法2条8項7号ヘ参照)。
そのため、合同会社が社員権を自ら募集する場合は、「金融商品取引業」としての消費者保護ルールなどの業規制は適用されないこととなります。

東京都消費生活総合センターは、合同会社が社員権を自ら募集しても、金融商品取引法は適用されないと注意喚起をしているのは、このような理由からではないかと思います。

「集団投資スキーム」による適用

もっとも、「みなし有価証券」に該当しないとしても、いわゆる「集団投資スキーム」(同法2条2項5号)に該当する可能性もあります。

「集団投資スキーム」とは、既存の消費者保護ルールの対象とならない金融商品が生み出されたことから、その「すき間」を埋めるために平成18年の証取法(現在の金商法)改正により設けられたものです。
原則として、次の3つの要素を満たすものが対象となるとされています。

①権利を有する者(出資者)が金銭等を出資または拠出すること。
②出資または拠出された金銭等を充てて事業(出資対象事業)が行われること。
③出資者が出資対象事業から生ずる収益の配当または当該出資対象事業にかかる財産の分配を受けることができる権利であること。

松尾直彦『金融商品取引法』(商事法務)

ただし、次の場合は、集団投資スキームの定義から除外されます(金商法2条2項5号イ~ニ)。

❶出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定めるもの
❷出資者が拠出した額を超えて配当または財産の分配を受けないもの
❸保険業を行う者が保険者となる保険契約・共済契約・不動産特定共同事業契約に基づく権利
❹政令で定める権利

黒沼悦郎『金融商品取引法』(有斐閣、2016年)42頁

エクシア合同会社に対する出資は、上記の①~③を満たす可能性があります。
また、定款9条は、エクシア合同会社に関する一切の事項は、会社法の規定に反しない限り、「社員EXIA Private Limitedが単独で決議、承認又は承諾により決定する権限を有するものと、その他の社員は、何らの権限を有しない」と定められているため、❶~❹にも該当しません。
したがって、「集団投資スキーム」に該当する可能性があります。

「集団投資スキーム」も「みなし有価証券」の一種ですから、500名以上の者が所有することとなる場合(金商法2条2項3号、施行令1条の7の2)、「私募」とはいえず、「有価証券の募集」にあたり、出資総額の50%超が有価証券に投資されること(金商法3条3号イ⑴、施行令2条の9)、出資総額が1億円以上であること(金商法4条1項5号参照)を満たすならば、その他の適用除外に該当しない限り、㋐発行開示規制の対象となる可能性があることは上記のとおりです。

他方、㋑業規制については、「集団投資スキーム」持分権の募集又は私募の場合は、「金融商品取引業」に該当しますので(金商法2条8項7号ヘ)、その募集を業として行っているのであれば、「第二種金融取引業」に該当し(同法28条2項1号)、適用除外に該当しない限り、登録を受けた者でなければ、これを行うことはできません(同29条)。

このように「集団投資スキーム」の場合、㋐発行開示規制の対象となるものは、㋑業規制の対象となるものよりも狭いのですが、その理由は、「ファンドの規制はディスクロージャーではなく業規制によって行うという政策判断が下された結果とみるべき」と指摘されています(黒沼悦郎『金融商品取引法入門〔第8版〕』(日経文庫、2021年)62頁)。

Q 金融サービスの提供に関する法律は適用されるか?

金商法とは別に、金融サービスの提供に関する法律(金サ法)も適用されます

なぜなら、合同会社の社員権は、みなし有価証券(金商法2条2項3号)として、金販法の「有価証券」にあたりますので(金サ法2条3項)、これを取得させる行為は「金融商品の販売」にも該当します(同3条5号)。

そのため、金融商品販売業者等は、顧客に対して、重要事項の説明が求められます(同4条)。

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