灯サイドストーリー 貴方はいつだって灯火だった

小さい頃から私が笑うとみんな幸せそうな顔をしてくれたから、自然に笑うことが出来た。
お兄ちゃんも私が笑うと優しい微笑みを返してくれる私の大好きな笑顔だ。
お兄ちゃんはすごい。学校でも人気者で、優しくて、穏やかで彼氏にするならお兄ちゃんみたいな人がいいって思うくらいにはブラコンだ。
「あーかりん! おはよう!」
学校で色んな友達もいて、沢山話しかけてくれる。
「おはよ!」
毎日が楽しくて仕方ない。一部を除いて。
顔はそんなに可愛くないのに、良く告白されるからだろうか、一部の女子からは嫌われている。実際脅迫紛いなこともされたが、私はお兄ちゃんみたいな人が好きだからとそれで通しているし、実際そうだ。
きっとこの事も、私の物珍しいエメラルドグリーンの目も関係しているのかななんて思ってしまう。
人は珍しいものに惹かれやすいから。
「ねぇ! 私彼氏寝とったでしょ!!」
この手の事はしょっちゅうで、取り巻きを連れて可哀想です私って雰囲気をまとっている割には憎しみに満ちていて、自分に、落ち度があったかさえも考えず私に八つ当たり。
「私は彼氏いません。そう言う不純なお友達もいません。私、ブラコンですから」
キッパリと言い放つ。だってこの学校にお兄ちゃんくらいかっこよくて優しい人なんていないんだから当たり前だ。
相手は私がハッキリ言うと少し怖気付いてはけていく。その先に彼女の彼氏だった人だろうか私とは違う女の子と歩いて絶賛修羅場中だ。
「はぁ……」
他人の迷惑を被るのなんてごめんだ。でも、まあ、これであの人は私には来ないだろう。
毎日では無いけれどこの手の誤解は厄介で本当に困る。今日はお兄ちゃんにたくさんなでなでしてもらおう。
そう思いながら残りの時間を過ごすはず……だった。

「きゃっ!?」
背後から男が私を袋の中に入れ連れ去る。抵抗するが叶わなかった。

いつの間にか気を失って起きた時には、どこかの倉庫だった。
男たちは何か揉めている。
「あいつは有栖川じゃない! なんであいつを連れてこねぇんだ!」
有栖川? 誰だろう。間違いなら返して欲しい。
「あ? ああ。嬢ちゃんおはようさん。へぇ? 良くよく見ると可愛いねぇ? お兄さんと少し遊ぶかい」
舌なめずりをした下品な男たちの1人が緑の光るロープを手からだし私をキツく拘束する。
普通の人間ができる芸当じゃない。魔法使い!?
「服も破ってもいいが、それじゃバレちゃうもんな?」
男たちは高らかに笑うと、私の体をまるで玩具みたいに弄ぶ。
体の内側も外側もまるで毒を塗られていくようで全てが気持ち悪かった。
「はー。つまんねぇなぁ、嬢ちゃん。こんなにいいテクで触ってやってんのに濡れもしねぇ。要らねぇよこんなガキ。お前ら、一般人区域に捨ててこい」
散々私で遊んだ男が言う。その後また袋に入れられ私は見知った道に投げ捨てられる。
外は私の心のような大雨だった。
私は走ったがむしゃらに走った。お兄ちゃんの顔しか見たくなかった。途中何人かに、ぶつかったけど、吐きそうなくらい気持ち悪かった。
「あ、灯?」
玄関を開けてずぶ濡れの私に問う優しい声。私は泣いた。怖かった、辛かった。その全てをお兄ちゃんに、ぶつけて。
お兄ちゃんも、怒っているのが分かる。そして一緒に泣いてくれた。
私はお兄ちゃんに言った。
「お父さん、お母さんには言わないで」
お兄ちゃんは反対したけど私は家族を壊す気がして嫌だった。私のわがままをお兄ちゃんは理解してギュッと抱きしめた。冷たい体に少し温かみを感じれた。

それから私は不登校になった。毎日繰り返される度誰もいない家で発狂して泣き狂った。
目を開けたくない。でも、目を開けないと悪夢は消えない。
毎日毎日繰り返す度に有栖川さんが気にかかっていた。その子は大丈夫なんだろうか。自分も大丈夫じゃないのにその子はもっと、大丈夫じゃないはずだ。
確かめたくなった。有栖川さんの安否が気になった。
行きたくもない学校に行き始めたのはそれが理由だった。
久々に行く学校は何も変わらなくて、逆にそれが怖かった。
友達に有栖川という人はいるのかと聞くと、3ヶ月前にいたらしく転校したらしかった。
私は分かってしまっている。彼女もまた、被害者なのだと。

その日の夜、生きる意味について考えながら寝てしまったらしい。
夢の中で1人の女性と出会った。綺麗な色とりどりの花畑で静かに椅子に座っている。
「貴女は誰?」
私が聞くと聖母のような微笑みを私に向け言う。
「私はマルダ。悩んでいるのでしょう? 話を聞くわ」
彼女はとても不思議な人だった。初めてあった気がしなかったからだ。
まるで私の中にずっといたような安心感。そして、彼女も、私と同じ目をしている。

私はマルダに沢山話した泣きながら苦しみながら喋った。マルダはただ黙って聞いてくれた。

「貴女が取ろうとしている手段は、一般的には間違いなのかもしれない。でも私はいいと思うわ」
「いいの? 死んでしまっても逃げてしまってもいいの?」
マルダは微笑んだまま頷く。
「……ありがとう。私、目を開けるのが怖いの。明日が始まるのが怖いの」
「貴女が貴女になるための方法なのだから、いいのよ」
何度私はその言葉に頷いただろう。私はマルダに近寄ってマルダをギュッと抱きしめた。
そこで夢は途切れて朝になっていた。
「さぁ、始めよう。世界とさよならする為の!」
そう、準備をしよう。
私が私になるための。

私がソレを実行したのは15歳の誕生日。お父さん達が出ていったのを見計らってだ。
部屋の天井に取り付けたフックに縄を通す。椅子の上に立って深呼吸をする。
私がこうするって事はお兄ちゃんを深く傷付ける事。でもいつか、分かるから。
ありがとう。

私の部屋から音がしたんだろうか、すぐにお兄ちゃんは来たけれど、止めることなく私が息絶えるのを絶望した顔で見ていた。

「私、お兄ちゃんの事大好きだよ」
言葉にもなってないかもしれない。届かないかもしれない。でも本当に自慢のお兄ちゃんで。
これから私のせいで全てを失わせるかもしれないでもね、私信じてるから。
お兄ちゃんを。

それから私は霊体になって幾度となくうなされるお兄ちゃんのそばに居た。
塞ぎ込んだ世界に光が指すことなんてもしかしたらなかったのかもしれない。

でも訪れた。
運命が回り始めた。霊体になってからもマルダとは一緒にいた。マルダはソシアが居れば運命を変えてくれるからと彼を信じてと私に言った。
本当にその通りで、智寿留さんも来て、どんどんお兄ちゃんが再生していく。
私は嬉しくて涙が止まらなかった。

そして、お兄ちゃんは私を助けない選択をした。
正しい選択をしてくれた……だから、私もちゃんとさよならしようって思った。

お兄ちゃんの夢に入って、約束をして、私はマルダと手を繋いで天への道を上がっていく。

どうか幸せになって。私もそばに行くから。それまで笑顔でいて。どんなに辛いことがあっても、灯は貴方の妹はずっとずっと味方だよ。

end

時に選択とはボイスドラマ

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