北杜の「風土」
野山にしみいるミンミンミン。たまに聞こえるブぃーン。
そのなかで一つだけ自分の足音がトコトコ。
山梨県北杜市。私はこの地を歩くのが好きだ。だからよく歩きにいく。ただ歩きにいく。なぜって?ここにはいろんな魅力があるから。そう、ここにあるのは「風土」だ!
北杜市は、世界に誇る「水の山」南アルプスに抱かれた地域。南アルプスは北杜のシンボルだ。私も初めて中央本線に乗って北杜に行ったときは、ひと駅ごとに大きくなっていく南アルプスの峰々に魅入られたものだった。しかしあのときは壮絶な体験だった。南アルプスの前衛に位置する日向山の雁が原で極寒を体験し、下山後、温泉に行ったら遅くなって真っ暗な道を10km歩いたのだ。クライマックスは日野春駅までの長い上り坂だった。露天風呂から眺めた南アルプス・八ヶ岳、夜の星空は今でも印象に残っているが、北杜の自然の厳しさにやられてさんざんな自分の状況それ自体が、なんだかとても笑えてしまった。
八ヶ岳も南アルプスと並んで北杜のシンボルだ。北杜の西に南アルプス、北に八ヶ岳、東に奥秩父山塊があるといった感じで、名山に囲まれた風景は圧巻である。歩いていると時間の経過に従って見え方が違ってくるのも面白い。これらの山や川のおかげで(せいで)地形の変化に富んでいるのも北杜の特徴だ。
北杜はエリアによっても個性がある。南アルプスエリアは「水の山」ともいうくらいで、清流があり、有名な天然水の採水地にも選ばれている。冬に来ると雪をかぶった甲斐駒ヶ岳が迎えてくれ、空も澄んで気持ちがいい。小淵沢は美術館が多い。数々のアーティストがここの山岳風景を気に入り、アトリエを構えたのであろう。八ヶ岳エリアは高原リゾートとして名高い清里などがあり、自然とメルヘンが混ざり合った不思議な場所である。牛の放牧も有名で、地の牛乳やソフトクリームがなんともおいしい。明野は日本でも有数の日照量を誇り、ひまわりが有名。奥秩父山塊に位置する瑞牆山は岩の美しい山容で、クライマーの聖地になっている。
言い尽くせない魅力が北杜にはまだある。人々の暮らしが織りなす美がある。こうした数々の個性はすべて北杜の自然に根を張っている。人間は自然には勝てない。だから生まれた風土。北杜の「風」と「土」に根付いた文化だ。