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ファーストステップ司法書士37「あなたがお金を払うまで,私も切手を渡さないからね!【同時履行の抗弁権】」

Aは,自分の切手を売る売買契約をBと交わしました。Bは自分が代金を払っていないにもかかわらず,「切手を早く渡してください」と言ってきました。AはBから代金をもらっていないのに切手をBに引き渡さなければならないのでしょうか?

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☑ 参考条文 ☑
【533条】
 双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。…
☑ 用語解説 ☑
『 双務契約 』・・・売買契約のように,契約の当事者がお互いに債務を負う契約のこと。

【1】意義

売買契約が成立すると,売主と買主はお互いに債務を負います〔双務契約〕。しかし,売主と買主の両者が相手方の求めに応じて,すぐに義務を果たす,つまり債務を履行するとは限りません。上記の事例で,AがBの言われるがままに切手を渡してしまうと,買主であるBは難癖をつけて代金の支払を渋るかもしれません。そうなると,相手が義務を果たしていないのに自分だけが先に義務を果たすのは不安です。そこで認められたのが同時履行の抗弁権です。同時履行の抗弁権とは,双務契約の当事者間で,一方がその契約上の債務の履行について,他方がその債務の履行をするまでは,履行しないことを主張できる権利を言います(533条)(※1)。同時履行の抗弁権を行使した場合,履行を拒否することが法律上認められ,自分の債務の履行が遅れるのは違法ではなく適法なものになるので,相手方から債務不履行に基づく責任(損害賠償請求・解除)を追及されることはありません(大判大14.10.29)。
※1 双務契約の相手方が「債務を履行せよ」といってきても,「あなたの履行と同時でなければだめだ」と反論することができる権利,これが同時履行の抗弁権です。「履行」とは「契約内容を果たすこと」,「抗弁権」とは「相手の請求を拒否できる権利」をいいます。

【2】趣旨

民法は,双務契約という性質に基づいて,公平の観点から,相手方の債務が履行されるまでは,自分の債務の履行を拒否する抗弁権をそれぞれの債務者に与えました。双務契約は,お互いに債務を負っていることから,当事者はフェアな関係です。フェアな関係だからこそ,公平の理念として同時履行の抗弁権が認められているのです。

【3】解答

Aは同時履行の抗弁権をBに主張することで,Bがお金を支払うまで切手を引き渡す必要はありません(533条)。加えて,BはAが切手を引き渡さないことを理由に,履行遅滞に基づく解除や損害賠償請求をすることができません(大判大14.10.29)。

★やってみよう!★
【過去問 平成4年第6問3】
☑ 同時履行の抗弁権を有する債務者が履行期を徒過した場合には,債権者は自己の反対債務の履行の提供をしないと解除することができないが,損害賠償を請求することはできる。
➠× 同時履行の抗弁権を主張すると,債務を履行しなくても違法ではないので,履行遅滞に基づく責任を追及されません。

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