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アートで楽しむ「ていねいな暮らし」〜ハマスホイとデンマーク絵画〜

ヴィルヘルム・ハマスホイという画家をご存知だろうか。

JR上野駅の公園口を出て、上野公園の奥の方に向かって歩いて行くと現れる煉瓦色の外壁。
木々の中に佇む「東京都美術館」で3月26日(木)まで開催中の企画展が「ハマスホイとデンマーク絵画」だ。

私は幼少期からアートに興味があり、今でも月1回くらいのペースでは美術館に行くアート好き人間なのだが、「ハマスホイ」の名前を知ったのは恥ずかしながら最近のことだった。

この展示を知ったのは、あるツイートからだった。
そのツイートでは、ハマスホイの「開いた扉」という作品が「不気味で不吉」と紹介されていた。

確かに、人が誰もいない、しかし扉の開いている部屋の絵からは何とも表現しがたい雰囲気を感じる。扉から漏れる光からはどことなく暖かさも感じ、「不気味」という言葉では片付けられない魅力があるように思えた。私はしばらくその作品を見つめ、近々必ず実物を見ようと決めた。

今回の記事では、私が実際に展示を見た感想をご紹介したい。
開催期間があと約1ヶ月ということで、少しでも気になった方は是非足を運んでみていただきたいと思う。

デンマーク絵画全体を包む「Hygge(ヒュゲ)」な雰囲気

「ハマスホイとデンマーク絵画」の展示はいくつかのパートに分かれている。
ハマスホイの作品に至るまでに、まずはデンマーク絵画の代表的な画家複数名による作品があり、そこでデンマーク絵画を形成するものや、当時の時代背景を知ることができる。

ある作品の解説で使われていた「Hygge(ヒュゲ)」という言葉が、まさにデンマーク絵画全体に漂う独特の雰囲気を物語っていた。
「Hygge」とは、デンマーク語で「幸せを感じる居心地のよさ、心地よいことや時間」という意味であり、デンマーク人に大切にされている概念である。
※「Hygge」について知る上で、下記のサイトを参考にさせていただいた。

今回展示されていた作品にはこの「Hygge」の風景を描いたものが多く、例えばハマスホイの友人であったヴィゴ・ヨハンスンの「きよしこの夜」という作品がとてもわかりやすい。画家と妻や友人、子供たちがクリスマスツリーを囲む団欒の風景を描いたこの作品は、まさに「幸せで心地の良い空間」を切り取って形に残したようなものだ。

このように、基本的には日常生活を穏やかに描いた作品が多く、「Hygge」の概念を知ってからは、まるで自分が静かで幸せな日常をその場で楽しんでいるような気分になれた。
この感覚は、日本の「ていねいな暮らし」に近いと感じている。派手できらびやかな出来事が起きなくても、普段暮らしている部屋や使うものに愛着を感じながら、そっと毎日を過ごしてみたい。

デンマーク絵画の中でも特筆すべきハマスホイの描く空気

上記のような作品をうっとり見ながら進んでいくと、ついにお待ちかねのハマスホイ作品パートに突入する。(ハマスホイを全く知らなかった私だが、この頃にはすっかりハマスホイファンによる出待ちのようなテンションになっている。)

ここで驚くのが、ハマスホイの作品はやはり明らかに異なる空気を纏っているということだ。
統一感のあるグレーの色使い。要素の少ない部屋に画家の妻の後ろ姿が浮かぶ。かと思えば、人物が不在の窓から挿す光の絵がある。

この展示で最も楽しみにしていた「開いた扉」とも対面した。
そこで感じたのは、この作品は単に「不気味で不吉」ではないこと。他のデンマーク絵画と同様に「Hygge」の空気が漂い、そこでの誰かの(画家の)生活に思いを馳せることができる。
ただその余りにも我々の現実から離れた静かさに、遠い遠い架空の国のお伽話のような、誰からも忘れ去られた小さな世界の物語のような不思議さを感じ、その違和感が人々を魅了しているのかもしれない。

未だかつて、ここまでグッズのクオリティが高い展示があっただろうか

最後にご紹介したいのが、今回の展示の公式グッズである。
美術展にはたくさん訪れるが、最後のミュージアムショップで購入するものと言えば、せいぜいポストカードやクリアファイルくらいのものだった。
ただ、今回は事情が違った。作品が印刷されたグッズだけでなく、デザイン性に大変優れたグッズが充実しており、「これは大層気合が入っているな…」と思わせるラインナップだ。グッズにはハマスホイ作品のグレーに合わせて調合された展覧会オリジナルカラーが使われているという手の込み具合である。

私の戦利品をいくつか紹介させていただきたい。

こちらはハマスホイオリジナルカラーキャンドル。1100円(税込)で、燃焼時間は約18時間とのこと。アロマキャンドルではないので特に香りはしないようだが、ロゴが書かれた瓶に入っており、灯りとともにほんのりロゴの影が浮かぶのがなんとも素敵である。
我が家の渾身の「ていねい」グッズであるキャンドルウォーマーランプとともに楽しんでいる。

ロゴが書かれたキーリングも、とてもシンプルなデザインに心惹かれてしまい購入。こちらは値段を失念してしまったが、500〜1000円の間だったと記憶している。

自宅にあるIKEAのフォトフレーム(8枚を一度にディスプレイできるデザインのフォトフレームはなかなか無いので、大変気に入っている)に入れて飾る用に、8枚もポストカードを購入してしまった。全てハマスホイ作品で統一し、自宅でもその空気感を楽しめるようにした。

有名な絵画の実物を見てみたいという気持ちで美術館を訪れる方も多いと思う。私も以前はどちらかというとそのタイプで、ルノワールやモネの絵画を見るとやはり感動を覚えた。
ただ、自分の知らなかった画家と偶然「出会える」のも美術館の醍醐味である。大袈裟なようだが、ふと足を踏み入れたことがきっかけで自分の価値観を変えるような出会いがあるかもしれない。

よく晴れた日や少し曇った日、あるいは雨の日でも、上野公園の散歩を楽しんでいたら、いつの間にかある時代のデンマークの生活に迷い込んでしまう。そんなため息が出るほど素敵な体験を、是非味わってみていただきたいと思う。


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