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こどもの育て方について

こんばんは伊藤です。もし自分の親戚や自身にこどもがいたら、なるべく確かな教育をさせてあげたいですよね。

今日はそんな将来漠然と「子供が欲しいなぁ」と思っている人、身のまわりに小さい子がいる人に向けて、こどもの育て方についてのお話です。


今回取り扱う本は、教育経済学者、中室牧子さんの「学力の経済」。

この度多くの現役の先生方からいいねをいただけて恐縮です。ありがとうございます!
「経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てに関する発見は教育評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりもよっぽど価値がある。むしろ知っておかないともったいないことだとすら思っています。」

と著者は語っています。


「学校の現場を無視している」だとか、「児童生徒の個々の体験を無視している」などの反発意見もありますが、これはあくまで統計に基づいたマクロな分析です。正論が現場では合理的ではないこともあります。そのなかで、自分が納得のいくものを様子を見ながら用いて、修正を重ねていけばいいのではないでしょうか。

では内容に移ります。

子供をご褒美で釣ってはいけないのか

ハーバード大学のフライヤー教授はこれまでに米国のシカゴ、ダラス、ヒューストン、ニューヨーク、ワシントン DC の5都市で、ご褒美の因果効果を明らかにする実験を行ってきました。実験は実に94億円を使い約250校、小学2年生から中学3年生までの約36000人もの子供が参加した大規模なものでした。

ご褒美のことを経済学では「外的インセンティブ」と言います。親や教育者はこうした外的なインセンティブを教育の現場で用いると短期的には子供を勉強に向かわせることに成功したとしても一生懸命勉強するのが楽しいというような好奇心や関心によってもたらされる内的インセンティブを失わせてしまうのではないかという点についても心配されているようです。

「将来、ご褒美を出さなかったら動かない子供になってしまったらどうしよう。」その気持ち、僕もよく分かります。

しかし、分析の結果、統計的には、ご褒美を与えることは必ずしも子供の「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせるわけではないことが判明しています。そして、同実験の中で、子供が小さいうちはトロフィーのように子供のやる気を刺激するようなお金以外のご褒美を与えるのが良く、一方で中高生以上にはトロフィーよりもお金が効果的だったことも分かりました。

そして、フライヤー教授が事後的に行ったアンケート調査の結果によると、ご褒美にお金を貰った子供達は、お金を無駄遣いするどころかきちんと貯蓄をし、娯楽や衣服食べ物に対して使うお金を減らすなど、より堅実なお金の使い方をしていたことが分かりました。この実験ではご褒美と一緒に貯蓄用の銀行口座を作ったり家計簿をつけるなどの金融教育が同時に行われていたこともその一因だと考えられます。お金というご褒美を頭ごなしに否定するのではなく、金融教育も同時に行えば子供達はお金の価値に加えて得することの大切さまでも学んでくれるのです。

ただ、お金をあげるのではなく、お金の価値や使い方、貯め方、増やし方などのファイナンシャルリテラシーまで教えてあげると、お金を上げること自体が教育の一環となりえそうです。ただ、お金を渡すに終わってしまうのは、教育が中途半端になり、それこそ内的インセンティブを失いそうですね。

さて、ご褒美の是非は言及しましたが、ご褒美のあげ方についてはどうでしょうか?

ご褒美のあげ方1.勉強の仕方を明確にする

フライヤー教授の同実験でこのような実験も行われました。

A.テストで良い点を取ればご褒美をあげます

B.本を1冊読んだらご褒美をあげます

結果はBの圧勝でした。ご褒美は「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」や「宿題をする」などのインプットに与えるべきです。

※実験ではアウトプットを「学力テストや通知表の成績などを良くすることにご褒美を与えること」、インプットを「本を読む、宿題を終える、学校にちゃんと出席する、制服を着るなどのことにご褒美を与えること」としています。

特に数あるインプットの中でも本を読むことにご褒美を与えられた子供たちの学力の上昇は顕著でした。一方でインプット組と同様に喜びご褒美を獲得しようとやる気を見せたのにも関わらず、アウトプット組の学力は意外にも全く改善しませんでした。

その重要なポイントは、勉強の仕方が明確かどうかにありました。

アウトプット組は何をすべきか具体的な方法が示されていないため、やる気は十分なのに、学力のあげ方が分からなかったのです。

そのため、対策としてまず「勉強の仕方」を勉強することが重要になります。

(これは勉強するものにとって痛い話ですね。多くの人に応用できます。)

もし、勉強の仕方をケアしてくれる人がいるのであれば、アウトプット型報酬でも問題ないことになります。例えば、信頼のできる塾のような。

以上の結果から、何か報酬を与える際は、インプット型報酬とアウトプット型報酬を使い分けていきましょう。

ご褒美のあげ方2.時間割引率を考える

さて、もう一つの問題です。

A.1時間勉強したら勉強が終わった後にお小遣いをあげるよ

B.テストで良い点を取ったらお誕生日にお小遣いあげるよ

ここまで読んできた方であればなんとなく分かりますね。

正解はAです。しかし、今回の問題では、勉強の仕方についてはどちらも言及されていません。

ここで、もう1つ重要な考え方が時間割引率という考え方です。

人間は今と将来を比べると、今目の前にある利益や満足の方を優先しがちな選好を持っており、これを経済学の用語では時間割引率が高いという。そして近い将来の時間割引率の方が遠い将来の時間割引率よりも高くなることを経済学の用語で双曲割引という 。

人間は「今すぐに貰える1万円」と「1年待てたら増額して1万1000円」の二択の場合、今すぐに1万円を貰いたがる人が多いです。年利10%は非常に良い数値だというのに(ちなみにインデックス投資の中で最良のS&P500の平均利率は年7%です)

「A.1時間勉強したら勉強が終わった後にお小遣いをあげる」のように、すぐに得られるご褒美を設定することは、「今勉強すること」の利益や満足を高めることに繋がります。

まとめましょう。

「人は目先のご褒美をちらつかされつつ、正しい方法に導かれながら作業をすると、やる気が持続し、良い結果へと繋がる。」

これ、周りの人に使ってみてください。

こどもを褒めていいのか

こどもがテストでいい点を取って帰ってきた時、

A.○○はやればできるのね

B.よく頑張ったわね

どちらでしょうか?

結論は、「子供の元々の能力(頭の良さ)を褒めると子供たちは意欲を失い成績が低下する」ことが分かっています。そのため、こどもを褒める時には「あなたはやればできるのよ」ではなく「今日は1時間も勉強できたんだね」「今月は遅刻や欠席が1度もなかったね」と具体的に子供が達成した内容をあげることが重要です。

※僕の推し心理学者であるアルフレッド・アドラーは「褒めるのではなく、子どもの気持ちに寄り添って、自分の気持ちを伝える勇気づけをするべき」と言及しています。ただし、本書の褒めるとアドラーの勇気づけは組み合わせ可能だと思います。(これでひと記事書けそうです)
例:〇〇、今日は1時間も勉強できたんだね〜(あくまで上からではなく穏やかに)。はい!お約束のご褒美。○○、嬉しそうね。お母さんも嬉しいわ。

テレビやゲームはこどもに悪影響を及ぼすのか

1時間程度の時間であれば、問題ないと本書では結論付けています。

1時間テレビやゲームをやめさせたとしても男子は最大1.86分、女子は最大2.70分学習時間が増加するに過ぎない。
1日1時間までならテレビもゲームも問題ない。2時間以上だと学習時間などへの負の影響が飛躍的に大きくなる。

以上の内容は香川のゲーム条例を支援するような内容ですが、これについては幼児期や児童期などのこどもの年齢によっても変わると僕は自身の経験から思いました。

僕の人生で自覚している古い記憶の一つに「祖母の家の近くでポケモンの銀を買い、プレイしたこと」があります。親はとりあえずゲームを与えたら僕が泣き止んだのでゲームを与えていたそうです。幼児期の体験を引きずり、児童期にかけて任天堂にどっぷり使った時期を過ごしました。小学生が終わるまでは息をするようにゲームをしていましたね。(特にスマブラとマリカは今でも善戦できます)。自分でゲーム機器を持つと今でも中毒のようにやってしまう恐れがあるので、自分では買わない、持たないようにしています。

当時はゲームの魅力に憑りつかれていましたが、今思うと、もっと絵を描いたり、音楽をやったりと創造的な行為に時間を費やしたかったですね。自分の体験を思い返すと、特に幼児期のゲームへの触れ具合がその後の行動に強く出ると思っています。本当に中毒になります。

今回はテレビとゲームについての検証でしたが、最近だとyoutubeなどのスマートフォン、タブレットの使用なども控えたほうがいいと思います。それについてはこんな情報があります。

スティーブ・ジョブズは2010年末にニューヨークタイムズ紙の取材を受けた際、記者のニック・ビルトンに対し、自分の子どもたちはまったくipadを使っていないと語っている。「子どもが家で触れるデジタルデバイスは制限しているからね」。ジョブズだけではない。ビルトンの記事によれば、IT業界の大物たちの多くが似たようなルールを取り入れている。ツイッターを生み出したエヴァン・ウィリアムスも、幼い息子2人のために数百冊の書籍を買いそろえる一方で、ipadは与えていない。ー依存症ビジネスのつくられかた 僕らはそれに抵抗できない アダム・オルターより

以上から、特に幼児期のメディアやゲームの取り扱い方は本当に気を付けて制限しないといけないと思います。もし僕にこどもが生まれたのなら、家に「おすすめ書籍を完備した本棚」でも作っておこうかなと思います。

依存症、快感、神経回路についての本も数冊読んだので、今度紹介しましょう。

周りの友達が与える影響

学年に女子が多い場合その学年の子どもたちの平均的な成績は高くなる。
平均的に学力の高い友達の中にいると自分の学力にもプラスになる。ただし、学力が優秀な子供に影響を受けるのは上位層だけ。「学力の高い友達といさえすれば良い」は間違い。むしろレベルの高すぎるグループに子供を無理に入れることが逆効果になる可能性すらある。

以上のことが調査から分かっています。そこから習熟度別にクラスを分けることが推奨されています。

経済学では、「友人や周囲から受ける影響のことを良いものも悪いものも含めて「ピア・エフェクト」(直訳で同僚効果)と呼びます。

上記では周りにいい子がいる場合のデータでしたが、例えばクラスや近所に問題児、(親の場合はモンスターペアレント)がいる場合はどうでしょう。文中では、

引っ越しという強制的な環境の変化が負のピアエフェクトを小さくし子供を守ることもある。引っ越しによって友人が変わり、生活習慣が変わり、その結果、負のピアエフェクトが小さくなって本来の自分に戻ることが出来たということを示しているのです。

と、「引っ越しも真っ当な選択肢だぞ!!!!」と言及しています。結婚や小学校区選びはいくら情報を仕入れようと、ガチャのような運要素がありますからね。小学校区などは比較的変えやすいと思うので、もし深刻な場合は替えても良いのです(そうすると賃貸の方が生活を修正しやすそうですね)。

教育にはいつ投資すべきか

2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンの代表的な研究に「ペリー幼稚園就学前プロジェクト」があります。アメリカのミシガン州で1960年代から現在まで続く調査です。この調査から以下のことが分かりました。

人的資本への投資はとにかくこどもが小さいうちに行うべき。最も収益率が高いのは子供が小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)
※ここでいう人的資本とは、人間が持つ知識や技能の総称であり、人的資本への投資にはしつけなどの人格形成や、体力や健康などへの支出も含むため、必ずしも勉強に対するものだけではないのではない。

とされています。

ただし、気を付けたいのが、IQや学力テストなどの認知能力の差は小学校入学前にはそれなりに大きかったものの、小学校入学とともに小さくなりついに八歳前後で差がなくなるそうです。それよりも、非認知能力の向上に大きく影響が出ると言われています。

非認知能力について

非認知能力とは

・自己認識:自分に対する自信がある、やり抜く力がある
・意欲:やる気がある、意欲的である
・忍耐力:忍耐強い、粘り強い、根気がある、気概がある
・自制心:意志力が強い、精神力が強い、自制心がある
・メタ認知ストラテジー:理解度を把握する、自分の状況を把握する
・社会的適正:リーダーシップがある、社会性がある
・回復力と対処能力:すぐに立ち直る、うまく対応する
・創造性:創造性に富む工夫する
・性格的な特性ービッグファイブ:神経質 外交的 好奇心が強い 協調性がある 誠実性

※ビッグファイブはよくメンタリストのDaiGoさんが言及しており、現在、最も信頼性のある性格検査とされています。今度それでひと記事書きます。

などが挙げられます。ペリー幼稚園プログラムは認知能力には短期的な影響しかもたらさなかったにも関わらず学歴・年収・雇用などの面で長期的に大きな影響をもたらしました。幼少期のあそびから獲得する社会性や、しつけによる勤勉性などの獲得が重要になります。

(幼児期に具体的にどういった接し方をすればいいのかはここの章では言及されていませんでした。)

さらに、非認知能力は「成人後まで可鍛性のあるもの」も少なくありません。例えば、自制心は「細かく計画を立て記録し達成度を自分で管理することが鍛えるのに有効である」と心理学分野の多数の研究で報告されています。

また、部活動や生徒会活動、課外活動、社会奉仕活動が有効であるとされています。アルバイトも一部入りますね。(確かに僕の非認知能力を鍛えてきたもので、学級委員、生徒会活動、部活動はかなり影響が大きかったと思います。今振り返ってみて、例えば自分がしっかりしているから学級委員をしていたのではなく、学級委員をしていたから自分がしっかりしないといけないといった順序だったと思います。)

※4章以降は学校の制度に関する話のため、割愛します。

感想

たまたまふらっと読んだ本だったのですが、内容がとっても面白く、たいそう長い記事になってしまいました。多くの人が避けては通れない教育。「こどもは勝手に育つ」では済ましてはいけない問題です。

教育の平等を掲げながらも、実際に格差がついてしまっている世の中。僕は学部と大学院で異なる国立大学を経験しており、その格差をひしひしと感じています。やはりいわゆる偏差値の高い大学には実家が良い場所であったり、親の職業的にも高給取りであったり、首都圏有数の高校を出ていたりと納得のいく知り合いが多いです。なにかそういった家代々続く家資産というか、家資本、ハウツーや文化資本というのは目に見えず、報道されないだけで実態はかなりの差があるように感じます。その格差を知った上で、なるべく情報収集して次世代にバトンを渡していきたいですね。引き続き、大学院周辺の知り合いにかつてどんな生活をしていたかを聞き、先生側のからの視点として、教師になった小中高大の同期やお世話になった小~大の先生にも色々とお話を聞いてみたいと思っています。よろしくお願いします。

教育に関する最近の悩みについて

もし子供が生まれた場合、最短で0歳から始まる保育園。そして保育園に入れるか分からない待機児童問題。そして3、4歳あたりから幼稚園。幼稚園で繰り広げられるママ友との無慈悲なマウント争い。そして小学校から始まる受験戦争。

えげつない。世のお母さんお父さんに拍手を上げたい。

子育てにより無駄に勉強している時間が発生しそうにないので、今のうちに出来る限りのことをしておきたいと思います。両親が(もっと勉強しておけばよかった)と口酸っぱく言っていた理由がこの歳になって分かってきた気がします。

僕の入社予定の会社は全国転勤はなく、定住は東京通勤エリアになるので、将来は神奈川、東京、千葉、埼玉、地元の静岡(新幹線でも通勤手当が出ると思うので大穴)が候補になるのですが、今のところ検討はついていません。小学校区によって地価が相場よりも上下したりするなどのニュースも聞きますし、みなさんが、縁もゆかりもない土地をどうやって選んでいるのか気になっています。これはしばらくの課題ですね。

ではまた!



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