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VRでオリジナルIPを生み出す志『東京クロノス』【俺ゲームオブザイヤー2019】

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 正直を言うと、自分に2019年のゲーム・オブ・ザ・イヤー(GOTY)を語るような資格はないと思います。なにしろ2019年は、ゲームライターを名乗るのが申し訳ないぐらい、新作ゲームをロクにプレイできていなかったので。

 そのため、このテーマも最初は辞退しようかと思っていたのですが、「あくまで“俺”GOTYだから」ということなので、それならばと思って書いてみます。

 そんな自分の2019年の“俺”GOTYは、VRミステリーアドベンチャーゲーム『東京クロノス』しかありません。

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▲画像はAmazonの商品ページより、PlayStation VR版のパッケージを引用。ただし筆者がプレイしたのはOculus Go版のため、PS VR版とは細部の仕様が異なります。

 ここでもう1つ言い訳をしておくと、『東京クロノス』について自分が語ることは、まるで客観性がないものです。なにしろ自分は、『東京クロノス』発売前のクラウドファンディングに(エンディングに名前が載らない程度の少額とはいえ)参加しているのですから。公式の呼称を使えば「制作共犯者」です。そんな「共犯者」が言うところのGOTYが、どれだけ信憑性があるのかは分かりませんが、それでも良ければお付き合いください。

VRでオリジナルIPを成功させるための戦略が、見事にハマったプロデュース能力

 自分が『東京クロノス』に対して最も共感しているのは、「VRからオリジナルIPを発信するという志(こころざし)」の部分です。

 VRの魅力を伝えるのにいちばん分かりやすいのは、アニメや映画、ゲームなど既存の人気IPの作品世界に入り込める、という形です。だからこそ『攻殻機動隊』『進撃の巨人』といった日本のアニメから、『スター・ウォーズ』や『アイアンマン』のようなハリウッド映画まで、人気のIPを題材にしたVR作品が多数存在しています。その一方で、これまで誰も見たことのないオリジナルの作品世界をVRから発信している例は、決して皆無ではないものの、それほど多くはありません。

 また現状、VRでは「体験」が重視されており、VR酔いなどの問題もあって、数分間の体験に凝縮された作品が大半を占めています。そんな中で『東京クロノス』は、オリジナルの世界観とキャラクターからなる「物語」をVRで、しかもトゥルーエンドまでのプレイ時間が約15~20時間というボリュームで提示しているのです。VRといえどもゲームなのですから、やっぱりオリジナルの世界観で、しっかりとしたボリュームの作品を遊んでみたい。そうした期待に応えようとする志に、まず惹かれたのです。

 もちろん、ただ志だけでは意味がありません。重要なのは、その志をいかに実現させるかのプロデュース能力です。その点で、『東京クロノス』の最大の推進力となっているのが、LAMさんによるキャラクターデザインやキービジュアルでしょう。

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 2018年5月に本作が発表された時から、印象的な表情とビビッドな色使いのキャラクターが非常に新鮮だったのですが、それから発売までの間にLAMさんご本人がいろいろなところで活躍するようになり、その画風も一気に認知度がアップ。それとともにゲームも注目を集めるという好循環を生み出していました。これは別に最初から計算されていたわけではないでしょうが、LAMさんという新しい才能にいち早く注目して起用したセンスは流石だと思います。

 そして何より驚いたのが、ボーカル曲の豪華さです。全部で5曲のボーカル曲が作品中で使用されていて、しかもOP主題歌に藍井エイルさん、ED主題歌にASCAさんが起用されているというのは、アニメ原作ならともかく、オリジナルAVGではあまり見たことのないレベルの顔ぶれです。ましてや本作は、ほぼインディーズのVR作品なのですから、本当にスゴイと思います。

 ただ、これはもちろんプロモーションの意味だけではなくて、ノベル系AVGに音楽、特にボーカル曲がどれだけ重要なのかは、このジャンルのファンであればよく知っているはず。実際、プレイヤーの心を一気につかむOPの演出や、クライマックスに流れるウォルピスカーターさんの「REVE」など、本作のボーカル曲は非常に効果的だと感じました。

VRノベルAVGとして、最初から完成の域に達しているインターフェース

 ゲームの比較的外側の話から入りましたが、じゃあ肝心のゲーム部分はどうなのでしょうか。実際にプレイしてまず感じるのは、インターフェースの丁寧さです。プレイヤーの視線の動きに合わせてテキストが段階的に追随したり、画面外のキャラが話す際には名前の左右にある波線の大きさでキャラのいる方向を指し示したりと、本当に細かいところまで配慮が行き届いています。VRでテキストをしっかり読ませるノベル系AVGのインターフェースに関しては、その最初期の作品である本作で、もういきなり完成の域に達していると思います(スキップの仕様がやや使いづらいですが……)。

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▲視点の中心から外れたキャラが発言した際には、名前の左右にある波線が大きい方向に、そのキャラが存在しています。音響の立体感も絶妙で、会話劇のリアリティを高めてくれます。

 いきなり未来の話になってしまって恐縮なのですが、今後、VRのハードが進化していくにつれて、このインターフェースもさらに進化していくことでしょう。ただその際、キャラがもっと多彩に動くといったアニメ的な表現を重視するにしろ、VR空間を自由に移動するといったゲーム的な表現を重視するにしろ、今のインターフェースが持つ軽快さや読みやすさは、できるだけ維持してほしいと思います。

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 もう1つ、すごく細かい点なのですが、メニュー画面を表示すると現在時刻が確認できるのも、嬉しいところです。VRのゴーグルを長時間装着していると周囲の状況が分からなくなって、ついつい時間が経過してしまっていることが多いので、この点で配慮が行き届いているのは、さすがにVRを日常的に使いこなしている人たちが作った作品だなぁと感じました。

「距離感」を表現するメディアのVRで、人間同士の「心の距離感」を描いた物語

 『東京クロノス』のシナリオは、1周目のラストはやや唐突で驚くものの、2周目に入ると各キャラクターの心情が丁寧に描かれるので、個人的には好感を持ちました。2周目は回想シーンが長めに続くので、その見せ方にもう少しメリハリがあれば良かった(回想シーンの見せ方自体は大好きなのですが)とか、とあるキャラにもう少しフォローが欲しかったとか、そういった細かい不満もあるのですが、自分としてはおおむね満足しています。

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▲『少女革命ウテナ』の影絵少女を思わず連想してしまう、『東京クロノス』の回想シーン。この回想シーンの演出や、トゥルーエンド後のタイトル画面を見ると、本作はミステリーというよりは、『エヴァ』『ウテナ』やゼロ年代のセカイ系AVGからダイレクトに続く作品の系譜に位置しているように感じます。

 『東京クロノス』に関してよく言われるのは、「テキスト主体のAVGをVRでプレイする意味があるのか?」という点です。これについては、そもそもVRでテキストを読むのはいけないのか? とも思うのですが、本作を最後までクリアした感想としては、VRだからこその作品だと感じました。

 VRには視覚や聴覚だけでなく、触覚や嗅覚、味覚など、さまざまな感覚のレイヤーがあります。その中で、現在の主流になっているゴーグル型のVRデバイスに関して言えば、何よりも自分と周囲との「距離感」が表現されるメディアだと思います。そして『東京クロノス』のシナリオは、各キャラクターとその周囲にいる人物との「心の距離感」を描いたものになっていて。プレイヤーの周囲を取り巻くキャラクターの立ち位置や視線から、自然と実感できる心の距離感。これが重要だからこそ、この物語はVRで描かれる価値があるのだと思うのです。

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 以上、「制作共犯者」からの主観バリバリの感想になってしまいましたが、客観的に見ても『東京クロノス』は、VRゲーム、VRコンテンツにとって非常に重要な意味を持つ作品だと思います。同スタッフが現在制作を進めている次回作『ALTDEUS: Beyond Chronos』では、さらなる進化を見せてくれることを期待しています! 


※本文中の画面写真は、Oculus Go版『東京クロノス』より撮影。
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