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01(ゼロイチ)~東日本大震災を経て~#13

■財産

東日本大震災から3年、休むこと一日も無く、死に物狂いで活動していた。体重は10kg落ち、めまいがすることも多くなりやむを得ず病院へ行った。

医師から過労だから一週間入院して下さいと言われ、活動が停滞するため入院は一泊にしてもらったが、その後も病院に行っては夜だけ入院する日々。家族には、仕事で帰れないと言い黙っていた。

正直、この時期の記憶は曖昧で、はっきりとしたことは覚えていない。

ある時期から、人に言われたことを覚えられなくなっていった。話したことを忘れ、仕事の約束を忘れ、情報が覚えていられない。

当時の仲間から、「長期間、休んだ方が良い」と言われた。休むわけにはいかないと思ったが、自分が迷惑を掛けていることも分かったので、休むことにした。

病院の精神科を受診し、先生へこれまでのことを話した。先生は泣いていた。この人なんで泣いているんだろう…悲しいのは被災された方々なのに…

薬を処方され、自室にこもり、コタツの端っこをただずっと見ていた気がする。心の中は「なに立ち止まってるんだ」「動け」と言った声がなっていたが身体が全く動かない。

ある日、スタッフから連絡が入った。外部のNPO法人が乗っ取ろうとしていると…。嘘だと思った。

ある日、これまで協力していただいた複数の団体から連絡がきた。当時運営していたNPO法人の役員(身内)と一緒に外部の団体の人がきて、私のことは応援しなくて良いから今後は共に活動していきましょうと言ってきた…と話してくれた。私は、そんな訳がない…と答えるしかなかった。

ある日、自分が立ち上げたNPO法人の役員からメールが届いた。私を代表から解任するという内容だった。どうやら記憶が曖昧な時期に約束を反故にしたり色々な方々にご迷惑を掛けたということだった。ご迷惑をお掛けした方々には、本当に申し訳ない。

当時の私は、ただただ恐怖を感じることしかできなかった。人が怖かった。何が起きていたのか、何が真実なのか、理解できなかった。ただ、私を解任しようとする内部の動きは、これまで関わってきて下さった外部の方々が随時私の耳に届けてくれた。そして悪い方に辻褄が合うような情報ばかりが入ってきた。

最も身近な存在に裏切られた。信用されていなかった。心が折れ、もう何もしたくないと思った。当時の私は、そう思うことしかできなかった。全ては私の自己管理能力の低さと、自己中心的な行動が起こしたことだった。

その後間もなく、ある方から連絡が来た。体調を心配しているのかと思ったら、一言「準備できたぞ」と言われた。最初は何のことか分からなかったが、以前に私が「災害ボランティアから企業研修や課外学習、修学旅行へ移行してもらい、受け入れるための組織をつくらなきゃいけない。これまでの縁を途切れさせてはいけない。」と話していたことの、その準備ができたとのことだった。

もう私は福祉の仕事へ戻ろうと思っていた…ただ「おめでとうございます。良かったですね」とお伝えした。また一言「言い出しっぺなんだからお前やれよ」と言われた。ほんの少しだけ「できる理由」を考えている自分がいた。気付いた時には「ですよね」と答えていた。

そこから、新たな組織(現 一般社団法人マルゴト陸前高田)を立ち上げる準備を始めた。しかし、問題があった。誰も企業研修や修学旅行のプログラムを作ったことがない。

悩んだ末、これまで災害ボランティアに訪れた企業、学校に連絡することにした。正直に言うと怖かった。連絡しても無視されるのではないか、愛想をつかされているのではないか、罵倒されてしまうのではないか…。精神的に落ちて以降一切連絡を取っていなかった。自分で立ち上げた団体から代表を解任された自分だと思うと、怖くてしょうがなかったがメールを送った。

その日のうちに、メールを送ったほぼ全ての方々から返信が届いた。

「次は何やるんですか?協力します。」といった内容だった。

私はそれまで、自分のふるさとのためにとばかり周りも見ずに活動していた。自分は何もできていないと無力感を感じ続け、自分は信用されない人間だと思い、最後には壊れてしまった。

だが、この時になって気付いた。私をこんなに「信用」してくれていた方々がいた。ただただ動き続けた「行動」を見てくれていた方がいたのだ。私は無力ではなく、こんなにもたくさんの縁、財産ができていた。

この時私は、故郷のためにだけではなく、こんな私を「信用」してくれる人たちのために、これからは活動していこうと思った。

2011年3月11日。あれから私は、「使命感」で活動していた。東日本大震災で被害を受けた故郷のために、被災地のために。しかし、2014年、こんな私を「信用」してくれた方々のお陰で「縁を繋いでいく」ということが目的になった。一歩前に進むことができた。

例え小さな「行動」だったとしても、仮に馬鹿にされたとしても、見ていてくれる人は必ずいる。そして「行動」を続けることで、仲間が増え、叶えられることが増えていく。「行動」することは勇気がいる。疲れることもある。しかしそれを続けることが、大きな「財産」になるのだ。

※第一部 使命感編 完結

短期間ではありますが読んで頂いた皆様ありがとうございました。第二部は一週間~十日ほど空くかと思いますが書きますので、少々お待ちください!



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