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【母が死んだら味噌おにぎりは】

味噌おにぎりが好きだ。

県外の大学に進み一人暮らしをしていた私が、お盆や正月に帰省するとなると、決まって母は聞いてきた。

『何が食べたい?』

その度に私は『味噌おにぎり。』と答えた。

料理上手な母は、『もっと何か無いの?』と笑ったが、私はいつも真面目な顔で『それがいい。』と答えた。

帰省すると、その時間に合わせて味噌おにぎりが出来ていたし、休みが終わり帰ろうとすると、新幹線で食べなさいとアルミホイルに包まれた味噌おにぎりを渡された。

母が死んだらもうあの味噌おにぎりが食べられなくなる、そう考えるととても淋しくなる。

母は、味噌おにぎりにみりんを混ぜたり砂糖を混ぜたりと色々改良を加えたが、私はしょっぱい味噌だけのものが好きだ。

味噌を塗って焼くだけ。

それだけなのに、私がやるとやっぱり味は違うのだった。

         ∇∇∇

14歳の秋、海外派遣出発の朝が来た。

東北の町からアメリカ・サンフランシスコまで行くのだ、集合時間はとても早かった。

まだ暗いうちに家を出る必要があった。

私は母が心配だった。
集合場所まで母が車で送ってくことになっていたのだが、彼女はとても低血圧で、朝が全くダメなのであった。

絶対早起きして母を起こさねば、と私は予定よりも早く起きた。

急いで部屋を出ると、廊下の方まで香ばしい匂いがしていた。

母はもうずっと早くに起きていて、私に持たせようと味噌おにぎりを作っていたのだ。

あの日から好きだ。


母の作る味噌おにぎり以上を私は知らない。

ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!