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あんた骨になりたいのか

そんなある日、私は思いがけず、近所で異国に足を踏み入れることとなる。

その日、私は友達と公園で遊んだあと、おしゃべりをしながら家へ向かって歩いていた。

すると、美味しそうな匂いと、ガヤガヤと楽しそうな笑い声が道の向こうから聞こえてきた。

その家を通り過ぎる際に、私たちは速度を緩め、何事が起きているのか横目で見た。

すると、なんとそこにいたのは、5、6人の白人達。

私の夢見たパラレルワールドがそこにはあった。 
夢にまで見た外国人が集い、庭でバーベキューをしていたのだった。

見たことのない異国の飲み物や、太陽にキラキラと輝くブロンドヘアや、飛び交う英会話。
憧れていた異質の世界にめまいがした。

彼らの数人が、私達に気づいて、肉の乗った紙皿を差し出して、人懐っこい顔で笑いかけてきた。

言葉は交わしていないのに、その仕草から、『おいでよ!バーベキューしよう!』という彼らの心が瞬時に伝わってきた。

私はその世界に、つられるがままに足を踏み入れた。
ドキドキしながら、つたない英語で少し会話をした。ハローとプリーズくらいだったと思う。
彼らがとても優しい人間だと分かるのに言葉数は必要なかった。
同じテーブルに座り、同じ肉を食い、同じ時を過ごす。それだけで、心は満たされるのだと知った。

私は、彼らと別れると、家路を急いだ。
異国の世界に入りこんだ興奮が私を駆り立てていたのだと思う。
早足で家に飛び込むと、私はついさっき起きた夢のような出来事を母に伝えようとした。

『お母さん!聞いて!!』
高揚して赤く染まった私の笑顔に、母の顔も明るくなった。

『さっきね、公園の通りの一軒家でバーベキューしててね!』
へぇーっと母は目を丸くしてみせた。

『誘われたの!一緒にどうぞって!』
あらまぁ、と母は笑ってみせた。

『白人のね、外人さんがたくさんいてね、英語を少し話したの!わたしが!』

すごいじゃない!あなたが英語話したの?!と母が驚く姿が想像できた。

しかし、次の瞬間。
それまでにこやかだった母の笑顔は一変し、恐ろしい形相で私を睨みつけた。

『何言ってるの!二度とあの家に近づかないで!!あんた骨になってもいいの!?』

今、私は一体、何の話をしていたのだろうか。

私は一体、何をしてしまったのだろうか。

一瞬で私の思考回路は凍りついた。

確かにさっきまで座っていたあの家の庭は、パラレルワールドだったのかもしれない。

今私が立っているこの家のキッチンは、深く沈んでしまって別次元であった。

ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!