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#迷走のループ
《迷走のループ》第6話 煙 【小説】
6-1 薄暗い部屋
(カタカタカタカタ…)
カーテンの引かれた薄暗い部屋の中で、パソコンのキーボードを叩く音だけが響いている。
リズミカルに響くその音が途切れるのと同時に、ギシッと椅子の背もたれが倒れる音がした。
「ふうっ…」
太った男がため息を漏らす。
男は椅子からのっそりと立ち上がり、キッチンの方へとのろのろと歩き出した。
キッチンには小さな容器が置いてあり、男がそれを開けると中に
《迷走のループ》第5話 真実への転換点 【小説】
5-1 疑念の芽生え
メイは恵子に対するインタビューを終え、礼を言って【愛の恵み占星館】を後にした。しかし、その胸には不安と疑念が渦巻いていた。恵子の言葉と態度には明らかな違和感があった。普段は、客観的な事実を頼りに取材するメイだったが、この時ばかりは、第六感ともいうべき勘が彼女を動かしていた。
「私の占いが彼女にとっての指針となっているのでしょう」
メイは恵子の言葉を思い返し、独り言
《迷走のループ》第4話 追い詰めていく 【小説】
4-1 占い士との出会い
メイは、篠原の正体を解明するため、山田恵子に連絡をとることに決めた。電話をかける前に、簡潔な話の筋を頭に整理した。
「初めまして。私、奥平メイと申します。ちょっと人を探しているのですが、神崎彩陽さんから紹介されて、山田さんにお電話を差し上げました」
メイが伝えると、電話の向こうで恵子が
「あら、彩陽さんの紹介で?人を探しているというのは、どのようなご関係の方
《迷走のループ》第3話 追い詰められて 【小説】
3-1 芽生える想い
山田恵子との出会いから数週間が経った。
ライターとしてのキャリアを閉ざされ、日々、運送会社で働きながら、請求されていた損害賠償金を徐々に返済していた篠原。恵子の言葉が心の中に棘のように刺さって残っている。
「あなたには、あなたの才能を活かしてたくさんの人を救うという運命が私には見えるわ」
恵子の言葉が何度も篠原の心に響く。それはまるで、石ころが水面に投げ込まれ
《迷走のループ》第2話 表舞台への帰還 【小説】
2-1 謝罪の言葉
都内の編集プロダクション「ワンマウント」に向かった篠原は、心の中に緊張と葛藤を抱えながらも、編集者たちと向き合う覚悟を整えていた。彼は自分の過去の過ちを正直に認める決意をし、それがどんな反応を引き起こすかを不安に思いながらも、心の底からの謝罪の言葉を用意していた。
少し前、篠原はプロダクションに電話をかけていた。
「あの…、以前そちらでお世話になっていた篠原です」
《迷走のループ》第1話 嘘の筆 【小説】
1-1 悪戦苦闘のライター
篠原武大、彼こそがこの物語の主人公である。
彼は都内の編集プロダクション「ワンマウント」に勤めており、そのオフィスは都会の喧騒とは対照的な、穏やかで落ち着いた雰囲気で満ちていた。
篠原のデスクは窓際に位置し、光と風が彼の仕事を照らしていた。
彼の胸中には、常にプライドと不安が交錯していた。篠原は独自の視点で記事を執筆することに誇りを持っていたが、同時に