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ビデオゲーム史研究:「右スティックでカメラ操作」という発明

1. はじめに

左スティックでキャラクターを移動、右スティックでカメラを操作。

3Dゲームではもはや当たり前となったこの操作体系ですが、3Dゲームの最初の頃から当たり前、というわけではありませんでした。

では、この「右スティックでカメラ操作」という操作を初めて導入したゲームは何なのか?

この疑問に答えるため、いろいろな資料にあたり、また、いくつかのゲームタイトルは実際に取り寄せてプレイして、確認してみました。

その結果としての結論ですが、初めて右スティックでカメラ操作を導入したゲームは、2000年に発売されたアクションシューティング「クロスファイア XFIRE」(エレクトリック・アーツ、PlayStation 2)だと思います。

本コラムでは、右スティックをめぐるビデオゲームの歴史を紐解き、3Dゲームが「右スティックでカメラ操作」という操作方法を確立するまでの変遷を整理したいと思います。

2. 初代デュアルショックの登場(1997年)

ここではっきりさせておく必要があるのは、初代デュアルショックの登場=右スティックでカメラ操作の発明「ではない」、ということです。

初代PlayStation(PS1)向けのコントローラであるデュアルショックは、その半年ほど前に発売された「アナログコントローラ(初代)」を改良するかたちで、1997年11月に発売されました。(同時期から本体にも同梱されるようになりました。)
デュアルショックの登場を以てPS1におけるアナログコントローラが確立し、その外観と機能は、最新であるPS5向けコントローラ「DualSense」に至るまで継承されています。

しかし、PS1の3Dゲームには、右スティックでカメラを操作するものは皆無でした。

ほとんどのPS1のゲームは、従来の(=アナログスティックを持たない)コントローラでも操作できるように作られていましたから、デュアルショックだけで可能な操作を導入することは困難でした。

数少ない例外としては、デュアルショック専用の「サルゲッチュ」(ソニー・コンピュータエンタテインメント、1999年)や、ロボットを操作する「リモートコントロールダンディ」(ヒューマン、1999年)があります。
しかしこれらのゲームでは、右スティックは、装備しているメカを使用したり、ロボットを操縦する操縦桿に見立てたり、ゲーム上のギミックとして使われており、カメラを操作する目的では使われていませんでした。

このように、初代デュアルショックの登場によって、ハードウェアとしては現代と同様に操作できるデバイスが確立したものの、当時はまだ「右スティックでカメラを操作する」という発想が生まれていなかったことが分かります。

3. 3Dゲーム黎明期におけるカメラ操作の試行錯誤(1994年〜1999年)

さて、3Dゲームの黎明期である1994年〜1999年ごろ、セガサターン(SS)・NINTENDO 64(N64)・ドリームキャスト(DC)といったPS1以外のプラットフォームにおいても、それぞれ、3Dゲームにおけるカメラ操作が試行錯誤されていました。

いち早く「3Dゲームにおけるカメラ操作の重要性」を見抜いていたのは、この時期「スーパーマリオ64」(N64, 1996年)と「ゼルダの伝説 時のオカリナ」(N64, 1998年)を送り出した任天堂でした。
「スーパーマリオ64」では、アナログスティックによる操作ではないものの、4つのボタンからなる「Cボタンユニット」によってある程度自由にカメラを操作できましたし、「時のオカリナ」では、以降の3Dアクションゲームにおけるカメラ操作の標準となる「Z注目」が生み出されました。

(※「スーパーマリオ64」と「時のオカリナ」のカメラ操作については、以下に示すhamatsu氏による評論が詳しいです)

また、オープンワールドゲームの始祖に位置付けられることも多い「シェンムー  一章 横須賀」(DC, セガ・エンタープライゼス, 1999年)では、アナログスティックでカメラを自由に操作することができました

ただし、ドリームキャストのコントローラには左アナログスティック1本しかありませんでしたから、方向キーでキャラクター操作・左スティックでカメラ操作という、現代の感覚からすると違和感がある操作体系を取らざるをえませんでした。

このように、PS1以外のプラットフォームにおいても、3Dゲームにおけるカメラ操作はいくつか試行されていたものの、PS1以外ではアナログスティックが1本しかなかったため、「右スティックでカメラ操作」という操作体系には到達しなかったことが分かります。

4. PS2の発売、そして「右スティックでカメラ操作」の誕生(2000年)

いよいよ、本コラムの本題に入ります。

2000年3月4日、PlayStation 2(PS2)が発売され、発売から3日間で約100万台が販売される記録的なヒットとなりました。
この時期、PS1と比較して格段に向上した表現能力を生かすかたちで、RPG・シューティング・アクションといった様々なジャンルの3Dゲームが発売されました。

そしてついに、「右スティックでカメラ操作」という操作体系を導入したものが生まれたのです。

本記事の冒頭で述べたとおり、それは、2000年8月3日に発売されたアクションシューティング「クロスファイア XFIRE」(エレクトリック・アーツ、PlayStation 2)です。

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(ちなみに、同じ日に「アーマード・コア2」そして初代「真・三國無双」が発売されています)

本作のジャンルは今でいうTPSで、左スティックでキャラクター移動・右スティックでカメラ(とキャラクターの向き)の操作・L1で構えてR1で射撃といった具合に、現代のゲームと大きく変わらない操作体系がとられています
今回の調査のために実際にプレイしてみましたが、少なくとも操作に関しては、違和感を感じることなく遊ぶことができました。

本作よりも前に発売されたゲームには、右スティックでカメラを操作するものは見当たらなかったため、本作「クロスファイア XFIRE」を「右スティックでカメラを操作した世界初のゲーム」と認定してもよいと考えます。

(※ちなみに、この時期の3Dゲームのカメラ操作は、様々な操作体系が乱立しており、現代の感覚ではかなり遊びづらいものが少なくありません。
フロム・ソフトウェア1社をとっても、FPS視点のRPG「エターナルリング」(2000年3月4日)やロボットアクション「アーマード・コア2」(2000年8月3日)ではカメラ操作が方向キー左右とL2・R2に分散配置、3DRPG「エヴァーグレイス」(2000年4月27日)ではR1を押しながら方向キーといった風に様々です)

5. その後(2001年以降)

前の章で述べたとおり、2000年8月に初めて右スティックでカメラ操作を行うTPS「クロスファイア」が発売されたわけですが、この操作が世の中に浸透するのには、少し時間が必要でした

「真・三國無双」シリーズは、2001年9月に発売された「真・三國無双2」においても右スティックには何の操作も割り当てられていないままでしたし、2001年7月に発売された「FINAL FANTASY X」においても同様でした。

しかし、ファイナルファンタジーシリーズは、2002年5月に発売された「FINAL FANTASY XI」から、そして、ドラゴンクエストシリーズは、2004年11月の「ドラゴンクエスト XIII」から、それぞれ、右スティックにカメラを動かす操作が割り当てられました。

日本を代表する二大フランチャイズに「右スティックでカメラ操作」が導入されたことで、そして、2005年末にはXBOX360の発売によってゲーム機が第7世代に移行したことによって、この操作体系は完全に定着したと考えられます

6. おわりに

今回は、今や当たり前の操作となっている「右スティックでカメラ操作」の起源を求めて、ビデオゲームの歴史を紐解きました。

今回、可能な限り詳細な調査を行ったつもりですが、不十分な点も残されています。

確かに、「クロスファイア」は右スティックでカメラ操作を行うゲームでした。
しかしその挙動は現代とは少し違っていて、カメラだけでなくキャラクターの向きも同時に変わります。つまり、常にキャラクターが画面に対して背を向けるような形になるのです。

それでは、現代のように、キャラクターの向きは変わらずにカメラだけが動く挙動を最初に導入したゲームはというと…、今回はそこまでは調査できませんでした。今後の課題としたいと思います。

また、日本国外の状況やPCゲームの状況の調査も不十分です。とはいえ、2000年代初頭くらいまでは世界のコンシューマゲームシーンは日本が牽引していたといってもよいですし、この時期のPCゲームは、ゲームパッドではなくマウスとキーボードで操作することが主流だったので、大きく結論が変わることはないと考えています。

(ちなみに、類似の操作である「FPS視点のゲームで右スティックで視点を動かす」に関しては、初代XBOXの北米での発売と同時に2001年11月に発売された「HALO: Conbat Evolved」(Bungie/Microsoft, XBOX)が、本格的な普及のきっかけだと思います。)

今では当たり前のように思えるシステムだったり操作だったりにも、必ず始まりがあります。
それらの起源を追い求めることで、ビデオゲームの世界をより一層豊かに感じられるようになるのではないかと思います。

(了)

2020.10.22 Itaru Otomaru


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