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「ゲーム史を塗り替える傑作」…の原石〜Cyberpunk 2077評

<この記事の要約>
・本作「Cyberpunk 2077」は、「傑作の原石」のような作品でした。
・舞台となるナイトシティの作り込みは素晴らしく、また、ゲーム中に詰め込まれた様々な要素は、どれも最高品質です。
・一方、難点として、原作(TPRG版)譲りの自由なロールプレイをさせたいのか、ウィッチャーシリーズのように、キャラクターが確立した主人公による、作り込まれた物語を体験させたいのかが定まっていない点があり、傑作になりきれない、惜しい作品であったと考えます。

※ 僕は本作を基本的にXbox Series Xでプレイし、比較のためXbox One Sでも短時間プレイしました。
※ 本評論にはエンディングの展開について触れている箇所があります。未クリアの方はご注意ください。

1. はじめに

サイバーパンク2077。この巨大なゲームの評論に、無謀にも挑戦しようと思います。

本作ですが、ゲームに詰め込まれている様々な要素は、これまでのどんな作品も凌駕するクオリティを達成していると思います。
一方で、それら要素を1本の作品としてまとめる際の整理が不十分で、焦点が絞り切れていない印象を受ける作品でもあったと思います。

言い換えると、まだまだ磨かれる余地があった「傑作の原石」のような作品だったと考えます。

以下、上記の論点に基づいて、本作の素晴らしい点と難点を整理します。

2. 本作の素晴らしい点

素晴らしい点その1:ナイトシティの作り込み

本作をプレイした人誰もが、本作の舞台となる大都市「ナイトシティ」の作り込みの素晴らしさについては、認めるところだと思います。
遠くから臨む遠景が美しいのは言うまでもなく、大通りから外れた路地裏一つ一つも緻密に作り込まれており、ビデオゲーム的な省略や手抜きを感じさせる部分は、ほとんどありません。
(※以下は両方とも、Xbox Series X版のフォトモードで撮った、ゲーム内画像です。)

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個人的には、路地からビルを見上げると、窓ガラスが黒塗りで処理されているのではなく、ちゃんと室内の様子が作り込まれているのが、高評価でした。

ゲームプレイの観点だけから言うと、これらの作り込みは明らかに過剰です。
しかし、このように作り込まれていることで、プレイヤーを、小説「ニューロマンサー」の千葉シティ、あるいは映画「ブレードランナー」のロサンゼルスに入り込んだかのような気分にさせることに成功していると思います。

素晴らしい点その2:ドラマティックなカットシーン演出

ミッションの要所で挟み込まれるカットシーンは、ゲームプレイと同じFPS視点で進行しますが、どの演出も素晴らしいと感じました。

そもそも、本来、FPS視点とカットシーン演出は相性が悪いです。
カットシーン中も主人公が自由に動けるようにしてしまうと、シリアスなシーンなのに主人公がグルグル辺りを回ったりする滑稽さが生じますし、かといって動けないようにすると、そこだけプレイヤーが制御を奪われたような違和感が生まれます。
そのため、FPS視点でストーリー演出に成功している作品は、ゲーム内に配置された事物によって間接的にストーリーを想像させる、いわゆる「環境ストーリーテリング」を導入している場合が多いです。

しかし、本作は、カットシーンによるストーリー演出にど直球に挑戦し、そして成功しています
カットシーンの場面では、主人公を閉ざされた空間に配置したり椅子に座らせたりすることで、違和感なく移動を制限しています。
また、ミッションの時間進行がうまく調整され、例えば朝焼けを意図したシーンはちゃんと明け方の時間に発生するようになっています。

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本作の開発元であるCD Projekt REDは、ストーリー演出が高く評価されたRPG「ウィッチャー」シリーズで名を上げた会社でしたから、本作においてもストーリー演出はかなり重視したポイントであったと思います。
そして、ここまでに述べたように、その試みはかなり高いレベルで成功していると思います。

その他にも…

ここまでに挙げた以外にも、本作の各要素はどれも高品質に作り込まれています。
登場するキャラクターたちの造形は個性的でどれも素晴らしいですし、吹き替えを含めた日本語ローカライズの素晴らしさは、いうまでもありません。

3. 本作の難点

しかし、本作にはいくつか難点もあります。
世評でよく指摘されるのは、バグや旧世代機でのパフォーマンス問題など表面的なものですが、本評論では、「原作(TPRG版)譲りの自由なロールプレイをさせたいのか、ウィッチャーシリーズのように、キャラクターが確立した主人公による、作り込まれた物語を体験させたいのかが定まっていない」点を挙げます。

主人公は外見・性別・出自を任意に設定できますし、プレイヤーの選択によってエンディングが複数に分岐するので、一見すると「自由な」ロールプレイを志向しているように見えます。
一方で、主人公のキャラクター性は、会話の内容や声のトーンによって確立しているため、ウィッチャーシリーズのようなゲームであるようにも見え、どっちつかずに思えます。

メインストーリー周りの問題

上で指摘した点は、特にメインストーリーにおいて顕著です。
僕が一番、問題を感じたのは、エンディングの一つ「星」でした。

僕は主人公の出自をノーマッドにしていたので、「荒野から来た主人公が、ナイトシティで様々な経験をして、また荒野に帰ってゆく」という決着は、行きて帰りし物語の大団円として、とても美しく感じました
しかし、どうもこのエンディングは、主人公が男性かつ、キーキャラクターである女性「パナム」と恋愛関係であることを前提としているようで、主人公を女性に設定していた僕には、違和感が強かったです。
パナムと主人公は単なる友達のはずなのに、ラストシーンでまるで恋人のように体を寄せ合っていたので、「パナムは異性愛者のはずじゃ!?」って思いました。

プレイヤーが自由にキャラクターを設定できるTRPG的なゲームのエンディングにしては、「このエンディングでの主人公像はこうあるべき」という開発者側の想定が強すぎるのです。
TRPGにしたいのか、ウィッチャーシリーズに寄せたいのか、決断する必要があったと思うのですが、二兎を追った結果、焦点がブレてしまったように思います。

その他にも…

その他にも、難点だと感じるところはあります。
本作のシステムは高品質で、また、ハッキング関連のスキルツリーなど、サイバーパンク的ギミックがうまく落とし込まれているはいるのですが、基本的には、オープンワールドRPGにはよくある感じで、凡庸です。
言い換えると、このゲームシステムの舞台が、狂気の如く作り込まれたナイトシティである必然性が特にないのです。

例えば、ナイトシティの作り込みを堪能させることを重視するのであれば、「L.A. Noire」のような捜査・推理アドベンチャー要素をメインにするなど、工夫する余地があったと思います。
そういった感じに「このナイトシティを舞台とするのであれば、どういうゲームにするのがふさわしいのか」を、知恵を絞って考えた形跡は、本作からはあまり伺えません。

全体としては、「どういうゲームにしたいのか」「プレイヤーにどういう体験をさせたいのか」というゲームデザイナーの意思があまり伝わって来ず、作った要素をとりあえず組み合わせてみた、という印象を受け、焦点のボケた作品であるように思いました。
これが、僕の考える本作の難点です。

4. まとめ

本評論では、「Cyberpunk 2077」の素晴らしい点と難点を論じました。総評としては、本作はまだまだ磨かれる余地のあった「傑作の原石」ともいうべき作品だったと思います。

とはいえ、グラフィック・サウンド・演出・ゲームシステム全てにおいてかなりの水準をクリアした、現世代最高水準のビデオゲームであることは間違いありません。
(ただし、次世代機もしくは一定水準以上のPCで遊ぶ場合に限る)

本評論を執筆した2021年2月現在において、本作は品質改善アップデートの只中にあり、また、次世代機(PS5 / Xbox Series X)向け最適化も控えているため、本作のプレイ体験は今後さらに向上すると思います。

さらに進化を遂げるであろう本作の行く末を、楽しみに待ちたいと思います。

(了)

2021.2.20 Itaru Otomaru


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