できる人ほどフリーで稼げる時代に、会社に所属する意味はあるのか:一橋大学・楠木建

異端会議からの転載です。(異端会議サイトでは無料です)

今の時代に、会社に所属する意味とはなんなのか

薮崎 「フリーランスや副業などの働き方がだんだん広がり始め、クラウドソーシングやクラウドファンディングなどのプラットフォームが出来てきている今だからこそ、企業に所属する意義をきちんと明示しなければならないと思っています。」

楠木 「会社=組織の代替物としての「市場」というメカニズムがここまで発達してくると、組織の本質というか存在理由が鋭く問われるようになる。それが僕の時代認識です。」

薮崎 「どのような本質なのでしょうか。」

楠木 「みんなが『ここにいたいな』と思える会社を作らなければならなくなっているのです。インターネットの発達によって、物やサービス、そして人間まで市場で簡単に取引できるようになりました。だからこそ、『長期契約という形で会社という組織に所属するのか』ということは、今一度みんなが考えなければならないと思います。まず、市場ではない取引メカニズムを持っているのが会社であり、市場メカニズムが効かないようなことについてもうまく扱えるということが、そもそも会社の存在意義だと思うのです。要するに、本当の意味での経営力が問われる時代になったということです。」

薮崎 「なるほど。個人と会社は単なる金銭的な関係ではなく、会社に所属することでそれ以外の価値を得ることができるということでしょうか。」

楠木 「組織と個人はどこまで行っても価値交換の関係にあるわけですが、いまこの時点での『値段』では十分に説明できない価値をもたらすような組織になっている必要があります。高いスキルを持つ人、たとえば今だと、AIの知識や能力を持っている人は、少しでも高い給料の会社に所属したいと思うでしょう。しかし一方で、AIで自動運転を開発している会社にいて本人もそれを面白がっているならば、もっと給料が上げてほしいとなった場合でもたかが知れていると思います。後者の選択をする人が多い方が、健全な社会で、健全な会社だと思いますし、そうでないならば、会社として存在する意味はない。」

楠木 「いろんな切り口があると思いますけれども、ひとつには『明るく疲れることが出来る会社』だと思いますね。どんな仕事も辛いことや大変な目に会うことがありますが、明るく疲れる会社と暗く疲れる会社、この違いです。たとえば、『自分が今やっていることが一体何になるか』、『自分の将来にとって何になるか』、『自分が関わっている会社が世の中に何を提供している』など、いろいろ観点で理解して納得できているのが、明るく疲れられる会社ではないでしょうか。そしてそのために企業にとって大事なことは、明るく疲れさせるものが全員に共有されているための“戦略のストーリー”だと思います。素晴らしい戦略のストーリーを立てられるかということは、どんな福利厚生よりも組織を良くすると思います。」

薮崎 「明るく疲れることができる、というのはそれぞれの人によって異なりますよね。」

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