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【第1回】樋口 敦(前編) 「股関節と脊柱の可動域が身体づくりのベース」

以前よりお知らせしていた「今日はこの人に会ってきた」。記念すべき第1回は、理学療法士の樋口 敦さんです。

理学療法士、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、調理師の資格を持ち、ファジアーノ岡山など、プロスポーツクラブで専属のトレーナーを務めていました。現在はフリーランスのアスレティックトレーナーとして活動し、若い年代の選手を幅広くケアしています。中にはJ1の所属している若手選手も契約を結んでいます。

さらにその活動は身体のケアだけにとどまりません。若手選手と契約し、仲介人業まで展開しはじめています。

今回は、樋口さんのトレーニングコンセプトや、若い年代で必要なケア、さらにはJリーグクラブのトレーナー事情などを、前編・後編の2回に渡ってお届けします。

16歳から23歳くらいまでが、伸び代が一番大きい

—樋口さんの活動を教えてください。
ひとつは、現在のスポーツ医科学を勉強し学んできた中で、僕が正しいと思う知識を、サッカー選手たちに伝えていくことです。インターネットやSNSの力も駆使して、地方や過疎地域、離島などの日本全国、もっと言えば世界に正しい情報を伝えています。それによって、怪我で悩む選手が減ってほしい、パフォーマンスが上がる選手が増えてほしい、そういった選手たちが活躍して、日本代表になって、最終的にはW杯で優勝してほしいという思いがあります。

もうひとつは、仲介人業です。2015年から代理人制度が廃止され、一般の人でもJFAに申請して承認されれば、仲介人としてクラブ間交渉などができるようになりました。かつては代理人業とも呼ばれたものですね。

Jリーガーともトレーニングをしていて、その選手たちと話をしていると、チームでの悩み、立ち位置、監督との相性もわかって、移籍先のチームを探したいという話も聞くようになりました。ですので、身体のことをカバーしつつ、交渉ごともまかせてもらえるようになっています。

また、選手個人のメディア運営とブランディングも受け持っています。SNSでどういった発信をするのか、影響力をどう発揮していくのか、といったアドバイスや運営をしています。

―法人化しているのですか?
いえ、まだフリーランスで、メディアや交渉ごとなど、それぞれのプロフェッショナルと個人契約をして活動しています。ただいずれは会社にするつもりです。

―関わっている選手たちは若い世代が多いと聞きました。
そうですね。フィジカルのところでいうと、16歳から23歳くらいまでが、伸び代が一番大きいんです。もちろんそれ以上の年齢でも伸びないわけではありませんが、大きいのはその年代です。逆に言えば、その年代でやらなければいけない身体の基礎づくりが多いので、若い年代をフォローしています。

もうひとつは、仲介人業の面から考えた時です。高卒や大卒の選手はクラブ側からオファーが来る場合が多いので、僕がその選手たちと仲介人契約をしておけば、自ずとその交渉の席に着くことになります。僕自身は現時点でそこまで全国のクラブに人脈があるわけではないのですが、ここ2,3年はチームからコンタクトをもらっていて、徐々にパイプはできてきています。

そのふたつの観点から考えて、僕のサポートするべきなのは若い世代だと思って活動しています。中にはJ1の若手選手もいます。

―「年代でやらなければいけない身体の基礎づくり」とは、具体的にどんなところでしょうか。
股関節と脊柱の可動域を広げることです。僕のトレーニングのコンセプトとして、「可動域を広げること」があります。

身体づくりにおいても段階があるんですね。それをピラミッドで表すと、一番下の土台の部分が「可動域」なんです。2段目が「筋力」で、一番上が「スキル」です。

土台となる可動域が広がれば広がるほど、その上に乗る筋力も横に広がります。そして最終的に、一番上に乗るスキルも広くなるんです。選手のパフォーマンスを上げる上で底辺を大きくすることが、一番大事なんです。

ではなぜ股関節と脊柱なのか? それは、人間のパワーは脊柱が波打つ動きによって生まれるからです。選手たちにはチーターが全力疾走している動画をよく見せます。チーターを見ると脊柱がクネクネしているのがよくわかります。人間でも同じで、それが早く動くコツなんです。魚も同じです。人間も体幹となる脊柱から骨盤までの波打つ動きが、スピードとパワーの動きのベース。それを大きい可動域で早く動かせば、大きなパワーが生まれるんです。

チーターを見ても、早く動ける選手を見ても、実はみんな足が細いんです。脊柱のしなりがあれば、大きなパワーになり、手先足先は勝手についてくるだけなんです。手を動かすのではなく、体幹を動かせば勝手についてくる。

股関節の動きには、前に折れ曲がる屈曲、後ろに伸ばす伸展、外に開く外転、内にたたむ内転、外側に回す外旋、内側に回す内旋、という6方向の動きがあります。これらの動きが大きくなることで、足をどの方向にも自由に動かすことができ、大きな動きができるようになるんです。

僕のトレーニングセッションでは、ポジションを変えながら股関節をどの方向にも動かせるようにするエクササイズを取り入れています。それを繰り返すことで、特別な意識や力を入れずに滑らかな動きができるようになるんです。「力を入れずに」動かすことが重要で、それができないと動きはかたくなってしまいます。

股関節の動きは、振り子に例えることが多いです。吊り下げられている糸の根元を動かせば、先についている球は勝手に動きますよね。振る方向を変えれば、振り子の動きも変わります。そして根元を動かす幅が大きいほど、振り子も大きく揺れてパワーが出るんです。

これまでは末梢筋肉を鍛えるのが主流だった

これまではアメリカの筋トレなどが流行っていて、ダンベルで腕を鍛えるなど、末梢の筋肉を鍛えるトレーニングが主流でした。しかし、それらは振り子で言えば球を大きくするトレーニングなんです。球を大きくしたところで、根元を動かす幅が狭ければ、十分な力を発揮することはできません。アメリカ人は骨格も太いのでそれでもいいかもしれませんが、日本人は骨も身体も細いので、根元を動かす幅を広げる必要があるんです。

―樋口さんはなぜ可動域の重要性に気づいたのですか?
いろんな本を読んで、イベントに参加して、いいと思ったものを取り入れた結果ですね。何かひとつの出来事でこうなったわけではないです。

以前、愛媛の陸上のコーチにも会いに行ったことがありました。元アスリートの方なので、パフォーマンスが上がるトレーニングを自分の身体で試していった結果、同じような考えにたどり着いた方でした。話を聞いた時、自分のコンセプトと非常に似ていると感じました。そういった出会いもあります。

感覚派のコーチもいて、「バッとやろう」「スッと走ろう」という表現をする方もいます。その方が選手がわかりやすい場合もあるので、決して否定するわけではありません。しかし、僕らの仕事は運動学・解剖学の観点からより言葉に落とし込んでいくことだと思っています。

―野球のイチロー選手も、自分の動きを言語化する能力が高いと聞きました。
そうですね、彼はコーチになった時もすごいと思います。工藤公康もそうですね。自分の感覚を言葉にできる選手たちです。

―そういった選手たちはスランプがないですよね。
確かに、言われてみれば。自分の身体のどこがかたいからこの動きができないと、自分でわかるからでしょうね。

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この記事は投げ銭記事です。面白いと感じていただいた方は、本記事をご購入いただければと思います。今後の取材活動に役立たせていただきます。また、今回はおまけ話も設けております。

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樋口敦(ひぐち あつし)
フリーランスのパーソナルトレーナー、理学療法士、アスレティックトレーナー。J2のファジアーノ岡山でのアスレティックトレーナーを務めたのち、独立。現在は若手選手の身体のケアを行う傍ら、仲介人としても活躍する。ツイッターでは身体に関する情報を定期的に発信。SNS経由で契約した選手も多数。
ツイッター:@1983physio

Jリーグクラブのフィジカル事情

―Jリーグクラブに入ったばかりの若手選手は、なかなかトレーナーに見てもらう機会が少ないと聞きました。

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