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辻桃子さんの「イチからの俳句入門」(主婦の友社)

辻桃子さんの「あなたの俳句はなぜ佳作どまりなのか」がとてもわかりやすくおもしろかったので、紀伊国屋書店に行った時辻さんの本を探したらこれがありました。

あまりにも入門編で、さすがに役立たないのかなと思って読みましたが、なかなかどうして。
知っておくべきことがわかりやすく、ずばずばと簡潔に書かれていました。

まずは総論。

(26P)
俳人の加藤楸邨は「俳句はものの言えない文学」と言いました。
私などは、むしろ「ものを言わない文学」としたいくらいです。
(欄外に)
「何も言わないで、何かを思わせる」それが俳句、読む人に想像を広げてもらって
(中略)
どう読みこなすかは、そのほとんどが季語のはたらきによるものなのです。
(引用終了)

そしてその季語の豊かさについてこう言います。

(27P)
「春風」と言えば、歳時記には、「吹く風がもう冷たくなく、春風駘蕩というごとくに、うらうらと晴れた春の日に、のどかに、やわらかく、静かに吹く風」などと書いてあります。そして万葉集の昔から、春風と言っただけで、日本人は人生の春の時や、恋を思い浮かべてきたのです。
ですから、この春風は、今吹いている現実の春風でありながら、同時に頭の中では、万葉以来の思い浮かべられる限りのありとあらゆる文学に登場してくる春風でもあるのです。季語とはそういう豊かな連想のはたらきをしているのです。
(引用終了)

あとは類想類句を避けるコツとして以下のことが参考になりました。

■省略する
言わなくては通じないところだけ残して、あとはすべて省略すると、大切なところだけがストレートに心の奥深くまで届きます。
全部を言い切らず、全体のごく一部だけをぽんと示して、あとは読み手の想像力にまかせる。切れ字を用いて省略を作り出し「切れを利かせる」

■見どころを一つに絞る
言いたいことが二つあれば二句つくる

■下五を体言止めに
動詞は一句に一つだけ

■数字を使う
数字は最も具体的に手っ取り早くイメージを伝えるのに便利

■固有名詞を使う
そのものの持つイメージを喚起する

■即き過ぎを避けるために
・季語を説明しない
・家の中と外をドッキング
 句の内容で家の中のことを言うなら、季節のほうは、あえて窓や縁側など外に目をやって、そこに見えるものを表す季語をつける
・異質のものや事柄を取り合わせる
 音のことを言う句なら色の季語、手ざわりを言う句に音の季語、臭覚を利かせた句に色の季語、目の前のもの(近景)を言う句には、遠くのもの(遠景)を季語にする、あるいはそれぞれの逆。
・季語の種類を変える
 「時候」「天文」「地理」「人事」「行事」「動物」「植物」それぞれのジャンルを入れ替えた季語を使ってみる。

これらを参考にすることで、ずっと作句の幅が広がるような気がしてきました。