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クリエイティブを仕事にすることと、自由な創作とは、相反するものではない

[いしつく!の教科書 補講]
いしつく!の教科書を読んだ方からこんなご質問をいただきました。

もともとイラストを描くのが大好きだからイラストレーターになったはずなのに、営業やマーケティングを気にしたりするのはなんか違うんじゃないかって思いました。自由に創作することをやめてしまったら、イラストのクオリティも下がって、結局仕事が減るように思います。イラストサイト(ポートフォリオサイト)だって、自分の表現として自由に作るべきではないでしょうか。

この記事は、それへのお答えです。

クリエイター系の方はみんな持っている心配だと思います。営業やマーケティングを気にしていると自分らしさが失われてしまい、結局仕事が減るのではないか。

私の答えは、結論から言うと、次の通りです。

- その心配は、杞憂です。
- 仕事も自由な創作も、両方やったらいいじゃないですか。

  

ここからは、ご質問の中身を分解してみましょう。

仕事にするかしないか関係なく、創作活動そのものがマーケティングから逃れられない運命

「もともとイラストを描くのが大好きだからイラストレーターになったはずなのに、営業やマーケティングを気にしたりするのはなんか違うんじゃないか」

相談者さんがどういう活動をしているか詳しくは知りません。ただ、制作依頼を受注したいと思ったことがあるのはたしかでしょう(そもそもイラストレーターというのは職業の名前なので、そう名乗っている時点で仕事としてやっていると解釈していいと私は考えています)。

仕事依頼をゲットしたいなら、営業を避けて通ることは不可能です。営業を楽にしたりスムーズにしたりするためにするのがマーケティングです。

でも、創作を趣味のままで過ごすのも、仕事にするのも、あなたの自由です。

例えばの話ですけど、もし営業もマーケティングも一切したくないなら、完全に「作家」スタイルの活動に徹してはどうですか?

自分の思うものだけを自由に作って発表する、依頼は受け付けない、とかとか。ただそうなると画家、アーティスト、などと名乗った方が周りからは理解されやすいでしょうね。SNSにも「お仕事募集中」とか書かない方がいいでしょうね。

ところで、お気づきかどうかわかりませんが、そういう方針を決めるのも、広い意味での「マーケティング」といえます。

ようするに、創作活動をして表へ出そうとしている時点で誰しもマーケティングからは逃れられないんですよ。仕事にするかしないか関係なく。

逆に「自由に創作することをやめて」みたら、どうなったか

「自由に創作することをやめてしまったら、イラストのクオリティも下がって、結局仕事が減るように思います」

では「自由に創作することをやめて」みたら、どうなったか。私の体験をお話しします。

私は雑誌や書籍などの媒体から依頼を請けてイラストを描いたり、アプリの開発で画面やロゴのデザインをしていた経験があります。

私は、個人的な創作は比較的早くにほとんどやめてしまいました。開業して2年間くらいはヒマも多かったのでそれなりに描いていたように思いますが、そのあといまに至るまで、たまに思い出したようにスケッチをするくらいです。

さて、こんな私が3年目以降仕事が無かったのかというと、別にそんなことはありませんでした。ウェブサイトを育てたり展示会に出たりを頑張っていたので、そこそこ名のある仕事や、大部数の仕事にも携わっていました。

絵のクオリティが下がったか、についてですが、これも当てはまりません。お客様からの依頼は手を抜けないので、仕事で描くこと自体はクオリティを保つのにとても役立ちました。

つまり私自身が、自由な創作をそれほどしなくても仕事は増やせる、という実例そのものです。

依頼されて仕事で描く絵と、自分の作品は別ものだ

依頼をされてする仕事は、どうしても修正が発生します。また、周りのウケがいい、依頼が多く入りやすいタッチを優先すると、本来自分が好きなタッチは仕事ではあまり出番がない、ということも実際には起こります。

そういうことどもはたしかに、クリエイターが誰でも抱く不満です。

私はこう考えています。仕事で描く絵は、依頼主との共同制作物みたいなものです。自ら描く絵は、自分だけが完全に責任を持つ制作物です。お互いは似ているようで、少し違うものです。

違うものならば、どっちも楽しんだっていいのではないでしょうか。

別ものならば、どっちもやったっていいんじゃない?

ビジネスとして描くことや営業やマーケティングをなぜかめっちゃ憎んでいるクリエイターさんがいるのは知っています。一方では仕事をゲットしたいと願い続けていたりするのですが、別に、ビジネスに興味を持ったからといってクリエイティブが死ぬわけじゃないのに、と思います。

自由な創作活動を重ね発表し続けることのみが仕事を増やす唯一の方法、というのは迷信です。

クリエイターが仕事を増やす方法は、すでに世のあちこちに発表されているとおり、営業とマーケティングです。

これの意味するところは、創作活動とは別の努力を追加する必要があるよ、ってことであって、自由な創作を捨てろとは誰も言ってないはずです。

仕事と自由創作、どっちが偉くてどっちが正しいとかではないんです。お互いを自分の中で殺し合わせるよりも、別ものなのだから、どっちも好きな配分でやればいい、と考える方がずっと得だと思いますが、いかがでしょうか。

ポートフォリオサイトは、決まった作り方が存在します

「イラストサイト(ポートフォリオサイト)だって、自分の表現として自由に作るべきではないでしょうか」

これについては、いしつく!の教科書でも言及していますが、答えは確定しています。

仕事の依頼を得たいとは別に思っていないのなら、おっしゃるように「自分の表現として自由に」作ればOKです([※])。でも、仕事に結びつくウェブサイトを願いつつ「自分の表現として自由に」作ると、ほぼ必ず失敗します。そこで作り方の正解をお伝えしたのがいしつく!の教科書です。

これにはウェブサイトというものの特性が関係しています。詳しいことは省略しますが、訪問者がどう仕事の問い合わせに至るか、その心理を想定して設計を考えるとだいたい決まった作りにたどり着くのです。

いしつく!の教科書を読んだ相談者さんがそれでもなお「自分の表現として自由に作るべき」と思うのだったら、そうしたらいいですよ。その結果ウェブサイト経由では仕事は増えないでしょうが、それも自分で選ぶ道です。

仕事の制作と、自ら作る作品が似ているようで少し違うのと同じように、自分の表現の場として作るウェブサイトと、仕事の窓口にするウェブサイトは、違うものです。

これも、両方やる(営業用と、表現用、二つウェブサイトを作る)ことで自分が納得できるかもしれません。

バランスは人それぞれ。好きな配分でやればいい

もしかしたらこの相談者さんは、どちらかというと自分の自由な創作にこだわりが強いタイプなのかもしれません。

そういう人は、作品を仕事にすることだけを考えず、自由な制作のできる余暇をもっと確保したらいいんじゃないかな、と思います。ただし食い扶持は別途確保の必要がありそうですね。

会社勤めをしながら創作活動をしている、という人はそれがその人にとってちょうどいいバランスだからそうなんじゃないでしょうか。何も誰しもが無理して「好きを仕事に!!」とかしなくていいと思います。

創作を仕事にするのも、趣味のままやるのも、作家としてやるのも、どれもありだし、Mixしてもいいと思います。

そのバランスは人それぞれとしか言いようがないのでしょう。ちなみに私は仕事で描くほうが断然面白いし満足です。自分の腕でお金を稼ぐのが嬉しいのです。自己顕示はあまり興味ありません。

「クリエイター」とか「イラストレーター」とか一言でいい表すのは難しいですね。いろんなスタンスが限りなくありますから。


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[※]ただし、SNSで十分に自己顕示できるこの世の中で、わざわざウェブサイトを設けたいというのだから、そこにはそれなりの理由があるはずです。たぶんその理由の99%は「仕事をゲットしたい」でありましょう。


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