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#発達障害当事者会フォーラム2024 「私たちの未来は私たちが決める」レポート

2024年9月22日、東京・国立オリンピック記念青少年センターで開催された「発達障害当事者会フォーラム2024 in 東京」では、発達障害に関する支援体制や当事者の声を反映させる取り組みについて様々な議論が展開され、当事者の全国ネットワーク結成を目指す動きが鮮明になりました。
Yahoo!ニュースにも取り上げられた話題のイベントを、当事者会を運営する主催者の立場からレポートします。


「これからの当事者会」~ネットワーク構築と支援の未来~

登壇者は難波寿和氏(山陰スモステの会代表)、広野ゆい氏(NPO法人DDAC代表)、石橋尋志氏(さかいハッタツ友の会代表)、上口美弥子氏(あいち発達障害サポートネットワーク代表)、金子磨矢子氏(Neccoカフェ代表)、新孝彦氏(発達障害当事者協会代表)。
全国から集まった当事者、支援者たちが以下4点の議題をパネルディスカッションしました。本稿では発言や議題の順序にこだわらず、特に印象に残った部分を発言者ごとにまとめます。

  1. 全国的なネットワークづくり

  2. 当事者会の意見集約について

  3. ネットワークをつくろうとした理由

  4. 発達障害者支援法 20 年のあゆみ どう思っていますか

山陰スモステの会・難波氏「手帳の更新手続きが大変すぎる」

難波寿和氏(山陰スモステの会代表)は、精神障害者保健福祉手帳や自立支援制度やの更新手続きについて「2年毎に書類を書かなければならないのが辛い」と発言。先天性の障害なのだから、一度交付したら停止時のみの手続きで良いのではないか、と現行制度の見直しを提案しました。

Neccoカフェ・金子氏「当事者の声を届ける仕組み」

金子磨矢子氏(Neccoカフェ代表)は、障害年金(精神)について厚生労働省に陳情を行った発達障害当事者協会の活動を紹介。今後も当事者として声を発信し、支援体制の改善を目指したいとのことでした。

さかいハッタツ友の会・石橋氏「今から全国ネットワークを作り始めるのが重要」

石橋尋志氏(さかいハッタツ友の会代表)は、発達障害支援の中心にいるのは福祉業者や親の会が多く、当事者の声が十分に反映されていないことを指摘しました。
多くの地域や支援団体では、当事者が支援の現場に参加しておらず、自立支援協会などでも当事者の声が欠けているケースが多いと述べています。当事者会が行政や支援職と連携することで、効果的な支援体制を構築できる可能性が大いにあるとの弁。
ただし、そのためには当事者会自体がしっかりと組織化され、信頼に足る団体である必要があると強調します。地方自治体や行政機関が当事者団体を信頼できるパートナーとして認めれば、行政側から当事者団体に対して関わってほしいというニーズが生まれる可能性があると話しました。

また、今後10年後に国政に訴えるための強固な全国ネットワークが必要となる可能性が高いとし、その時に備えて今から当事者会の全国的なネットワークを作り始めることが重要だと訴える石橋氏。「後になってからでは遅いので、今のうちから基盤を築く必要がある」。

年内にも全国ネットワーク参加団体を募る予定

では、どのように当事者の全国ネットワークを形成していくのでしょうか。

これまで各当事者会の意見の相違や対立により、全国的なネットワークを形成することが困難であったという歴史がありました。特に、意見が少し違うとすぐに関係が破綻してしまい、連携が難しい状況が続いていました。しかし、昨年の発達障害当事者会フォーラム2023in名古屋にて、全国から集った当事者会主催者の間で機運が高まったとのことです。

新孝彦氏(発達障害当事者協会代表)からは現在、この全国ネットワークを実現するために、参加できる当事者会の要件や規約を定める活動が進んでいるとの報告が行われました。共同通信(Yahoo!ニュース)の記事には「年内にもホームページを立ち上げ、広く参加を呼びかける」とあります。

ピラミッド型の組織ではなく有機的につながるネットワークを

どのような性質のネットワークが必要なのでしょうか。身体障がいや知的障害、親の会との違いは?
時系列は飛びますが、午後の厚労省セッションでは全国ネットの目指す様式として「リゾーム型組織」のあり方が紹介されました。リゾームとは、植物の地下茎のように非階層的で水平的に繋がるネットワークを指しています。

広野ゆい氏(NPO法人DDAC代表)は、「"発達障害者の親の会"のようなピラミッド型の組織は当事者には作れない」と説明しました。親の会は、行政の施策に反映させることを目的とした運動団体であり、当事者会とは異なる性質を持つと指摘。当事者にとっては「生きていけるようにすること」が最も重要であり、運動や政策提言以前に、日々の生活を支える支援が必要だと述べました。

広野氏はまた、他の団体とのつながりを持つことの重要性を強調しました。「他の団体とつながることで、受けられる支援や活動を続けるための方法を知ることができた。それがとても役立ったため、ピアリーダー研修を始めた」と述べ、新しいネットワークを構築し、活動を広げていく意義を強調しました。

午前のセッションが終わり、昼食休憩に入りました。やはり全国から集まったエネルギッシュな参加者だけあり、誘い合ってランチに向かう姿が目立ったように思います。私は特に約束もなかったので1人食堂に向かいましたが、結果的には各所からお誘いいただき10名ほどの参加者と交流しつつ腹ごしらえを済ませました。

基調講演:「発達障害支援法20年のあゆみ」

午後のトップバッターである市川宏伸先生による基調講演では、発達障害支援法の20年間の進展と課題が詳細に説明され、当事者は小さな違いを捨てて大同団結して支援を求めるべきであるとの見解が示されました。


歴代の「発達障害者支援室 担当官」によるトークセッション

厚生労働省から山根和史氏、西尾大輔氏など発達障害支援を担当してきたメンバーをがステージ上に並び、当事者からの要望を伝えるチャンスがやってきました。当事者を代表し、「これからの当事者会」でも登壇した石橋氏、金子氏らが立ちます。

厚労省の方々は、実に真摯に当事者の意見を受け止めつつ、そうやすやすとはYesと言えない背景にある省内の論理をわれわれ当事者にも分かるよう柔らかい表現で打ち返しているように見えました。

たびたび発達障害当事者の間で話題になる「発達障害手帳」の必要性については、山根氏が「精神障害と発達障害は別モノなのだから手帳を分けるべき」という正論にも思える見解に理解を示しました。

そのうえで実際に手帳を分けてしまうと障害を診断できる医師の不足、交付数の伸び悩みなどから、むしろ福祉サービスとしての利便性が悪化してしまいかねないことを丁寧に説明し、一筋縄ではいかない福祉制度の議論をより多角的かつ濃厚に展開していきます。

もちろん制度の話はフォーラムの場だけで何かが決まることはないわけですが、当事者と行政担当者との対話を通して建設的な風が吹くのを感じられたのは個人的な収穫でした。

発達障害者支援法20年経過しての実感・ディスカッション

発達障害支援法の公布から20年の節目をフィーチャーしたディスカッションでは、当事者の関心が高く悩みも多い「就労」についての議論がなされました。
特にASDの当事者は自身も職場になじめず辛いが、周囲もどう扱えばいいかわからず辛くなってしまう。当事者代表の金子氏は「障害者雇用では事務職が多いが、当事者には向いていないこともある。色々な仕事にチャレンジすることで、自分に合った仕事が見つかる」と、現行制度の歪みを指摘しました。


総括・閉会の挨拶

総括では発達障害当事者協会の嘉津山氏が、2025年に予定されている障害年金制度の改正に当事者の声を反映するために今、当事者が動く必要がある旨を熱弁し、会場から大きな拍手が巻き起こっていました。

世界の歴史を見れば、発達障害当事者に限らずマイノリティは当たり前の権利を勝ち取るため社会にその苦しみを訴え、長期戦を挑んできています。
10年後、20年後にこの日を振り返ったとき、実は当事者にとって大きな一歩を踏み出していたことになるのかもしれません。そんな希望の一日が終わりを迎えようとしていました。


懇親会

満席で当日申し込みが打ち切られるほどの人気だった懇親会の案内

すべてのセッションが終了した後は、オリンピックセンターの国際交流棟9Fにあるカフェフレンズにて懇親会が行われました。
発達障害当事者協会の有志による歌やバイオリン演奏の披露、発達障害に関連した書籍を賞品としたジャンケン大会などの余興で大いに盛り上がりを見せます。
20時頃に中締め、20:30までに退出でお開きとなりました。


まとめ

今回のフォーラムでは、当事者の全国的なネットワーク形成と、当事者の意見を吸い上げる仕組みづくりを目指してさまざまな角度から議論が深められました。同時に10代から70代まで幅広い年代の発達障害当事者や、行政の担当者がつながる貴重な機会となりました。

私は「他の当事者と楽しく交流して、ついでにレポートでも書いて1ミリでも発達界隈のためになれば一石二鳥」程度の軽い気持ちで参加したことをここに白状しますが、イベントを終えた今の気持ちとしては 「当事者の未来は当事者が決める」という真っ当な願いが社会に認められるために0.01ミリでも貢献できれば幸いです。

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