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【解説①】教諭等の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について(通知)

文部科学省は7月17日、「教諭等の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について」という通知を発出しました。

これまで際限なく増え続けてきた教員の仕事に対して、

何が標準的な仕事なのか、その範囲を明確にする「管理規則」を作って仕事内容の見直しを図りなさい

というものです。

遅々として「働き方改革」が進まない学校現場において、文部科学省がついにここまで言及したというのは大きな進展といえます。

この通知を踏まえて各教育委員会がどのような動きを見せるのか、しっかりと注目していく必要があります。

また、教員として働く者にとっては、この通知は必ず知識として装備しておく必要がある、高い重要性をもった資料です。

もしも無知蒙昧な校長に望まない部活動顧問の強制を受けたりした場合には、この通知を理論的根拠の一つとして戦うべきです。

そこで、この通知の中身を詳細に解説したいと思います。

①本通知の前提となった「答申」について

平成 31 年1月 25 日,中央教育審議会において「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(以下「答申」という。)が取りまとめられました。

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【解説】
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「答申」とは「(お尋ねの内容に対し)回し上げます」ということです。

〇文部科学省には、中央教育審議会(中教審)という有識者の組織が設けられています。文部科学大臣は重要な教育施策を決定するにあたって、この「中教審」「諮問」(有識者または一定機関に、意見を求めること)します。

〇文部科学大臣の諮問を受けた「中教審」は、審議を重ねて報告書を提出します。これが「答申」です。

〇今回の場合、文部科学大臣「学校における働き方改革」を進めるための意見を求め、それを受けた「中教審」平成 31 年(2019年)1月 25 日に報告書(=答申)を取りまとめたことをまず冒頭で確認しているわけです。

〇その報告書(答申)のタイトルが、

「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」

というものです。

学校や教師が担う業務をきちんと線引きしよう!

答申では,学校における働き方改革を進めるにあたり,「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」を確実に実施するため,文部科学省が取り組むべき方策として,「学校・教師が担うべき業務の範囲について,学校現場や地域,保護者等の間における共有のため,学校管理規則のモデル(学校や教師・事務職員等の標準職務の明確化)を周知」することとされています。

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【解説】
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〇答申の内容は、これまで際限なく増える一方だった学校や教師の業務を見直すべきであり、そしてそれを確実に実施するためには、各自治体の教育委員会に任せるのではなく、文部科学省が「学校・教師が担うべき業務の範囲について学校管理規則のモデルを提示すべきだ」というものです。

「学校管理規則」というのは、各自治体の教育委員会が、その所管する小中学校を対象に制定している「管理運営の規定(ルール)」です。

〇答申では、文部科学省が教育委員会に対して「学校における働き方改革」を実現するための「学校管理規則」のモデル(学校や教師・事務職員等の標準職務の範囲)を示してあげる必要がある、ということを提言しています。教育委員会に任せていては改革はできないということを暗に示しているわけです。

これを受けて,このたび,教諭等(主幹教諭,指導教諭,教諭,助教諭及び講師をいう。以下同じ。)の標準的な職務の明確化を図るための小学校及び中学校(義務教育学校を含む。)に係る学校管理規則の参考例(別添1)及び教諭等の標準的な職務の例及びその遂行に関する要綱の参考例(別添2)を作成しましたので,送付いたします。

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【解説】
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〇この「中教審」の答申を受けて、文部科学省として、どこまでが教師の仕事かを明確にするための参考例を作成したので、各都道府県および指定都市の教育委員会に対して送りますということが書かれています。

③教育委員会に気遣いつつ滲ませる「文科省の本音」

学校に置かれる職については,学校教育法(昭和 22 年法律第 26 号)等で定められている職を含め,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和 31 年法律第 162 号)第33 条の規定に基づき各学校を設置する地方公共団体において学校管理規則等の規定で定めている職や,地方公務員法(昭和 25 年法律第 261 号)第 15 条の2第2項の規定に基づき任命権者である教育委員会において教育委員会規則等の規定で定めている標準的な職として,その存在が既に明記されているものと承知しております。また,もとより,学校に置かれる職の職務内容は,関係法令等を踏まえ,服務監督権者である教育委員会が定めるものです。

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【解説】
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〇ここでは、各種の法律(学校教育法地方教育行政の組織及び運営に関する法律地方公務員法)に根拠があるように、教師の仕事内容を定めるのは服務監督権者である教育委員会であるということを確認しています。

〇要は、本来は教育委員会が決めることであるのは重々承知しています、と教育委員会に対して気を遣っているわけです。

このため,各教育委員会においては,本参考例を教諭等の職務内容を定めるための基礎資料として活用いただくとともに,必要に応じて,本参考例を活用して関係規定等を整備いただき,教諭等の標準的な職務の明確化を図り,教諭等がその専門性を発揮し本来の職務に集中できるような環境を整備していただくようお願いします。

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【解説】
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〇「活用いただく」や「必要に応じて」といった低姿勢の言い回しに、文部科学省の教育委員会に対する気遣いが窺えます。

〇しかし、そうした姿勢の中でも、「教諭等がその専門性を発揮し本来の職務に集中できるような環境を整備していただくよう」という表現に、文部科学省の本音を窺い知ることができます。

〇つまり、これまでのような職場環境では、教師が「その専門性を発揮」できないし、「本来の職務に集中」もできないということを指摘し、職場環境を整備してあげてくださいと述べているのです。

〇これが文部科学省の本音であるとすれば、教師を直接的に苦しめているのは文部科学省ではなく、「教育委員会」であるということがわかります。

法的に服務監督権を有している「教育委員会」が本腰を入れた改革に乗り出さない限り、教師の職場環境は変わらないということが示唆されているわけです。

④文科省の「ぼかした表現」には注意が必要

なお,本参考例を活用して関係規定等を整備する場合であっても,本参考例で示している規定の仕方にかかわらず,各教育委員会における既存の規定等との整合性を踏まえ,当該既存の規定等に応じた適切な形で対応いただくことを想定しています。また,教諭等の標準的な職務の明確化を図る際には,各学校・地域の実情等についても十分に考慮されるようお願いします。さらに,幼稚園,幼保連携型認定こども園,中等教育学校,高等学校及び特別支援学校について同様に学校管理規則等に教諭等の標準的な職務を位置付ける場合や,養護教諭や栄養教諭等その他の職について同様に学校管理規則等に
その標準的な職務を位置付ける場合には,学校種や職による職務の性質の違いにも御留意いただきますようお願いします。また,教諭等をはじめ学校に置かれる職の具体的な職務内容を定める際には,学校管理規則等に位置付けられる標準的な職務を踏まえつつ,学校規模,教諭等の配置数や経験年数,各学校・地域の実情等についても十分に考慮されるようお願いします。

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【解説】
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〇こういう冗長な言い回しで裁量を教育委員会に委ねる文部科学省の弱腰には肩を落としてしまいますが、文部科学省に教育委員会を拘束する法的権限がない以上、致し方ない部分もあるかもしれません。

〇最終的には「各学校・地域の実情等についても十分に考慮」し、また学校規模,教諭等の配置数や経験年数,各学校・地域の実情等についても十分に考慮」して決めてくださいと、あくまで「お願い」のスタンスなのです。

〇このあたりが、今回の緊急事態宣言とも共通する「責任は下へ下へ」の日本の悪弊です。上は「空気」を作るだけで、その空気を読んで下が動く。だからあらゆる政治的・社会的問題において責任の所在が不明確になってしまい、責任逃れがまかり通ってしまうのです。戦後75年を経ても、なお変わらない日本の文化的欠陥です。

⑤空気を読んで忖度してくれることを期待するだけ

このほか,学校管理規則等に教諭等の標準的な職務を適切に位置付ける際の留意点を下記のとおりまとめましたので,下記の事項に留意の上,御対応いただきますようお願いします。
文部科学省としては今後とも,必要な制度改正や条件整備をはじめとして,学校と社会の連携の起点・つなぎ役として前面に立ち,学校における働き方改革の取組を総合的に進めてまいります。各教育委員会におかれては,「学校における働き方改革に関する取組の徹底について(通知)」(平成 31 年3月 18 日 30 文科初第 1497 号文部科学事務次官通知)も踏まえ,引き続き,学校における働き方改革を進めるために必要な取組の徹底をお願いします。

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【解説】
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〇文部科学省は学校と社会の連携の起点・つなぎ役」にすぎないそうです。

〇考えたことを社会に向かって公表するから、あとはよろしく忖度してね、という姿勢です。

教育委員会と学校現場の関係は、文部科学省と教育委員会の関係の写し鏡として捉えることができますね。

各都道府県教育委員会におかれては,域内の市(指定都市を除く。)区町村教育委員会に対して,本件について周知を図るとともに,本参考例を活用し,教諭等をはじめとする学校に置かれる職の標準的な職務の明確化を図ることについて,指導・助言いただくようお願いします。

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【解説】
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都道府県レベルから区町村レベルへの周知を図り、指導・助言をしてくださいということです。

まとめ

ここまでが、本通知の主旨を示した前文にあたる部分であり、この後、記書きによって具体的な内容が箇条書きにされていきます。

次の記事でその内容を見ていきます。


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