マーケティング初心者向け・おすすめ書籍案内 第2弾 「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? 森岡毅・著」

「日本におけるマーケティングの大成功例」と言えば、「USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の奇跡」を置いて語れないだろう。考えてみれば、ほんの数年前までUSJと言えば閑古鳥が泣いている……と噂のテーマパークだった。実際、オープン当初に行ったときには「特に何もない」という印象を受けたものだ(自分が思い入れのある映画が特になかったため)。

それが、2013年からは怒涛の勢いでUSJは日本のテーマパークの筆頭に躍り出た。2017年にディズニーランドオタクの妻と行ったときなど、彼女は「最近のディズニーより、USJの方が面白いね」と言ったくらいだ。

その秘密は何か。実は1人の凄腕のマーケッターが入社したことで、USJは大変革を起こしたのだ。その凄まじい記録が、小さな文庫1冊にまとまっている。それは「マーケティングを知らずにビジネスをやることは世界の非常識(日本では常識?)」と感じさせる一大叙事詩だ。

それでは、さっそく紹介しよう。


「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」 森岡毅・著

この本では、稀代のマーケッター森岡毅氏のノウハウが、ほんのちょっぴり示されている。メインはその森岡氏のノウハウで起きた奇跡に割かれているので、詳細は同氏の他の著作を読む必要がある。しかし、この本だけでも非常に示唆に富む内容だ。

本の内容を説明する上で、私がどのように本の内容を自分のビジネスに置き換えて読んでいったかを追ってみるのが早いだろう。そこで、まずは私のビジネスについて説明する。簡単に言えば、「自分史作成サービス」だ。顧客となるのは75歳以上の高齢者。彼らに2時間ほどのインタビューを2回行い、自分史を代筆して、書籍にする(もちろん書店に並ぶわけではない。あくまで個人レベルで配布する自費出版だ)。価格帯は大体30万円〜50万円と言うところである。では、実際に本の内容を追いかけてみよう。

奇跡その1:ターゲットの「広さ」と「狭さ」

USJは「映画ファン」をターゲットとしていたが、それはUSJの規模から言って「狭すぎるターゲット」だった。つまり、そもそも映画ファンの数は、USJのビジネス規模に見合った数が存在しないのだ。それを森岡氏は「狭すぎる」と表現している。

そしてUSJのターゲットを広げるために、USJのコンセプトを「映画ファンのためのテーマパーク」から「世界のエンターテイメントのセレクトショップ」と変えた。こうすることで「アニメ(ワンピース)」や「ゲーム(モンスターハンター、バイオハザード)」といったエンターテイメントを取り込むことができたのだ。そして、それらのファンもUSJの顧客としてやってくることになった。

これは一般的なマーケティング原則に反しているような感じがするので、違和感を感じるかもしれない。良くある話の流れは、「セグメンテーション化」して、ターゲット顧客を絞れ、という話だからだ。しかし、それは「差別化の美しき罠」にかかっていることでもある、と同氏は警告している。

とはいえ。それはUSJの規模に照らして適正ではないターゲット範囲だったということだ。私の自分史ビジネスの場合、自分史を作成できる人間が1人だけであり、一つの自分史を制作するのに4〜6ヶ月かかっているのだから、ターゲットは思い切り絞り込んでも良いはずだ。会社規模が大きくなれば、当初に設定したターゲット範囲を広げていく必要があるのだろう。

奇跡2「間違ったこだわりポイント」

USJは職人集団だそうだ。その結果、海賊船をアンティーク調にしすぎて、ボロくて汚いと苦情が出たらしい。このような「お客が喜ばない(求めていない)ところ」にお金や労力をかけることを、「間違ったこだわりポイント」と森岡氏は呼んでいる。自分史でいえば、お客様には違いがわからない紙質や装丁だろうか。もしくは印刷グレードかもしれない。

これを単なるコスト削減と考えるのではなく、別のところにお金をかけると考えるべきだろう。日本のビジネスの品質は日々、向上している。また、安売りはビジネスを疲弊させる。無駄なところに使われていたお金をお客様の喜ぶところに使い、よりサービスレベルを向上させる。それがビジネスで成功する秘訣だろう。

奇跡3「お金をかけずに価値を作る」

USJはお金が無かった……ということが、本作ではたびたび語られる。だから「お金をかけずにお客を呼ぶ必要があった」というのだ。ここで言うお金がない、というのは新しい施設を作るお金が無いということだ。日銭を稼いでいるUSJは、人を使ったサービスは実行することができた。確かに施設を作るのは数十億円が必要だが、1人500万円の人間を100人雇っても、たったの5億円で済む。(人間は安いね!)かくしてUSJはゾンビパレードや各種のショーでお客を呼んだ。要するに固定費は使えないが、変動費は使えるわけだ。

ひるがえって、自分史ではどうか。固定費とは「印刷費」と言える。つまり、それ以外のお金がかからないところで価値を作る……となると、たとえば「訪問回数の増加」だろうか。文字通り人で稼ぐ、というわけだ。

奇跡4「モンハンを知る」

森岡氏はUSJにモンハン(モンスターハンター)のアトラクションをカプコンの協力を得て導入する際、数百時間以上、自分でそのゲームをプレイしファンになってから、カプコンに協力を申し入れたそうだ。それはカプコンを動かす情熱という力になっただけでなく、導入したアトラクションがファンに喜ばれる、ピンとのずれていないものになるのに役立ったようだ。

つまり、マーケッターとしてお客を呼ぶには、顧客の気持ちを知る必要があるということだ。自分史の場合はどうだろうか? 自分史について色々知る必要があるだろうし、自分史を求める人が好む何かに自分もハマってみる必要があるのだろう。それはなんだろうか? 将棋や囲碁とか……?

奇跡5「アイデアは自分で考えちゃダメ。探すの」

アイデアを自分で一から考えるのは日本人の悪いくせ、と森岡氏は言う。アイデアは日本中、世界中のどこかから拾ってくればいい。それを上手に使って(その要素を抜き出して)、自分のアイデアとして使えばいいのだ。なぜなら、他所からアイデアを持って来れば、そのアイデアはすでに成功することがある程度、実証されているからだ。

と言うわけで、自分史でも他社の成功しているアイデアを色々といただいてくる必要があるだろう。そしてそれは異業種からでも構わない。

奇跡6「アイデアは『どんなアイデアが必要か』がわかってから考える」

最高のアイデアをおもいつこう!と、ウンウン考えるのは、必要な準備が終わってから。森岡氏によれば、どんなアイデアが必要かを明確にせずに考え始めるのは効率が悪すぎるのだ。

本書で紹介されている「どんなアイデアが必要かを明確にする方法」は二つ。一つ目は「戦略的アプローチ」。たとえばUSJの集客なら、「家族連れを呼ぶ」「高齢者を呼ぶ」「若い女性を呼ぶ」のいずれの戦略を取るか決めること。家族連れを呼ぶ、という大方針(戦略)を決めてから、その戦略を成功させるためのアイデア(戦術)を考えるというわけだ。
もう一つのアプローチは、「数学的アプローチ」。解決したい問題を数学的に分析し、課題を発見して、それを解決するアイデアを考えるというものだ。たとえば、USJの来場者が減っているとする。その減っているという事象を、「男と女のどちらが減っている?」「11歳以上が減っている、11歳未満が減っている?」「子連れファミリーが減っている? 子連れファミリー以外が減っている?」と場合分けし、子連れファミリーが減っていることを発見して、子連れファミリーを呼び戻すためのアイデアを考えるのだ。

自分史についてもこのような「戦略的アプローチ」「数学的アプローチ」が使えそうだ。

奇跡7「コミットメント」

ビジネスの成功には、最終的にコミットメント(諦めない力・粘り・ガッツ・情熱)が必要だと森岡氏はいう。諦めない人のところにアイデアは降りてくるのだ、と。もちろんこれは、この次の「アイデアの実行(エグゼキューション)」でも大切なものだろう。

奇跡8「エグゼキューションが9割」

どんなにすごいアイデアも、エグゼキューション(実行)のレベルが低ければ無価値になる、ということ。たしかにすごいアイデアのショーも、下手くそな演者しか集められなければダサダサになってしまうだろう。だから実行の段階でも手を抜かずに気を抜かずに取り組まねばビジネスはうまく行かない、ということだ。アイデアを考えることばかりにかまけて、実行をおろそかにすることは厳に戒めねばならない。

以上、簡単ではあるが「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」についてまとめてみた。参考になれば幸いである。

終わり

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