マーケティング初心者向け・おすすめ書籍案内 第4弾 「確率思考の戦略論 森岡毅 今西聖貴・著」

日本で最も有名なマーケッターと言えば、本書の著者であるUSJの森岡氏であることは、誰もが認めるところだろう。そして今西氏は、そんな森岡氏を支える「数学マーケティング」のリサーチャーである。(実はこの2人がすでにUSJを退社し、独立マーケティング会社をしていることは知らなかった……。先日、西武園遊園地のリニューアルに関わられてましたね)

さて、この本は数学がわからなくてもいい、というので読んでみた。本当に大企業のマーケティング実務担当者なら、この本の数式に調査データを入れて、マーケティングをすることになるのだろうが、現在の私は小さな小さな「自分史作成サービス会社」をやっているだけなので、とてもお金をかけて調査データを集めることはできない。また、業界におけるシェアを大きく伸ばすという段階のはるか以前にいる。だから、この本の価値のうち、数学マーケティングを実践するという部分の果実は得られていないのかもしれないが、数学マーケティングで得られた知見・法則は使えそうだった。(数学の定理や公式も、その発見や証明には難しい数式が必要だが、その公式や定理だけなら中学生でも使えるということに近い)

それでは、内容を紹介していこう。


「確率思考の戦略論 森岡毅 今西聖貴・著」

本の内容を説明する上では、私がどのように本の内容を自分のビジネスに置き換えて読んでいったかを追っていく。私のビジネスは簡単に言えば、「自分史作成サービス」だ。顧客となるのは75歳以上の高齢者。彼らに2時間ほどのインタビューを2回行い、自分史を代筆して、書籍にする(もちろん書店に並ぶわけではない。あくまで個人レベルで配布する自費出版だ)。価格帯は大体30万円〜50万円と言うところである。

確率思考 第1章:市場構造の本質

P.22に出てくる「プレファレンス」。ここでは「消費者の好み(ブランドに対する好意度)」……と紹介されるが、本全体を読まないと全然わからなくなる。「市場構造を決定付けているのはプレファレンス」とか「企業はプレファレンスを増やさねばならない」というように使うのだが、普通の人は「消費者の好みを増やす……? なんだそれ」となってしまうだろう。私も最初はそうだった。ここでは、私の解釈を述べる(というか、こういう風に解釈しないと、私のように数学ができない読者には使えない)。

プレファレンスとは、「その製品・サービスの消費者からの得票数(=好意)」だ。

プレファレンスの正体は「数式」なので、この解釈は正確ではないのだが、企業の努力でコントロールできるのはこの部分(得票数)だけなので、この解釈で企業が得られる結果は変わらないと私は考えている。このことが本書では、要するに「アイドルへのファン投票」のようなものだと表現されている。ファンは、そのアイドルのなんらかの側面に好意を抱くから、投票する。

で、P.34において、「企業はプレファレンスを増やすことに経営資源を投入すべき」、と続く。ちなみにプレファレンスを増やすと企業が儲かることは、数学的に証明されているらしい。

確率思考 第2章:戦略の本質とは何か?

P38では、森岡氏がよく著書の中で書いている「勝てる戦を探す」とは、自社がコントロールできることで、かつプレファレンスが増えることを探し、そこに経営資源を投入することだと明かされる。

P.39では、売り上げを伸ばす方法は3つしかないことも明かされる。それは「自社ブランドへのプレファレンスを高める」「認知を高める」「配荷を高める」の3つだ。

これは現時点での、私の自分史作成サービス「わたしの物語」にとっては最大のヒントとなった。明らかに認知度が低いので、それを増やせば売り上げは直線的に上がるという。グーグル広告の予算を増やすなどして、早速、認知度を高めようと考えている。また配荷については、まだ、お客様が買えなくて困っているほど注文はないので、あとでいいだろう。

なお、P42には、認知を高める際には「便益コピー」もブランド名と一緒に認知させた方が、お客様がそのサービスを買う確率は上がるとのこと。「ダイソン」を知っている人と「ダイソン。吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」まで知っている人の差、と本書では書かれている。

自分史作成サービス「わたしの物語」の便益コピー……「ぴったり寄り添う」「何度も通う」「書いて欲しいことを書いて欲しいように書いてくれる」……まあ、ゆっくり考えよう。

さて、3つ目の「プレファレンスを伸ばす」方法は、「水平方向」と「垂直方向」がある(P63より)。簡単に言えば、新規顧客を増やすか、リピート率を増やすかということだ。昔のマーケティング本ではリピート率を増やせ、という話が多かったが、森岡氏は「新規顧客を増やす方が勝率が高い」とぶっちゃける。私が取り組む自分史作成サービスも新規顧客を増やす方が現実的なので、そうするつもりだ。

で、この新規顧客を増やす方法とは、自社のサービスをより多くの人に好意を持ってもらうこと(=プレファレンスを獲得すること)なので、USJでは「子供向けエリアを作る」「新しいハロウィーンイベントを始める」「ワンピースやモンスターハンターのような固定ファンのいるエンタメのイベントをする」といったことをしたわけだ。

自分史作成サービスの場合なら、「家系図を作るサービスを始める」「遺影撮影のサービスを始める」「遺言書やお墓の相談にも乗る」「商業出版のコンサルティングをする」「出版記念パーティーの手配をする」「故郷を巡る旅のアテンドをする」などが、新しい顧客層を開拓するアイデアだろうか……? 

本書のP65には、「セグメンテーション」と「ターゲティング」は、プレファレンスの総量を増やすためにするものであって(そうしないと新規顧客を獲得する新しいアイデアを思いつけないから)、顧客を狭める(=プレファレンスを狭める)ためにするものではない、ということも語られている。確かにこれを履き違えると、逆にお客を減らしてしまうだろう。

もうひとつ、プレファレンスの本質を見極めることで、新たなプレファレンスを増やすアイデアは生まれるのかもしれない。自分史という本が欲しいからサービスを利用しているのではなく、家族の関係性を良くしたい、元気付けたい、誰かと話をしたい……というのが自分史作成サービスを使う本質的な理由だとしたら、その理由に対応するサービスなら「本」という形にこだわらなくてもいいということだろう。

P69でUSJはプレファレンスを増やすために、「映画の専門店」から「世界最高のエンタメのセレクトショップ」にコンセプトを転換したという。「わたしの物語」も「自分史作成の専門店」から「終活のセレクトショップ」とかにするのがいいのだろうか? もちろん、何屋かわからない商売にすると、誰にも選ばれない可能性もあるので気をつけよう。

とにかく、自ブランドの弱点(取りこぼしているお客様)を獲得すれば、プレファレンスの獲得になる。USJはそれが「家族づれ」だったわけだが、「わたしの物語」もグーグル検索回数の多い分野(「遺影撮影」「家系図作成」など)をニーズの高い分野と判断して、自ブランドのサービスとして取り込んでいくことにする。

プレファレンスを増やすには、1人のプレファレンスをたくさんあげるより、ちょっとでもプレファレンスを持った人を増やす方が簡単ということである。数学マーケティングでは、このプレファレンスをどれだけ増やすかを精緻に計算するが、大規模投資をしない「わたしの物語」のレベルでは、そこまでやる必要はなく、ただ、進むべき方向さえわかればよい。その点で、本書の示してくれた法則・定理は非常に役立った。

P71にはこう表現されている。
「より多くの消費者にUSJを買う必然(プレファレンス)を築き上げ、投票数を劇的に増やす」

確率思考 第3章:戦略はどうつくるのか?

ここでは主に、「プレファレンスを増やす」ための戦略の作り方が書かれている。そしてプレファレンスは「ブランドエクイティ」「製品パフォーマンス」「価格」の3つで決定されるそうだ。

ブランドエクイティとは、そのブランドが持つ「消費者がそのブランドを購入する理由」のことのようだ(「消費者がそのブランドに対して持っているイメージ」かもしれない)。

ブランドの話なので、当然ポジショニングや差別化の話にもなる。富士急ハイランドは「スリルライドを揃える」という「夢と魔法の王国」TDRのカウンターポジションニングを取っている、と本書では指摘されていた。ただ気をつけなければならないのは、ポジショニングも差別化も、プレファレンスの総数を増やすためであることを忘れてはならないという。

次の製品パフォーマンスについて、世の中には製品パフォーマンスが重視されていない製品・サービスがあるという話に驚いた。ミネラルウォーターや化粧品がそれであり、その場合は「ブランドエクイティ」の増強に集中する必要がある、ということ。「希望」「美のイメージ」が重要になるということで、「自分史作成サービス」も、こちらに当てはまるだろう。なぜなら、それが「リピートビジネス」ではなく、「トライアルビジネス(普通は一回しか買わない)」だからだ。

ここで製品パフォーマンスについて、顧客が評価する機能以外は意味がない、とバッサリ切り捨てているのも大事なポイントだろう。

最後の価格だが、顧客が買ってくれる限界まで上げる「プレミアムプライシング」を著者は推している。その方が企業もお客も最終的にハッピーになれるからだそうだ。

P98では、企業として目指す姿(=たとえば目標の売上高)に到達するのに、必要なプレファレンスを数学的に求めることが、具体的な戦略を立てるために必要だとされている。まあ、そこまで厳密な計画を立てる必要もない「わたしの物語」の場合は、とにかく「プレファレンス」と「認知」が伸びる施策をバンバン打っていけば良さそうだ。なお、この戦略は2パターン作って、比較検討した方がいいとのこと。すると、想定の脆弱さや盲点に気づけるらしい。

P103から、USJの戦略(=プレファレンスを伸ばした施策)が解説されている。

「ファミリー層の獲得」
「ハロウィーンシーズンからの獲得」
「ワンピースなどゲームや漫画など、強いファンベースからの獲得」
「スリル・シーカーからの獲得」
「ハリー・ポッターからの獲得」

同社はこれを順番に並べて大戦略とした。個々の戦略でお金を稼ぎ、そのお金でさらに次の戦略を実行することの戦略を、本書では「わらしべ長者の戦略」と名付けている。

「わたしの物語」でも、たとえば次のような戦略が考えられる。

2022年:グーグル広告予算3倍増
2023年:遺影サービス開始
2024年:家系図サービス開始

まあ、企業の規模も小さいので、もう少し短いスパンでやってもいいかもしれない。

第4章 数字に熱を込めろ!

この章で大切なのは、次の通り。

・意思決定に余計な感情を持ち込まず、最適な意思決定を選択する(かわいそうとか、自分が可愛いので厳しい決定はしたくないなあ、とか、そういう感情で意思決定をブレさせない)。

要するに、「成功するためには、成功する確率が高い戦略を見つけ、それを選ぶこと」とまとめられている。ちなみに、この意思決定ができないと、どれだけ不成功の確率が跳ね上がるかも、数学的に本書では証明されている。

第5章 市場調査の本質と役割 〜 第8章 マーケティングを機能させる組織 

ここからは、「数学マーケティングのやり方」が解説されている。だから調査データの収集方法や分析方法、それを数学マーケティングで使う数式にいれて、結果を分析する方法などが書いてあった。ようは、今のわたしには使えないし、必要のない内容だったが、いくつか興味深いエピソードや言葉があったので、拾い上げていく。

「市場調査がないビジネスは、目をつぶって歩いたり、夜ヘッドライトをつけないで車を運転するようなもの」

「消費者に非常に有益で異なる便益を提供すること(アタックは洗剤業界に「軽くて持ち運びやすいパッケージ」という「洗浄力」「香り」「すすぎのし易さ」以外の便益を持ち込んで成功した)で圧倒的なプレファレンスを築けることもある」

「肌荒れの改善」はブランドAが、「べとつかない」はブランドBが保持していた。←「わたしの物語」は?

言葉やアイデアには、各文化圏独自の「コード」があり、それに沿った広告をすると、効果的らしい。(←自分史のコードって、なんだろう?)
(例:アメリカにおいて、お金は「証」、食物は「燃料」、若さは「仮面」というコードがあるという社会学者の学説があるらしい?)

その製品・サービスの未来を考えた戦略を立てるには、上位商品群の本質(消費者が求める便益)を見極める必要があるとのこと。(「ビール」なら「アルコール飲料」。自分史なら「終活?」「自費出版?」)

高齢者向け商品は日本が先端国になる

海外に日本の商品を持っていくときは、デザインの好みが違うので、注意。

生活に不可欠でないものは、所得が上がるに従い、確実に消費が伸びていく。

「これまでの取り組み」「これからの取り組み」は、やりっぱなしにせず、終わったらきっちりと分析して、学びを抽出して次に活かすという姿勢が大切。

終わり

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