湖畔の漂着物

 毎朝、目が覚める前に湖を散歩します。地図には載らない類いの湖ですので、夢と言ってしまえば通りがいいようですが夢ではなく、若い頃からの習慣です。

 葦の根本や砂浜に打ち上がった流木を覗いて珍しいものがないか探します。例えば、風の吹き溜まりに滞った波が凝集した格子には同じものが二つとありません。格子に取り込まれた生物や鉱物が、その配置され具合から新しい構造を得ているものもたまに見つかります。泥土が湖底から発生するガスを包んだボールには、湖面を風に転がされる間にも様々な気配が溶け込みます。今朝のは手に取るや否やしじみ300個分の元気と分かったので、広告の効果に感心しつつうっちゃってきました。なるべく正体のわからないものがいいのです。

 拾ったものはポケットにいれます。現物は持ってこられませんが手触りが残るのです。考え事をするときは、ポケットを探って感触を辿ります。使いようの分からないストックが増えるばかりなので、まだまだ好奇心を失うわけにはいきません。

 そう話すと老学者はコーヒーカップを口に運んだ。湖の全景を尋ねると、足元ばかり気にしているせいか思い出せないんですと照れて笑った。

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