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【創作小説】僕とおばあの49日間納骨チャレンジ 2【短編】

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「おお、早かったな。荷物はそれだけか」

ロビーで父が待っていた。
祖母の荷物はボストンバッグ一つだけだった。

「入院費用の精算と死亡診断書の受け取りは終わったんだが、これから葬儀会社と打ち合わせをしなくちゃならない。」

テンパった様子の父を見て高揚していた気持ちが一気に冷えて現実に引き戻される。

「何か手伝おうか?」
一応聞いてみる。

「いや、手続きは父さんがやったほうがよさそうだ。…ああ、隆之はおふくろの家の鍵を持っていたよな。おふくろの家の準備を頼もうかな。この後一旦家に運ぶみたいなんだ。」
「運ぶって?」
「おふくろの体だよ。一旦自宅に戻すんだそうだ。葬儀会社が専用の車で運び出すことになっているらしい。」
確かにドラマなんかで、自宅に布団を敷いて顔に白い布がかかっているのを見たことがある気がする。病院から運び出す専用の車というのがあるのか。

「ばあちゃんの家で何の準備をしたらいい?」
「布団をおろしておいてくれればいい。あとは業者がやってくれるらしいから。父さんと母さんはおふくろに付き添う。としゆきと、はるあきおじさんが控室で待っているから一緒に行ってくれるか。」
「わかった」
悪いな、頼んだぞと言って父はエレベーターに向かって歩いて行った。このまま霊安室に行くのだろう。

弟の敏行にLINEで連絡を取り、ロビーに来てもらうことにした。

ボストンバッグを肩に掛け直す。
中には札束とiPadも入っている。
父にこのことはとてもじゃないが言える雰囲気ではなかった。

ほんの数時間前、祖母の危篤の報せを受けて親族が集まった。祖母は全員集まるまでなんとか持ち堪えて、一番遅く、叔父が着いたのを見計ったかのように亡くなった。

僕らの家族…両親と僕、弟と、叔父夫婦。
祖父はもう6年も前に亡くなっているので、親族はそれだけだった。

亡くなった瞬間は深い喪失感と悲しみに襲われたけど、痛みや辛さからやっと解放されたんだと思うと、よくがんばったね、お疲れ様でしたという気持ちも湧いてきた。

家族の誰一人取りこぼすことなく待っていてくれた。祖母は本当に優しくて、器の大きい人だったと思う。

そんな祖母が残したもの。
やっぱり冗談なんじゃないだろうか。
そもそもこんな大金を勝手にもらっていいんだろうか。
バッグを持つ手にじわりと汗を掻く。
父に、言うべきだっただろうか?

「兄貴、お待たせ」
弟の声にハッと振り返る。学ランの弟と背の高い叔父が立っていた。
「タカくん、俺が車出すよ」
車のキーを掌でチャリチャリ鳴らしながら叔父が言う。
「加奈子叔母さんは…」
「加奈子は一旦家に帰った。」
「そうなんですね」
叔父夫婦は二人ともフリーランスのデザイナーだから、葬儀の諸々で仕事が滞ると取引先に連絡をするんだそうだ。

駐車場に移動して車に乗り込む。
叔父は慣れた手つきでカーナビを操作して目的地を祖母の家に設定した。
僕は助手席に、敏行が後部座席に座った。
車が滑らかに発進する。

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