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日本国憲法第九八条と国際法(条約)との関係と諸問題について その2

日本国憲法第九八条と国際法(条約)との関係と諸問題について その1|覆面パトカー (note.com)

はじめに

 本記事は、憲法九八条一項、二項問題〜憲法と条約との関係〜解釈をメインテーマとして関連条文や条約、判例などを通じて探究し、自分自身の知見と教養を深める事を目的として自分自身の為に書いた記事です。自分自身なりに理解し、納得するまで記述しています。それ故、字数が40000字を超える上、主に、厳選した憲法解説書の引用を中心に淡々と記述しています。

 ひょっとすると退屈かもしれません。長いのが苦手な方、簡潔さ、簡便さ、楽しさ、読みやすさ、わかりやすさを求められてここへいらっしゃった方向きではありません。踵を返して他所へどうぞ。

 さて、日本国憲法第九八条と慣習国際法(条約)との関係を綴った前回の6月初頭の記事では主に、政府公式見解、学説、法曹サイドの一般的な見解を紹介し、謂わば、条約優位説が優位なのではないかといった論説を展開しました。

 書いてから1ヶ月経過した今でも、その見立てが大きく変わることはありませんが、今回はその続きとして、日本国憲法第九七条、第九八条に規定されている最高法規の位置付けと国際条約、基本的人権に関する規定について、また、第九九条の憲法尊重擁護義務についてをメインテーマに、専門書籍による解説をさらに深く、また、憲法の国際条約における憲法優位論側にもなるべく寄り沿った論説も入れる形で、引用を中心にまとめてみたいと思います。淡々と解説や条文を引用している箇所が非常に多く、面白味に欠ける点は何卒ご理解ください。

 今回は元検察官かつ内閣審議官で、広島高等検察庁検事長を歴任された村上尚文氏の書籍による論説を元に引用させていただきました。本書は日本国憲法について、法的解釈、判例、政府見解、実務運用レベルに至るまで幅広く、偏りなく、イデオロギーや理想論だけに終始せず、実務に近い現実的な視点から、言葉の定義、意味合いやニュアンス、その言葉を選んだ背景に至るまで、解説書形式で構成されている事が特徴です。

•「逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房」

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/表紙


非常に長い引用ですが、文面だけでなく、一文一文が大切な内容なので、よろしくお付き合いくださいませ。

✴︎ことわり
 本書籍では、各々条文中にカッコ書きで付番がなられ、条文直後に対応する解釈の解説を載せています。本記事では見やすい様に太文字+(解説1)〜といった表記にて対応しました。

第九七条
〔基本的人権の本質〕

条文
この憲法が日本国民に保障する基本的人権(解説1)は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果(解説2)であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ(解説3)、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託(解説4)されたものである(解説5)

全体解説/基本的人権が神から永久、不可侵のものとして与えられるものであるということは、すべての権利章典がもつ基礎的理念であり、民主憲法にとっては当然のこととされている。本条もそれに倣い、基本的人権が人類の多年にわたる努力の成果であり、過去幾多の試練に堪えてきたもので、永久の権力として信託されているものであることを強調している。

(解説1)ここでいう「基本的人権」とは、第十一条にいう「基本的人権と同様である(第十一条(1)参照)。

(解説2)「自由獲得の努力の結果」とは、封建的な社会組織、専横的な宗教支配、専制的な絶対的君主制等の抑圧、圧政を排除して自由を獲得しようとしてきた人類の長い苦闘の結果であり、欧米における大憲章(マグナ•カルタ1215年)、宗教改革(1517年)、権力請願(1689年)、アメリカの独立(1776年)、フランス革命(1789年)等の事件がそれを物語っており、これらの自由の為の闘争や、多くの人命の犠牲の下に基本的人権が次第に確保されてきたのである。

(解説3)「試練に堪へ」とは、この自由獲得のための努力は決して一日にして成就されたものではなく、しばしば独裁主義、ファシズム、軍国主義等によつて脅かされてきたが、それらに対して、よく耐えて今日に至ったという意味である。

(解説4)第十一条のもつ基本的人権は、「侵すことのできない永久の権利として」と規定しているが、これと同様の意味である。(第十一条(4)参照)

(解説5)第十一条は、「永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」としているが、本条は、「永久の権利として信託されたものである」と規定している。「信託された」とは、預けられた、つまり、委託者が一定の受益者のために受託者に権利を付託するという意味であり、言葉そのもののもつ意味としては「与へられる」との間に相違があるが、憲法の規定としての実際上の意味には相違がないとみるべきである。第十一条の「与へられる」とは、いわば自然法あるいは神、造物主によって与えられたという意味であるが、本条の「信託された」とは、委託者(神、造物主)が受益者(全人類)のために天賦の人権としてのこの基本的人権を受託者(現在及び将来の日本国民)に預けたという意味で、受託者の意のままに自由勝手に行使さるべきでなく、他の受益者の利益のために行使せよというニュアンスが強いのである。つまり「与へられる」とは、自然法あるいは神、造物主によって与えられたという面に着目しており、「信託された」とはその行使についての義務、責任を強調しているのである。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P339-P340/第十章/憲法九七条〔基本的人権の本質〕/より

憲法第十一条
〔基本的人権の享有〕

条文
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

日本国憲法第十一条より

続いて、憲法第九八条の条文と解説に入ります。

第九八条
〔最高法規及び国際法規の遵守〕
(解説1-3/10)

条文
この憲法は、国の最高法規(解説1)であって、その条規に反する法律(解説2)命令(解説3)詔勅(解説4)及び国務に関するその他の行為(解説5)全部又は一部は(解説6)その効力を有しない(解説7)
日本国が締結した条約(解説8)及び確立された国際法規は(解説9)これを誠実に遵守することを必要とする(解説10)

全体解説/本条は、憲法が国の最高法規であって、他の一切の国内法形式に優越する強い効力を持っていることと、条約及び確立された国際法規を確実に遵守すべきことを規定している。

(解説1)「国の最高法規」とは、国家法形式の中でも最も高い地位にある法規のことであり、根本規範であるしたがって、憲法以外の他の法形式(法律、命令等)が憲法に違反すれば無効となる。

(解説2)「条規」とは、規定、条項と同様である。前文もこの「条規」に含まれる。条規「反する」とは、規定に違反する、条項と矛盾するという意味で、「憲法に適合しない」(第八一条)と同様である。規定に違反する場合には形式上の違反と実質上(内容上)の違反との二つがある。

 形式上の違反とは、その内容は憲法に違反していなくても、その法形式が憲法の定める正当な法形式によらないで定められている場合、つまり、法律をもって定めるべき事項を政令で定めた場合(例えば、法律によらずに政令で新たに罰則を設けた場合。第七三条第六号参照)であり、実質上(内容上)の違反とは、内容そのものが憲法に違反し、憲法改正によらねば定めることができないような内容の法律を制定した場合、つまり、男女の差別を認める法律を制定したり、特定の宗教を信仰するように強要するする法律を制定したような場合である。

(解説3)「法律」及び「命令」については、第八一条(1)参照(後述)

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P340-P345/第十章/憲法九八条〔基本的人権の本質〕より

(解説3)中の第八一条は法令審査権と最高裁判所の権限を規定する条文ですが、条文と解説は下段で引用します。

第九八条
〔最高法規及び国際法規の遵守〕
(解説4-7(途中まで)/10)

(解説4)「詔勅」とは、天皇の発する詔書、勅書、勅語等のすべてである。詔書とは、過去に行われた宣戦の詔書、帝国議会招集の詔書であり、勅書とは、現在の内閣総理大臣及び最高裁判所長官の任命の辞令書等である。勅語とは、明治憲法下に発せられた教育等である(なお、教育勅語については、第二回国会(昭和23年6月)において両院で「排除」及び「失効確認」決議が行われた)。

(解説5)「国務に関するその他の行為」とは、例示された法律、命令等の国の法令及び詔勅以外の国の行為である。つまり、議員の行為(議決、国勢調査等)、行政機関の発する訓令、通牒、通達とか、具体的な行政処分(許可、認可、これらの取消し等)、裁判所の裁判(判決、決定、命令)等である。地方公共団体の条例、罰則も、具体的処分とともに、「国務に関するその他の行為」に含まれる。条約も「国務に関する行為」であるが、第二項目さに規定されている。

(解説6)法律、命令、勅令及び国務に関する行為が憲法の条規に反するからといって、その全部が効力を有しないという事にはならず、条規に反する限度において全部又は一部が効力を有しないこととなるのであるが、法律等が一つの事項を内容とし、その事項が条規に違反すれば当然のことながらその全部が効力を有しないが、いくつかの事項を内容としてそれが分離できる場合であれば上記に違反している部分のみが効力を有しないこととなる。

(解説7)憲法が最高法規であるから、これに違反する法律、命令、詔勅及び国務に関する行為が効力を失うことは当然である。しかし、効力を失うといっても、抽象的に判断されるのではなく、具体的な事件に絡んで裁判所ーー最終的には最高裁判所ーーの判断を要するわけである(第八一条(2)参照)。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P340-P345/第十章/憲法九八条〔基本的人権の本質〕より

"国の最高法規"の概念と由来

 そもそも、大日本帝国憲法(旧憲法)の条文の中では、天皇大権の一つで、外交大権を規定した大日本帝国憲法第十三条と、憲法の効力の範囲を規定する第七六条のみで、「憲法が最高法規である」という概念は、旧憲法には見当たりません。

大日本帝国憲法十三条

条文
天皇ハ戰ヲ宣シ和ヲ講󠄁シ及󠄁諸󠄀般ノ條約󠄁ヲ締結ス

現代語訳
天皇は、宣戦し、講和し、及び諸般の条約を締結する。

大日本帝国憲法十三条/Wikipediaより

大日本帝国憲法七六条

条文
一.法律規則命令又ハ何等ノ名稱󠄁ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲󠄁法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ總テ遵󠄁由ノ效力ヲ有󠄁ス
二. 歲出上政府ノ義務ニ係ル現在ノ契󠄁約󠄁又ハ命令ハ總テ第六十七條ノ例ニ依ル

現代語訳
1.法律、規則、命令又は何らの名称を用いているにかかわらず、この憲法に矛盾しない現行の法令は、すべて遵守すべき効力を有する。
2.歳出上政府の義務に係る現在の契約又は命令は、すべて第六十七条の例による。

大日本帝国憲法七六条/Wikipediaより

では、どこから出てきたのでしょうか。

その答えはアメリカ合衆国憲法第6条第2節にあります。
条文を見てみましょう。

Constitution of the United States
Article VI

All Debts contracted and Engagements entered into, before the Adoption of this Constitution, shall be as valid against the United States under this Constitution, as under the Confederation.

This Constitution, and the Laws of the United States which shall be made in Pursuance thereof; and all Treaties made, or which shall be made, under the Authority of the United States, shall be the supreme Law of the Land; and the Judges in every State shall be bound thereby, any Thing in the Constitution or Laws of any State to the Contrary notwithstanding.

The Senators and Representatives before mentioned, and the Members of the several State Legislatures, and all executive and judicial Officers, both of the United States and of the several States, shall be bound by Oath or Affirmation, to support this Constitution; but no religious Test shall ever be required as a Qualification to any Office or public Trust under the United States.

Constitution of the United States
Article VIより

アメリカ合衆国憲法第6条日本語訳

この憲法の採択前に締結されたすべての債務及び締結された債務は、この憲法の下でも、連合の下でも、合衆国に対しても有効である。

この憲法及びこれに従って制定される合衆国法また、合衆国の権限の下に締結され、又は締結されるすべての条約は、この国の最高法規とする。また、すべての州の裁判官は、これに拘束され、憲法または法律のいかなる条項も、これに反するものとは無関係である。

前述した上院議員および下院議員、ならびに合衆国およびいくつかの州のすべての行政官および司法官は、宣誓または確約により、この憲法を支持する義務を負う。但し、合衆国の下では、いかなる公職または公益信託の資格として、いかなる宗教的試験も要求されない。

Constitution of the United States
Article VIより

 上記解釈の論拠は、名寄市立大学保健福祉学部社会福祉学科・准教授の枦山茂樹氏による、
"条約に対する憲法の優位性:合衆国と日本"/枦山茂樹/ 熊本学園大学経済論集による論説です。

 戦後の1946年2月13日、日本政府に提示されたマッカーサー草案の90条は以下のようなものであった。「この憲法並びに憲法に従って作られた法律および条約は,国の最高法規であつて、その条規に反する法律または命令および詔勅または国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。)」 冒頭の「この憲法並びに憲法に従って作られた法律および条約は、国の最高法規であつて」 という部分は、合衆国憲法第6編第2節にならったものである。この条文はほぼそのまま、日本政府の憲法改正草案に引き継がれた。その後衆議院で「法律及び条約」が最高法規から除かれるとともに、条約順守の規定が2項に別途設けられた )。 かくして誕生した日本国憲法第98条は次のように定める。

 「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2項 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」
この規定は草案と異なり,憲法と条約の上下関係について述べていない。憲法81条の違憲審査の対象にも「条約」は挙がっておらず,後に論議を呼ぶところとなった。

条約に対する憲法の優位性:合衆国と日本/枦山茂樹准教授の論説より

最高法規条文案から発布までの改訂履歴

 日本国憲法のGHQ草案を見ると"the supreme law of the nation"(アメリカ合衆国憲法第6条では"the supreme low of the land")という文言が入っていることから、やはり上記、アメリカ合衆国憲法に倣ったGHQ草案が九八条の大元となったとする論拠は信ぴょう性が高そうです。

GHQ草案
Article XC.
This Constitution and the laws and treaties made in pursuance hereof shall be the supreme law of the nation, and no public law or ordinance and no imperial rescript or other governmental act, or part thereof, contrary to the provisions hereof shall have legal force or validity.

GHQ草案日本語訳
この憲法及びこの憲法に従つて制定された法律及び条約は、国家の最高法規であり、この憲法の規定に反する公法又は条例、勅令その他の政府の行為又はその一部は、法的効力を有しない。

第九十条(GHQ草案の条文日本語版)
此ノ憲法並ニ之ニ基キ制定セラルル法律及条約ハ国民ノ至上法ニシテ其ノ規定ニ反スル公ノ法律若ハ命令及詔勅若ハ其ノ他ノ政府ノ行為又ハ其ノ部分ハ法律上ノ効力ヲ有セサルヘシ

憲法改正草案要綱
第九三条
此ノ憲法並ニ之ニ基キテ制定セラレタル法律及条約ハ国ノ最高法規トシ、其ノ条規ニ矛盾スル法律、命令、詔勅及其ノ他ノ政府ノ行為ノ全部又ハ一部ハ其ノ効力ヲ失フコト

第九四条
この憲法並びにこれに基いて制定された法律及び条約は、国の最高法規とし、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

日本国憲法の誕生 資料と解説より
https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/093shoshi.html

 閑話休題、憲法九八条解説中で度々挙がっていた最高裁判所と憲法の位置付けについて規定している、憲法第八一条の条文と解説に入ります。

憲法第八一条
〔法令審査権と最高裁判所〕
(解説1-2/4)

条文
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分(解説1)が憲法に適合するかしないかを決定する権限(解説2)を有する終審裁判所(解説3)である(解説4)。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P292-P297/第六章/憲法八一条〔法令審査権と最高裁判所〕より

全体解説/本条は、裁判所が法令審査権を有すること及び最高裁判所がその権限を有する終審裁判所であることを規定している。

(解説1)一切の立法、行政、司法作用を含む。「法律」とは、国会により制定される法形式、つまり、形式的意義の法律であり、「命令」とは、行政部の定立する法形式で、政令その他行政各部の命令(府令、省令)である。

 「規律」とは、広い意味では「命令」に含まれるが、この憲法が国法形式として議院規則、最高裁判所規則を認めているところにより、特に「規則」という用語を用いたのであろうが、これらに限られず、行政機関の自主立法(会計検査院規則、人事院規則等)及び地方公共団体の「条例」、「規則」も含まれる。「処分」とは、主として行政官庁の処分であるが、それに限られず、すべての国家機関の処分も含まれるから、司法処分、裁判所の裁判も審査の対象となる(「処分」に司法行為(裁判)が含まれることにつき最昭二三・七・八刑二・八〇一)。また、議員の議決や議事等立法部の処分も文字の意味からは含まれるようであるが、衆議院解散の手続、国会両院における法律制定手続きについては通説、凡例とも審査の対象にならないとしており(前者につき最昭三五・六・八民一四・一二〇六、後者につき最昭三七・三・七民一六・四四五)、このほか、判例によって審査の対象にならないとされたものに、政府の経済製作(最昭五七・七・一五時報一〇五三・九三)、内閣による最高裁判所の裁判官任命行為(東京地昭五六・六・三〇時報一〇〇七・三)があり、議員除名の手続、議院の議決における定足数の問題についても、通説は同様消極に解している。

 条約が審査の対象になるかどうかにつき学説は分かれ、対立している。前説は、条約は「規則」に当たるとか、「条約を除く」という明文がないことを理由に対象となるとし、後説は、本条列記中に「条約」という言葉がないのは、憲法が条約を除く意図であったとみるほかないし、条約を「法律」又は「処分に含ませることは文字からいっても無理であるとして対象にならないとしている。後者が通説であり、判例も旧•新日米安全保障条約につき対象外としている(最昭三四•一ニ•一六刑一三•三ニニ五、最昭四四•四ニ刑ニ三•六八五。ただ、最高裁判所の理由付けが「新安保条約のごとき、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係をもつ高度の政治性を有するものが違憲であるか否かの法的判断をするについては、司法裁判所は慎重であることを要し、それが憲法の規定に違反することが明らかであると認められないかぎりは、みだりにこれを違憲無効のものと判定すべきではなく、新安保条約は、違憲であることが明白であるとは認められない」としているところによると、条約もその内容いかんによっては司法審査権の対象となり得るとしていると解する余地もあるとみられるが、なお、今後の判例にまちたい)。

(解説2)ここでいう「憲法」とは、いうまでもなく、この日本国憲法である。この「憲法に適合するかしないを決定する権限」を普通、違憲立法審査権とか法令審査権といっている。

 この違憲立法審査権は、形式的審査権と実質的審査権に分かれ、前者は法令がその成立手続において瑕疵がないかどうかを審査する権限であり、後者は法令の内容が憲法に適合しているかいないか。審査する権限である。

 この審査権については、まずそれが抽象的な審査権であるか具体的な審査権であるかの問題がある。前者であるとする説は、具体的事件に関する訴訟が提起されなくても裁判所が抽象的、一般的に法令又は処分について合憲性を審査できるとするものであり、後者であるとする説は、具体的事件に関する訴訟が提起された場合に限って裁判所がその事件に適用される法令又はその事件の原因となった処分の合憲性を審査できるとするのである。学説は分かれているが、後説、つまり具体的審査権であるとするのが通説である。前説を採るものは、最高裁判所が終審裁判所であること、及び最高裁判所が一切の法令の合憲性を決定する憲法裁判所であることを理由にしているが、通説は、本条が司法裁判所としての最高裁判所の権限を規定したものであり、本条の権限も司法権の行使に関する権限とみなくてはならず、そうだとすれば、司法権の本質は法律上の争訟を裁判することにあるから、法令その他の国家行為に関する憲法争訟自体を裁判することは、その範囲を超えたものとみなければならないことを理由としている。判例も、一貫して通説と同様である(最高裁は、まず左派社会党が提起した警察予備隊違憲訴訟において、「最高裁判所は法律、命令等に関し違憲立法審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、最高裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有しない」とし(最昭二七•一〇•八民六•七八三)、更に昭和二七年八月二八日の衆議院解散を無効であると主張して苫米地義三議員が定義した衆議院解散無効訴訟においても同様の判断を下している(最昭二八•四•一五民七•三〇五))。

 次に、ある法令を違憲なりとする判決の効果につき、個別的効力か一般的効力かの問題がある。前説を個別的効力説といい、違憲判決を受けた法令はその合意、違憲が争われた当該訴訟に関する限りで無効とされて適用を拒否されるのみで、当該法令それ自体の効力には一般的な効果は及ばないとするものであり、後説を一般的効力説といい、違憲とされた法令はそれによって一般的に無効となり廃止されたと同様の効果を生ずるとするものである。学説は分かれ、個別的効力説が通説であるが、一般的効力説を主張するものも少なくない。この審査権が抽象的審査権か具体的審査権かを論じたところでも述べたように、審査権の本質を純然たる司法権であると解する限り個別的効力説が正当であろう。裁判と対象となるのは具体的ケースであり、このケースの解決にからんで法令の合憲性、違憲性が裁判の対象となるからである。当該ケースの解決を超えて法令の違憲性が一般的に確定されるとするのは司法権の限界を超え、憲法裁判という特別の裁判形式を認めたことと同一となるであろう。したがって、通説の立場が妥当とされる。

 個別的効力説によっても、最高裁判所が一度ある事件について法令等が違憲であると判断すれば、後に提起される同種の事件については同一の判断反復されるわけで、立法部及び行政部は自発的にその法令等を改廃する手段を執るであろうから、運用においては一般的効力説と同一の結果となるであろう。現に、最高裁判所がいわゆる第三者没収(第三者一一犯人以外の者一一の所有する物件の没収)につき、「当該所有者に対し、告知、弁解、防禦(ぼうぎょ)の機会を与えず所有権を奪うことは著しく不合理であり、憲法の容認しないところであって、憲法第三十一条第二十九条に違反する」(最昭三十七•一一•二八刑一六•一五九三)との判決を下すと、直ちに政府は国会に「刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法」を提出し、国会で可決施行されたのである。(この第三者没収の問題については村上尚文「続実務刑法演習70〔六四〕二三頁以下(日世社刊)参照)。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P292-P297/第六章/憲法八一条〔法令審査権と最高裁判所〕より

憲法第二九条
〔財産権〕

第ニ九条は、日本国の財産権を保障する内容の条文です。

条文
一、財産権は、これを侵してはならない。
二、財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
三、私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

日本国憲法第二九条条文より

憲法第三一条
〔法定の手続の保障〕

 第三一条は、何人たりとも法による適正な手続きなしに生命、自由、財産を奪われることはないという適正手続の保障(デュー•プロセス•オブ•ロー)を記述する条文です。

条文
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

日本国憲法第三一条条文より

憲法第八一条
〔法令審査権と最高裁判所〕
(解説2)引用続き

 なお、いうまでもないことであるが、違憲立法審査権は、存在する法令の規定についてそれが違憲であるかどうかを審査し、違憲と判断したときはこれを無効として、つまり、いわば存在しないものとして適用することを本質とするものであり、ある規定が実定法上存在しないとき、それがいかに憲法上望ましいものであっても、違憲立法審査権の名の下に、これを存在するものとして適用する権限は裁判所に与えられていない(東京高昭五七•六•二三時報一〇四五•七八)。もっとも、国会が憲法によって義務付けられた立法をしないで故意に放置している場合は、それによって立法府が既に特定の消極的な立法判断をしていることができるから、裁判所が立法不作為について合憲、違憲の判断をすることができるとする高裁判例がある(札幌高昭五三•五二四時報八八八•二六)。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P295-P297/第六章/憲法八一条〔法令審査権と最高裁判所〕より

長かった憲法八一条の解説1,解説2をまとめると、
憲法八一条は
裁判所は法令審査権を有すること及び最高裁判所がその権限を有する終審裁判所と規定しているが、「条約」が審査の対象になるかどうかは現段階も統一見解がなく対立している。
 (ⅰ)条約は「規則」に当たる説
 (ⅱ)「条約を除く」という明文がないので対象となる説

 (Ⅰ)条文中「条約」の言葉がないのは、憲法が条約を除く意図で
  「条約」を「法律」又は「処分」に含ませることは無理である
  ⇒審査対象外となる説。
後者が通説。
判例も旧•新日米安全保障条約につき対象外としている(砂川事件口述)

憲法第八一条
〔法令審査権と最高裁判所〕
(解説3)

 解説(3)「終審裁判所」とは、その裁判所の裁判に対しては上訴が許されない裁判所の意味であり、最終お判断を下す裁判所のことである。最高裁判所が通常の訴訟事件についての終審裁判所であることと憲法判断についての終審裁判所であることを示している。

 現行裁判所法は、地方裁判所を第一審とし最高裁判所を終審とする三審制と、簡易裁判所を第一審とし高等裁判所を終審とする三審制とを採っており(裁判所法第七条、第十六条)、前者の系列は問題ないとしても、後者の系列にあっては法令審査が最高裁判所の権限に属さないことになるため、特に規定を設け、憲法判断については更に最高裁判所に特別上告できることとしている(民事訴訟法第四〇九条ノ二)。

 最高裁判所が法令等の合憲性を審査するときには、必ず大法廷によるべきこととされ(裁判所法一〇条。もっとも、意見が前に大法廷でしたその法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときは、小法廷でよい)、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないとの裁判をするには、八人以上の裁判官の意見の一致が必要である(最高裁判所裁判事務処理規則第一二条)。

 最高裁判所が法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと裁判をしたときは、その要旨「官報に公告し、かつ、その裁判書の正本を内閣に送付することを要する。その裁判が、法律が憲法に適合しないと判断したものであるときは、その裁判書の正本を国会にも送付すべきとされている(最高裁判事務処理規則第一四条)。

 最高裁判所が合憲性の審査をした際、その判断は裁判の理由の一部を構成している。そして当事者がある法令を違憲だと主張した場合に、裁判所がその判決の理由中で、その法令を適用しているときは、裁判所がその法令を合憲と判断したものである(最昭二三•一二•一刑二•一六六一)。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P295-P297/第六章/憲法八一条〔法令審査権と最高裁判所〕より

憲法第八一条
〔法令審査権と最高裁判所〕
(解説4)

(解説4)本条は「最高裁判所は、……」と規定しており、本条の違憲立法審査権を最高裁判所のみが有するのか、下級裁判所も有するのかという問題がある。本条が「最高裁判所は、……決定する権限を有する終審裁判所である」としているところからして、最高裁判所だけが違憲立法審査権を有すると読めるが、通説は、もし最高裁判所のみが違憲立法審査権を有するにすぎないのであれば、下級裁判所の審理においえ法律の違憲の問題を生じたときは、何らかの手続きで最高裁判所にその点の判断を求めねばならないことになるが、この憲法にそのような規定がないところにより、違憲立法審査権は司法権を行使する裁判所すべてに与えられたものと解している。そして、現に、例えば民事訴訟法第三九四条及び刑事訴訟法第四〇五条は、下級裁判所のした判決に憲法の解釈に疑いがあるときは、上告をし得るとしている(なお、刑事訴訟規則第二五四条、第二五六条参照)。判例も同様の見解であり、「憲法第八一条は、最高裁判所が意見審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもっているとのではない」としている(最昭二五•二•一刑四•七三)。

 そして、下級裁判所において法令の合憲、違憲の問題を審理判決し、違憲とした事例もめずらしくない(例えば、地方公共団体の職員の争議行為等のあおり等を処罰している地方公務員法第六一条第四号が憲法第一八条、第二八条に違反するとしたもの、大阪地昭三九•三•三〇時報三四八•三二。自衛隊を憲法第九条に違反するとしたもの、いわるる福島判決、札幌地昭四八•七•九時報七一二•二四)。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P295-P297/第六章/憲法八一条〔法令審査権と最高裁判所〕より

 憲法第九八条の国の最高法規である憲法の位置付けと、最高裁判所の法的位置付けの根拠となる第八一条の引用を終えたところで、憲法第九八条(7)の引用のつづきに戻ります。

第九八条
〔最高法規及び国際法規の遵守〕
(解説7続き-8/10)

第九八条(解説7続き)そこで明治憲法下の法令の効力がこの憲法施行後どうなるかの問題がある。

(一)法律    明治憲法下の法律は帝国議会の協賛を経て天皇の裁可により制定されており、この制定機関、制定手続きはこの憲法の条規に違反している。しかし、本項によって当然に無効とはならず、「内容がこの憲法の条規に反しない限り法律としての効力を有する」(最昭二三•六•二三刑二•七二二)。

(二)命令    命令についても法律同様、その制定機関及び手続きがこの憲法の条規に違反する(例えば、この憲法では内閣が定立(ていりつ)すべき(政令)を明治憲法では天皇が定立していた(勅令等)という理由のみで当然に無効とはならない。

 明治憲法下の命令中最も重要なものであった勅令(明治憲法第八条)については、この憲法では「勅令」という法形式を認めておらず、行政権が定立する法形式である政令も規定事項が限定され(憲法第七三条(19)参照)、勅令の規定していた事項は法律の規定事項に移されたのであるから、この憲法上法律によって規定すべき事項を定めていた勅令は、その内容はこの憲法の下においても許されるとしても、法律によって規定していないという点において法形式上憲法違反となって無効となるので、憲法施行までにすべて法律化しなければならないこととなるわけであるが、実際上無理であったため、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」によって、これらの命令は昭和ニニ年一ニ月三一日まで法律と同一の効力を有するものとし(同法第一条)、更に、この権限到来前、法律第ニニ四号により同法に追加し、墓地及埋葬取締規則等、合計ニ三の命令を列挙して「国会の決議により法律に改められたとする」(同法第一条の四)として法律の形式を与えた。したがって、この憲法によって法律で規定すべきとされていた従来の命令は、右のニ三の命令を除いては昭和ニニ年一ニ月三一日で効力を失っている。

 明治憲法下の緊急勅令のうち、いわゆるボツダム緊急勅令(「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」昭和二〇年勅令第五四二号)及びこれに基づくいわゆるポツダム命令(勅令、閣令、省令の形式を採り、占領中約五二〇制定された)のこの憲法下における効力が最も問題であった。ポツダム緊急勅令は、連合国最高司令官の要求する事項を実施するため必要のある場合には、命令で所要の定めをなし、必要な罰則を設けることも可能であると定めたものあるが、明治憲法下でも将来発せられる要求に対応して、あらかじめ、一般的措置を認めることが「緊急ノ必要」の要件を充たすといえるか、また無制限の罰則委任が認められるかという点で明治憲法に違反するのではないかという問題があった。判例も罰則の委任について「まことにやむを得ないところ」とした(最昭二三•六•二三刑二•七二二。第七三条(6))

 この問題は、この憲法の下では、より強く問題とされ、ポツダム緊急勅令の定めるような一般的委任は第七三条第六号、更には憲法の大原則たる法律中心主義からして違憲となるのではないか、右緊急勅令に基づくポツダム命令についても同様でないかと主張された。そして実際に講和条約発効後、占領目的阻害行為処罰令(昭和ニ五年政令第三二五号)についてこれが争いとなり、下級審の裁判例も有効説、無効説と分けて論争の対象となっていたが、最高裁判所は無効説を採って、同政令違反事件に免訴の判決(刑事訴訟法第三三七条第二号)をした(最昭二八•七•二二刑七•一五六二)。その理由は一口でいうと、「右政令の処罰は犯罪行為の実質的内容を特定せず、単に抽象的に連合国再考指令官の指令に反する行為と定めるにすぎず、講和条約発効後はその効力を保持する余地がない」というのである。

 (解説8)「締結」及び「条約」については第七三条(解説7)、(解説8)参照。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P342-P343/第十章/憲法九八条〔基本的人権の本質〕より

司法の限界〜統治行為論〜

 まず、統治行為について定義します。統治行為とは、本来、合憲違憲(司法)判断が可能にもかかわらず、司法審査が求められている国家機関行為について、裁判所が「高度の政治性を有すること」を理由に、司法審査を避ける手法のことです。つまり、"高度な政治問題"は司法は違憲審査をあえて避けることがあるという話になります。以下衆議院資料にて、我が国における司法権の限界と統治行為論についての説明を引用します。


平成12年5月/衆議院憲法調査会事務局/衆憲資第4号/憲法訴訟に関連する用語等の解説

B.司法権の限界(P6)

裁判所法3条1項では、「裁判所は......一切の法律上の争訟を裁判」するとされているが、これにはいくつかの例外がある。それは、以下の3種に大別される。

1 憲法が特別の理由から明文で認めたもの(例:議員の資格争訟の裁判(55条)、裁判官の弾劾裁判(64条)

2 国際法によって定められたもの(例:外交使節の治外法権、条約による裁判権制限)

3 その他、法律上の係争ではあるが、事柄の性質上裁判所の審査に適しないと認められるもの
これらのうち3については、明文の規定が存在しないことが多いため、最も問題になりやすい。これには、国会ないし各議院の自律権に属する行為、行政 機関ないし国会の自由裁量に属する行為、統治行為などが含まれる。

平成12年5月/衆議院憲法調査会事務局/衆憲資第4号/憲法訴訟に関連する用語等の解説P6

第五五条
両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第六四条
国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。

二  弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

日本国憲法第五五条、六四条

(4) 統治行為(P10)
<統治行為とは>  統治行為とは、一般に、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為で、法律上の争訟として裁判所による法律的な判断が理論的には可能であるのに、事柄の性質上、司法審査から除外されるものと解されており、 1内閣及び国会の組織又は運営に関する基本的事項、2それらの相互交渉に関する事項、3国家全体の運命に関する重要事項(外交、防衛に関する事項等)が、これに該当する事項として挙げられている。

<その論拠>
 このような統治行為を認めることは、日本国憲法のように徹底した法治主義(法の支配)を原則とする憲法の下では許されない、という考えも有力である。しかし、多数の学説は、統治行為の存在そのものは認めており、一般に、その論拠として、統治行為に対して司法審査を行うことによる混乱を回避するために裁判所が自制すべきであるとする自制説、高度の政治性を帯びた行為は国民によって直接選任されていない裁判所の審査の範囲外に在り、 その当否は国会・内閣の判断に委ねられているとする内在的制約説、自制と内在的制約との微妙な結合の上に成立しているとする折衷説等が主張されている。  しかしながら、統治行為に該当するとされるものの多くは、それぞれの機関自体の自律権・自由裁量論などによって説明できるものが多く、何が統治行為に当たるか、包括的・一般的にではなく、個々の行為ごとの吟味を行い個別的・実質的論拠が十分に示される場合にのみ認められるとする限定肯定説が多数となっている。
<判例>  最高裁は、衆議院解散の効力が争われた苫米地事件(i)において、このような行為は「裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対 して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている」と判示して統治行為を認めた。また、最高裁は、砂川事件(ii)では、日米安保条約を「一見極めて明白に違憲無効」と認められない限り司法審査の対象外と判示したが、これは、「一見極めて明白に違憲無効」の場合には司法審査が可能であるとしているため「例外つきの変則的統治行為論」とも解されている。

平成12年5月/衆議院憲法調査会事務局/衆憲資第4号/憲法訴訟に関連する用語等の解説P10

純粋な統治行為論の苫米地事件と条件付き統治行為論で司法審査の可能性を残した砂川事件

統治行為論を採用した判例
判例1.苫米地事件(最大判昭和35・6・8)
→統治行為論の全面採用

判例2.砂川事件(最大判昭和34・12・16)
→統治行為論を制限付き採用

判例.1 苫米地事件概要
 憲法七条を根拠に衆議院解散で衆議院議員の職を失った元議員が、憲法第六九条に基づいた解散のみが認められると、任期満了までの職の確認と歳費の支給を訴えて争った結果、最高裁は、

「直接国家統治の基本に関する高度の政治性のある国家行為のごときは、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は、裁判所の司法権の外にあり、その判断は、主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断にまかされ、最終的には国民の政治判断にゆだねられているものと解するべきである。」

 純粋な統治行為論を採用し、司法審査の対象外となるとし、憲法判断を回避すると結論づけました。

第七条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一、憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二、国会を召集すること。
三、衆議院を解散すること。
四、国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五、国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七、栄典を授与すること。
八、批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九、外国の大使及び公使を接受すること。
十、儀式を行ふこと。

日本国憲法第七条より

第六九条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

憲法第六九条より

判例2:砂川事件概要
 1955年、在日米軍が日本政府に対し、立川基地の拡張を求め、基地拡張に反対するデモ隊の一部が、憲法九条違反とし、反対運動の際に米軍の敷地内に侵入し、日米安保条約に基づく特別法によって逮捕・起訴された。これに対し、デモ隊側は、安保条約自体が憲法第九条に違反するため、安保条約に基づいて規定された本法律も違憲であることから無罪を主張しました。

憲法九条
一:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
二:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法第九条

 これに対し、東京地裁第一審の判断は、米軍駐留は第九条2項の「戦力の保持」の違反に該当(伊達判決)と判断。安全保障条約は「主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」であり、その合憲性の判断は、国会や内閣の「高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない」。そのため、「純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない。」→統治行為論を採用。
 したがって、「"一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り"は、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」(=司法審査の余地を残している)。
 よって、一審判決は、日米安保条約に基づく駐留米軍は憲法違反であり、デモ隊の行為は無罪と結論つけました。これが俗にいわれる"伊達判決"で、これを論拠に憲法優位説を展開される論説が多数見受けられます。

 この伊達判決によって裁判所は、
衆議院の解散については統治行為論の全面採用。
安保条約については"一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り"統治行為論を採用するという判断が定説(条件付き統治行為論)になりました。
 しかし、この伊達判決の後、検察側は、一審から異例の最高裁へ跳躍上告し、第一審の判決が覆され「統治行為論」が再び全面採用され、デモ隊の有罪が確定しました。

 跳躍上告とは、違憲裁判や刑事裁判において第一審の判決に対し不服とし、第二審への控訴を経ず、直接最高裁判所に上告することです。

 最高裁の判断論拠は、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべきものであると解するを相当とする。」
すなわち、日米安全保障条約のような高度に政治的な問題が絡む場合、基本的には裁判所が判断を行うべきではないとの立場を示します。

憲法第七三条
〔内閣の職務〕
(解説6/11)

条文と解説を覗いてみましょう。本条では、内閣の職務について規定しています。

条文
内閣は、他の一般行政事務(解説1)の外、左の事務を行ふ。

(中略)

二 外交関係を処理すること(解説6)

三 条約(解説7)締結すること(解説8)。但し、事前に(解説9)時宜によっては(解説10)事後に(解説9)国会の承認経ることを必要とする(解説11)
(中略)
全体解説/行政権が内閣に属することは第六五条が定めているが、本条は、その内閣の担任する具体的な権限の内容を明示している。
(解説1)内閣は行政圏の主体であり、広く一切の行政事務を行うのであり、本条に列挙されているものは、そのうちの重要なもので、これに限らないという趣旨である。
(中略)

(解説6)「外交関係を処理する」とは、外交に関する事務を処理することであり、このうち条約の締結は本条第三号に規定されており、それ以外のすべての外交に関する事務である。通常の外交事務は、内閣の元に設置された外務省に主管させているが、比較的重要な外交に関する事務は、内閣の権限に属させたのである。例えば、全権委任状、大使、公使の信任条(第七条五号)、外交文書(大使・公使の解任状、外国領事認可状等。第七条第八号)の作成、外国使臣の接受等の作成は内閣の権限とされている。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P253/第五章/憲法七三条〔内閣の職務〕より抜粋

憲法第七三条
〔内閣の職務〕
(解説7-11/11)

(解説7)「条約」とは、文書による国家間の合意のすべてであり、条約という名で呼ばれる狭義若しくは形式上の「条約」に限らず広義若しくは実質上の条約をも含む。したがって、「協約」、「協定」、「取極」、「宣言」、「議定書」、「憲章」、「決定書」、「覚書」、「交換通牒」等も、ここでいう条約である。

 しかし、日常的な外交文書、あるいは既存の条約の技術的•実施的細則を定めた(いわば執行命令のような)文書とか、条約の委任に基づく(いわば受任命令、委任命令のような)文書(行政協定)は含まれない。

 旧日米安全保障条約第三条に基づく行政協定は、かような意味の行政協定であるとして国会の承認を経る手続きを採らなかったのである。政府の見解は、この行政協定は、旧日米安全保障条約第三条「アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条約は、両政府間の行政協定で決定する」に基づくもので、その内容からみれば、締結につき国会の承認を経る必要があるものであるが、既に国会の承認を経て締結された同条約第三条の授権があるからその必要はないというのである。この見解は右行政協定は前期の委任命令としての行政協定の性質を有するものであり、これに対する反対意見も強かったが、政府の見解は国会でも肯定された。判例も右行政協定につき合憲としている(最昭三四•一ニ•一六刑一三•三ニニ五)。

(解説8)「締結する」とは、条約の成立に必要な日本国の意思を最終的に決定する事で、手続きは全権委員の任命、全権委任状の発給、交渉、記名調印、批准、批准書の交換又は寄託であるが、条約によっては記名調印のみで確定的に成立する場合もある。

(解説9)「事前に」あるいは「事後に」とは、条約を締結する前あるいは後のことであり、条約を確定的に成立する手続の時期が基準となる。批准によって成立する条約については、批准の前が「事前に」であり、批准の後が「事後に」である。批准を要せず記名調印で成立する条約については、記名調印の前が「事前」であり、記名調印の後が「事後」である。

(解説10)「事前に」国会の承認を経ることが原則であり、特に急を要するとか、議会が解散されて承認すべき議会がないような場合を指す。これに対し、場合によってとか、あるいは都合によってとかと解し、外交政策上の必要により、「事後に」国会の承認を経ることが適当と考えられる場合をも含むとする説もある。前説が多数説であるが、政府見解は後説である。現在、多くの国では条約全部について国会の承認を要することはせず、ある程度有用性を有する内容の条約に限る等、条約締結について比較的行政部に重点を置く傾向にあるところをみれば後説が妥当であろう。

(解説11)ある条約を内閣が締結することに対する国会の同意であり、「承認」については、それが条約成立の有効要件であるかどうかについて学説は分かれている。承認が事前の承認である場合には、その条約はいまだ成立していないから承認を得られなければ内閣は事後の手続を中止するだけであって、条約の効力には関係ない。問題は事後の承認についてである。通説は、承認を有効要件とする立場であり、国会が国権の最高機関としての機能を有することを根拠に有効要件と開始、事後に国会の承認が得られなければ条約は有効には成立しないとする。反対説は、条約は記名調印又は批准によって成立し、我が国及び相手方との間には既に拘束力が生じており、承認が得れれなくてもそれだけでは我が国に対する効力は失われず、内閣が相手国に対してその条約の取消又は改廃を申し入れ、相手国がそれに同意することによって初めてその効力が失われるとする。政府見解は後者である。

 次に、国会が承認を与えるにつき州政権を有するかどうかの点である。これについても修正権を有するとする説と有しないとする説に分かれている。前説によると、修正が可能であるから、その効果いかんが問題となる。事前の承認の際の修正であれば、いまだ条約が成立していないので、内閣は国会の修正意思に従って相手国と更に折衝すべき拘束を受ける。ーー相手国がこれを拒否すれば条約は不成立となるーーが、事後の承認において修正された場合は、既に条約は成立しているから、内閣が改めてその条約の改定を相手国に申し入れ、相手国がそれに同意するまでは修正前の条約が効力を有する。後説によると、国会は条約につき一括して承認するかしないかの方策しかないこととなる。政府見解も結論としてこの説であり、条約は憲法上その締結が内閣の権限とされており、かつ、日本国のみの意志で内容を変更し得ないものであるから、国会が修正の希望を表明することは格別、国会の意思によって直ちにこれを修正することは考えられないとしている。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P255-256/第五章/憲法七三条〔内閣の職務〕より抜粋

ちょうど本件でクリティカルな説明資料があったので、補足資料を追加します。

リラックス法学部 
条約は国会の承認を得られない場合どうなるか?条約は違憲審査の対象になるのか?
 公開日 : 2014/04/05 / 更新日 : 2019/04/14

 憲法七三条三項は、条約の締結は内閣の権能としながら、国会の承認を必要としています。

憲法七三条三項
条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。

条約は通常は、交渉、調印、批准の順で締結されますが、国会の事前の承認を得ることができない場合は、条約の批准をすることができません。

事後の承認が得られなかった場合の扱いは諸説あり、国会の承認権が相手国に周知の場合、国際法上の効力を否定できるとする条件付無効説、

国際法上の効力は否定できないが、条約の締結手続が憲法上の明白かつ基本的に重要な規定に違反するときは国内法的に実施することができないとする国際法・国内法二分説といったものがあります。

「条約」も違憲審査の対象になるのか?条約とは、国家間において国際法に基いてされる国際的合意ですが、条約がそのまま法的効力を有する事に争いはありません。

違憲審査権とは、一切の法律、命令、規則、処分が憲法に適合するかどうかを決定する最高裁判所が有する権限です。

(憲法に適合しないと決定したものは「無効」な国家行為となります。)

条約も違憲審査の対象となるかが問題となります。条約と憲法の形式的効力の優劣については争いがあり、これに関連して条約が違憲審査の対象となるのか否かについて、条約優位説、憲法優位説という見解に分かれます。

簡単に言えば、
「条約と憲法はどっちが上なのか?条約が上なら違憲審査はできないし、憲法が上なら違憲審査はできるという事になる」
という見解の違いなわけですが、じっくりみていきましょう。

条約優位説
文字通り、条約の方が憲法より優位であると考え、条約は違憲審査の対象となることはないと考える立場です。

この立場への批判としては、法律の成立よりも簡易の手続きで成立する条約が憲法よりも優位に立つならば、条約によって憲法が改正されるのと同様の結果を生み出す事ができ、国民主権や硬性憲法の建前に反するというものが考えられます。

憲法優位説
こちらも文字通り、憲法が条約より優位に立つと考える立場です。ただし、こちらの場合は、条約を違憲審査することができるとする「肯定説」と、憲法が優位に立つからといって必ずしも条約を違憲審査できると考えるわけではないという「否定説」という考え方もあります。

判例は、憲法優位説に立ち、

「高度の政治性を持つ条約には、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、裁判所の司法審査権の範囲外のものである(統治行為論の行使)」としました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/816/055816_hanrei.pdf

まあ、「一見極めて明白に違憲無効な条約であれば、違憲審査の対象となる」と解釈されています。

リラックス法学部 
「条約は国会の承認を得られない場合どうなるか?条約は違憲審査の対象になるのか?」より

 通常の条約は通常は、交渉、調印、批准の順で締結されますが、国会の事前の承認を得ることができない場合は、条約批准はできないが、事後の承認が得られなかった場合の扱いはいくつか解釈があります。

(ⅰ)国会の承認権が相手国に周知の場合、国際法上の効力を否定できるとする。

(ⅱ)
国際法上の効力は否定できないが、条約の締結手続が憲法上の明白かつ基本的に重要な規定に違反するときは国内法的に実施することができないとする「国際法・国内法二分説」
など

憲法九八条
〔最高法規及び国際法規の遵守〕
(解説9-10/10)

に戻ります。

(解説9)国際法規といえば、条約と慣習国際法をいうが、条約については別に規定されているので、ここでいう確立された「国際法規」とは、条約を含まず、慣習国際法を指し、「確立された」とは、一般に承認され、実行されたという意味であり、大多数の国によって承認され、特にすべての大国が承認している場合のことである。我が国が批准していない条約がこれに当たるかどうかにつき、通説は我が国が批准していなくても、大多数の国、特にすべての大国が承認していればこれに当たるとしている。

(解説10)この趣旨は、条約及び国際法規が国内法的効力を有することを認めているものである。したがって、業務として条約及び国際法規を遵守しなければならないわけであり(通説)、裁判所も条約、国際法規を適用しなければならないこととなる。
 こうして、条約及び国際法規が国内法上の効力を認められるところより、条約及び国際法規が国内法上憲法にとどういう効力関係に立つかという音大が生じる。

 これについて学説は条約優位説と憲法優位説に分かれている。前節の根拠は、条約及び国際法規が憲法反するという理由で遵守しないということになると誠実に遵守することができなくなること、第八一条が裁判所の違憲立法審査権の対象から条約を除外していることは条約が憲法に違反していても施工することを義務づけているとしていること、この憲法が前文や第九条に示されているように国際協調主義や国家主権制限の思想、つまり、世界国家的思想に立脚しているから、憲法に対しても国際法が優越すると考えるべきであることを挙げている。後説の根拠は、憲法は本項のほか第九十九条で国務大臣、国会議員、裁判官に対し憲法の尊重用語義務を課していること(下段記述)、第八十一条は条約に対する違憲立法審査を必ずしも禁止していないことと、憲法の改正には国会の議決だけでなく国民投票をも必要としているのに内閣の締結及び国会の承認のみで足りる条約が憲法に優越するとすることは憲法の基本原理である国民主権主義に矛盾するし、憲法は国民主権主義と国際協調主義を併立させていても、国際協調主義で国民主権主義を排除することは考えられないことを挙げている。

 結局において、この問題は憲法の基調である国際協調主義と国民主権主義のいずれを重視するかによって決せられるが、国際協調主義は国際的民主主義にほかならず、真の意味における国内の民主主義が国際的民主主義の成立なくしては実現されないとする憲法の基本観念及び制定の由来を考慮すれば、国際協調主義を重視して、条約優位説を採るべきであろう(通説。政府見解)。

 しかし、こう解しても、形式的に違憲な条約、つまり、憲法上定められた政党な締結手続によらずに締結されたようやくは無効であって拘束力を有しないことはいうまでもないし、内閣及び国会が違憲と知りつつ条約を締結
承認して条約が成立したとしても、これに対応する憲法解説の措置が必要となり、憲法改正が成立しなければ条約の改廃をすべき義務が政府に生じることとなるわけで、もし相手国がおの愛はいに応じなければ条約は国際法上我が国に拘束力を有するが、我が国は国内的にこれを施行できないこととなろう。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P344-345/第十章/憲法九八条〔最高法規、条約及び国際法規の遵守〕より抜粋

また、日本国憲法第九八条と条約の解釈について、興味深い書籍を紹介します。

戦後憲法学の泰斗と呼ばれた憲法の祖による憲法解説
"日本国憲法 解説と資料 1947年"

日本国憲法:解説と資料:1947年 帝国憲法から日本国憲法への変遷/表紙

戦後、平和の提唱、民主政治の徹底、そして人間性の尊重の3本柱の理念で創り上げた日本国憲法の作った人たちによる解説書です。

戦前、東京帝国大学にて美濃部達吉に師事し、憲法学の権威とまで言われ、日本国憲法の大枠を創りに大きく貢献した一人である憲法学者の宮澤俊儀氏の論説の引用です。大日本帝国時代と敗戦後では言動や態度を変説された事で、批判の多い人物ではありますが、敗戦を迎え、従来の旧憲法から、新たな憲法創り出す際の思いや苦労は私如きの想像を遥か絶するものでしょうし、少しでもその片鱗をご理解いただけることでしょう。

 新憲法は、民主主義を採用しているが、いわゆる直接民主主義を原則とせず、代議制度を原則とし、国権は国民の直接の代表者である国会が最高機関として行使するのを本則としているが、憲法改正の場合だけは、主権者である国民が直接行動することが必要であると考えられ、この制度が認められたものと考えられる。国民は、そのほかに、最高裁判所の裁判官の審査を行う場合のほか、国会議員、地方議会の議員及び地方国体の職員の選挙の場合にのみ直接政治に参加することを許されている。

『条約、国際法規は誠実に遵守』

最後に、最高法規について  「第十章最高法規」という称に含まれている規定は、あまり統一的な内容をもっていない。

 第97条は、むしろ第3章の規定と同じ趣旨であって、特に最高法規と題する章の中にある規定として、少し適当でないような感じを与える。その趣旨は前文及び第3章と異なるところはない。

 肝心の最高法規という言葉を使っている第98条が、この章の主眼であるが、この規定では、条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを要するという第2項が、とくに重大な意味を持っている。条約及び国際法規は、これによって国法の一部となったと考え、国際法規が国内法規と同じように、直接政府及び国民を拘束するものであることが、ここで明らかにされたものと思う。  

『国家の名誉にかけて育てあげよ。』

 以上、新憲法の各章について、きわめて簡単に概観したが、要するに憲法は、紙の上に書いた文章にすぎない。蒋介石主席の言葉をもってすれば白い紙の上に黒い字を書いたものにすぎない。それが、いかに民主的であるからといって、それがすぐにその国の政治が本当に民主的であることを意味しない。民主的な憲法をもっている国は極めて多いが、その全部が真に民主政治を行っているとは誰も考えていない。日本がこの民主的な憲法をつくったのは、日本の民主政治の確立、平和国家の建設のために喜んでいいことであると思うが、それは、要するに、紙の上にプランを書いたというだけのことであって、それが、その規定通り現実に行われているかどうかは全く別の問題である。国民はこのことを十分に認識して、この憲法を単に紙の上のもの決めつけず、真に実際政治の中に生命を持ったものとして育てあげることに努力すべきものと考える。真の民主政治の確立、平和国家の建設は 5年や10年で出来上がるものでは決してない。そのためには、非常に困難な、そして長い道が我々の前途に横たわっていることを認識し、新憲法の前文にあるように「日本国民は、国家の名誉にかけ全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓いたいと思う。

日本国憲法:解説と資料:1947年 帝国憲法から日本国憲法への変遷/時事通信社三版/P33より

強行規範(ユス・コーゲンス)を規定した国際条約1969年ウィーン条約

 1969年5月23日にウィーンで採択され、1980年1月27日に発効した、別名「条約法に関するウィーン条約」とも呼ばれ、連合国(国連)国際法委員会が制定した国際条約に関する慣習国際法で、国家間条約に関する規定を国際法上の取り決めた憲章のことで、条文中には「合意は拘束する(Pacta sunt servanda)」や、「強行規範ユス・コーゲンス(ラテン語:jus cogens)」といった締結した国家に対して拘束するといった強のニュアンスで規定しています。
日本は、1981年8月1日「加入」しました。

「加入」とは、条約に対し、条約への署名期限内に何らかの理由で著名をせずに条約を受け入れることです。

当事国の拘束を規定する第26条

Article 26 “Pacta sunt servanda” Every treaty in force is binding upon the parties to it and must be performed by them in good faith.
第26条 「Pacta sunt servanda」 有効な条約はすべてその当事国を拘束し、誠実に履行されなければならない。

条約法に関するウィーン条約第26条

Pacta sunt servanda

この文言はラテン語で、読み方は「パクタ・スント・セルウァンダ」と読み、合意は守られなければならないことを条約締結国に規定しています。

Article 27 Internal law and observance of treaties A party may not invoke the provisions of its internal law as justification for its failure to perform a treaty. This rule is without prejudice to article 46.
第27条 内国法と条約の遵守締約国は、条約の不履行を正当化する理由として、内国法の規定を援用することはできない。この規定は、第46条を損なうものではない。

条約法に関するウィーン条約第27条

Article 46 Provisions of internal law regarding competence to conclude treaties
1. A State may not invoke the fact that its consent to be bound by a treaty has been expressed in violation of a provision of its internal law regarding competence to conclude treaties as invalidating its consent unless that violation was manifest and concerned a rule of its internal law of fundamental importance.
2. A violation is manifest if it would be objectively evident to any State conducting itself in the matter in accordance with normal practice and in good faith.
第46条 条約締結能力に関する国内法の規定
1. 国は、条約に拘束されることへの同意が、条約を締結する権限に関する内国法の規定に違反して表明されたという事実を、その違反が明白であり、かつ、基本的に重要な内国法の規定に関係するものでない限り、その同意を無効とするものとして援用することはできない。
2. 違反が明白であるとは、通常の慣行に従い誠実にその問題に取り組むいかなる国にとっても客観的に明白である場合をいう。

条約法に関するウィーン条約第46条

Article 53 Treaties conflicting with a peremptory norm of general international law (“jus cogens”) A treaty is void if, at the time of its conclusion, it conflicts with a peremptory norm of general international law. For the purposes of the present Convention, a peremptory norm of general international law is a norm accepted and recognized by the international community of States as a whole as a norm from which no derogation is permitted and which can be modified only by a subsequent norm of general international law having the same character.
第53条 一般国際法の明白な規範(「ユス・コーゲンス」)に抵触する条約条約は、その締結の時に、一般国際法の明白な規範に抵触する場合には、無効である。この条約の目的上、一般国際法の絶対的規範とは、国家からなる国際社会全体が、いかなる脱線も許されない規範として受け入れ、承認した規範であり、同じ性格を有する後続の一般国際法の規範によってのみ修正することができる規範である。

条約法に関するウィーン条約第53条

Article 64 Emergence of a new peremptory norm of general international law (“jus cogens”) If a new peremptory norm of general international law emerges, any existing treaty which is in conflict with that norm becomes void and terminates.
第64条 一般国際法の新たな絶対的規範(「ユス・コーゲンス」)の出現 一般国際法の新たな絶対的規範が出現した場合、その規範に抵触する既存の条約は無効となり、終了する。

条約法に関するウィーン条約第64条

「ユス・コーゲンス」とは、ラテン語でjus cogens、強行規範と謂われ、国際法上いかなる逸脱も許されない規範を指します。国際法の縦の序列関係においては上位の法として位置づけられ、強行規範に反する条約や慣習国際法に対して絶対的優位に立つ考え方です。
強行規範の具体的内容については、条約法条約の審議において侵略、奴隷取引、海賊行為、ジェノサイドの禁止、人権、国家平等、民族自決などを強行規範として認める規定を置こうとする主張もあったようですが、実際は強行規範と主張する意見がありながらも統一見解はありません。

ユス・コーゲンスに対する国際法学説上の対立

 国際法に条約を無効とするような上位規範が存在するかについて、やはり双方対立しているようです。強行規範を肯定する立場では、任意のすべての法規に優位する「必然の法」の存在説、国際社会全体に重要で国際社会の存立に不可欠の価値を内容する法と解釈する解釈から無条件に強行規範の存在を肯定する説などの立場を自然法主義といいます。
 これに対し強行規範を否定する立場では、主権の発現である国家の「合意の自由」が重視され、国家を拘束する法規範は国家による自由意思によるものであるため、「国家の独立に対する制限は推定されてはならない」という判例もあります(1927年ローチェス号事件常設国際司法裁判所判決)。国際法はもっぱら国家の意思に基づいて有効なのであり、条約の内容も国家が自由に定めることができるとして強行規範の存在を否定する説を実証主義といいます。

SECTION 5. CONSEQUENCES OF THE INVALIDITY, TERMINATION OR SUSPENSION OF THE OPERATION OF A TREATY
第5項 条約の無効、終了、または運用停止による影響

Article 69
Consequences of the invalidity of a treaty
1.A treaty the invalidity of which is established under the present Convention is void. The provisions of a void treaty have no legal force.
2.If acts have nevertheless been performed in reliance on such a treaty:
(a) each party may require any other party to establish as far as possible in their mutual relations the position that would have existed if the acts had not been performed;
(b) acts performed in good faith before the invalidity was invoked are not rendered unlawful by reason only of the invalidity of the treaty.
3.In cases falling under article 49, 50, 51 or 52, paragraph 2 does not apply with respect to the party to which the fraud, the act of corruption or the coercion is imputable.
4.In the case of the invalidity of a particular State’s consent to be bound by a multilateral treaty, the foregoing rules apply in the relations between that State and the parties to the treaty.
第69条 条約が無効であることの結果1.この条約に基づいて無効が確定された条約は、無効である。にもかかわらず、そのような条約に依拠して行為が行われた場合には、
(a)各締約国は、他の締約国に対し、その相互関係において、その行為が行われなかったとしたならば存在したであろう地位をできる限り確立することを要求することができる。
(b)無効が主張される前に善意で行われた行為は、条約の無効のみを理由として違法となることはない。 第49条、第50条、第51条または第52条に該当する場合には、詐欺、汚職行為または強制が帰属する締約国に関しては、第2項は適用されない。4.多国間条約に拘束されることに対する特定の国の同意が無効である場合には、当該国と条約締約国との関係において前述の規則が適用される。

条約法に関するウィーン条約第69条

Article 70
Consequences of the termination of a treaty

1.Unless the treaty otherwise provides or the parties otherwise agree, the termination of a treaty under its provisions or in accordance with the present Convention:
(a) releases the parties from any obligation further to perform the treaty;
(b) does not affect any right, obligation or legal situation of the parties created through the execution of the treaty prior to its termination.

2.If a State denounces or withdraws from a multilateral treaty, paragraph 1 applies in the relations between that State and each of the other parties to the treaty from the date when such denunciation or withdrawal takes effect.

第70条 条約の終了の結果、
1.条約に別段の定めがある場合又は締約国が別段の合意をする場合を除くほか、条約の規定に基づく又はこの条約に従った条約の終了は、
(a)締約国が条約を更に履行する義務を免除されること。
(b)条約の終了前に条約の履行を通じて生じた締約国のいかなる権利、義務又は法的状況にも影響を与えないこと。
2.ある国が多国間条約を批准し又は脱退する場合には、当該国と当該条約の他の各締約国との間の関係においては、当該批准又は脱退が効力を生ずる日から第1項が適用される。

条約法に関するウィーン条約第70条

Article 71
Consequences of the invalidity of a treaty which conflicts with a peremptory norm of general international law
1.In the case of a treaty which is void under article 53 the parties shall:
(a) eliminate as far as possible the consequences of any act performed in reliance on any provision which conflicts with the peremptory norm of general international law;
and
(b) bring their mutual relations into conformity with the peremptory norm of general international law.

2.In the case of a treaty which becomes void and terminates under article 64, the termination of the treaty:
(a) releases the parties from any obligation further to perform the treaty;
(b) does not affect any right, obligation or legal situation of the parties created through the execution
of the treaty prior to its termination, provided that those rights, obligations or situations may thereafter be maintained only to the extent that their maintenance is not in itself in conflict with the new peremptory norm of general international law.

第71条 一般国際法の明白な規範に抵触する条約の無効の結果
1. 第53条に基づき無効とされた条約の場合、締約国は、
(a) 一般国際法の明白な規範と抵触する規定に依拠して行われた行為の結果を可能な限り排除しなければならない。
そして、
(b) その相互関係を一般国際法の厳格な規範に合致させること。

2.第64条に基づき無効となり終了する条約の場合、条約の終了は、
(a)締約国が条約を履行するいかなる義務からも解放される。
(b)条約の終了以前に条約の履行を通じて形成された締約国のいかなる権利、義務または法的状況にも影響を与えないこと、ただし、これらの権利、義務または状況は、その維持自体が一般国際法の新たな絶対的規範に抵触しない範囲においてのみ、以後も維持することができる。

条約法に関するウィーン条約第71条

Article 72
Consequences of the suspension of the operation of a treaty
1.Unless the treaty otherwise provides or the parties otherwise agree, the suspension of the operation of a treaty under its provisions or in accordance with the present Convention:
(a) releases the parties between which the operation of the treaty is suspended from the obligation to perform the treaty in their mutual relations during the period of the suspension;
(b) does not otherwise affect the legal relations between the parties established by the treaty.
2.During the period of the suspension the parties shall refrain from acts tending to obstruct the
resumption of the operation of the treaty.
第72条 条約の運用の停止の結果1.条約に別段の定めがある場合又は締約国が別段の合意をする場合を除くほか、条約の規定に基づく又はこの条約に従った条約の運用の停止は、
(a)条約の運用が停止された締約国は、その停止の期間中、相互の関係において条約を履行する義務を免除される。
(b)その他条約により確立された締約国間の法律関係に影響を及ぼさない。
2.停止期間中、当事国は条約の運用再開を妨害するような行為を慎まなければならない。

条約法に関するウィーン条約第72条

ウィーン条約条文の一例を挙げましたが、どのような印象を抱きますか?
条約法に関する条約と言われるだけあり、条文中も権威性や格式が高く、基本的に「国家に対する超法規的な拘束」も入っていることが十分理解できるだろうと思います。

(解説10)で上がった憲法九九条を記述します。

第九九条
〔憲法尊重擁護の義務〕

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員(解説1)は、この憲法を尊重し擁護(解説2)する義務を負ふ(解説3)。

全体解説/本条は、国政を担当する天皇、摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員が憲法を尊重し擁護する義務を負っていることを定めている。

(解説1)ここでいう「国務大臣」は、広く内閣の構成員であり、内閣総理大臣をも含む「国会議員」は、衆議院、参議院の議員で、「両議院の議員」と同じである。「その他の公務員」とは、「国務大臣、国会議員、裁判官以外のすべての公務員であり、国、地方公共団体の公務員で一般職、特別職の別を問わない。

(解説2) 本条は天皇、摂政及び公務員に憲法尊重用語の義務を定め、一般国民にはこの義務を定めていないが、一般国民には憲法尊重用語の義務がないという趣旨ではない。国民は主権者であり、この憲法を制定し、憲法の理想と目的とを全力を挙げて達成することを誓ったのであるから、国民が憲法の尊重用語の義務を負うことは当然である。
 本条は、むしろ国政を担当する天皇、摂政、公務員に対し、憲法を尊重し用語することを主権者たる国民が要求しているとしているのである。
 諸国の憲法には国王、大統領、国会議員、一般の官吏等に憲法遵守の宣誓の規定を設けているものが多い。我が国でも法律により、公務員に就任の際、憲法尊重用語の宣誓を行うべきことを定めているのは、本条の趣旨を更に推し進めたものである(人事官につき国家公務員法第六条第一項、人事院規則二ー〇⦅人事官の宣誓⦆)。一般職の国家公務員につき国家公務員につき国家公務員法第九七状、職員の服務の宣誓に関する政令。警察職員につき警察法第三条)。

(解説3) ここでいう「義務」は倫理的、道義的なものであり、この義務に違反したことから直ちに本条により法律的効果が生じるのではない。
 しかし、法律によって先生義務が定められている場合には、本条が憲法上の根拠となり、その法律によって法律的効果が生じる。例えば、人事官が先生を行わなければその職務を行うことができず(国家公務員法第六条第一項)、公務員が宣誓を拒否すれば懲戒事由(同法第八二条第二号)、裁判官が本条に違反すれば、弾劾事由とされる(裁判官弾劾法第二条第一号)。また、法律的効果が生じない場合でも、政治的責任を生ずることがある。例えば不信任決議がなされても内閣が総辞職をしないとか、国会の出席要求を受けて国務大臣が出席を拒否するとかすれば、国家、さらには国民によって政治的責任を追及されるであろう。

逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房/P345/第十章/憲法九九条〔憲法尊重擁護の義務〕より抜粋

結局、憲法と条約どっちが優位?

 長々と条文と解釈を記述してきましたが、結局どっちが優位なのかは今日この瞬間においても結論はそんな簡単に出ないということです。その道のプロでもおそらく同じ見解でしょう。

・憲法前文の「国際協調主義」を意図する文言。

・九八条一項の「国の最高法規」や九九条の憲法擁護の義務を謳いつつ、九八条二項の条約遵守を「必要とする(必ず要る)」という文言。

・政府見解、法曹界、学術界の解釈。

・法令審査権を有しつつも、「高度な政治性を有する」場合は政治側に、統治行為論を採用し違憲審査を避ける傾向の最高裁判所の過去の判例。

・連合国(国連)国際法委員会が条約に関する慣習国際法を法典化し、国家としての拘束条項を規定している"条約法に関する一般条約/1969年ウィーン条約。

私の結論としては、我が国は残念ながら現実は条約優位説の立場が優勢であるだろうと言わざるを得ない事に変わりはありません。

 しかし、憲法優位説の立場で考えられる論拠も考えると、そもそも、条約優位を国家として認めてしまった場合、それは国の最高法規である憲法そのものの意義が崩壊してしまうということです。つまり、条約締結によって、国会を通さず憲法改正が可能になってさえしてしまえば、事実上憲法を融解させることが可能になるという論点から、この条約優位説にも大きな矛盾点と問題点があることは否めません。名実ともに硬性憲法と謂われる日本国憲法で国会すら通さず条約批准で憲法改正など、認めてよいわけがありません。

結論→毎日新聞/39 憲法と条約 両立は永遠のジレンマ

以下リンク先は毎日新聞のホームページに掲載されている、2002/5/20付けの社説は核心をついています。

 記事中は憲法九八条一項と二項の矛盾点を痛烈に突きつつ、条約の違憲可能性に触れた砂川事件にも触れ、核心をついたタイトルだと思います。
ただ、この時期の時勢的にな問題でイラク情勢の不安定さや、SDGsの大元となる地球サミット2002が開催、また連合国(国連)にスイスが190番目に加盟したなど、国際政治の世界がより一層、グローバル化の必要性があっちこっちで叫ばれていた時勢でもあった中で、やはり条約を優先すべきだという論説に傾いている点は賛同できかねる点で残念ではありますが。

今後、悪法を強要する条約が交わされたら?

 今後、日本で悪い条約を交わされそうな場合はどうすれば良いのでしょうか。当然のごとく、その条約の明確な憲法違反である点を論拠に違憲裁判にて言論で戦うことになるでしょう。下記フローチャートの様に、

条約内容と違憲審査のフロー

仮に違憲判断の疑いがあるとしてもそれが認められるまでの道のりは途方もなく遠く、大きな壁と言わざるを得ませんが(上記フローで他に必要な要素がありましたら、遠慮なくご指摘くださいませ。特に法曹界のプロの方、プロの見解ぷりーず)、過去、砂川事件やつい先日違憲判断がなされた優生保護法、また戦後、我が国における目を覆いたくなるほどの薬害事件の数々をはじめとして国を相手取り戦った被害者の方たちはそうした高い壁を数十年かけて戦い抜き勝ち取った結果であるとも言えるのです。参考に、2024年7月3日付の朝日新聞記事による最高裁による違憲法令の記事を参照ください。

最高裁による「法令違憲」は戦後13件目 「憲法の番人」が最終判断:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 今私が一番注目している事例の一つは、国際機関による感染症にまつわった条約についてです。つい先日、パンデミック条約に関する報道がなされていました。あの条約の内容自体に医療行為の強制はなかったと思いますが(ざっと目を通しただけですが)我が国では一旦批准は見送った模様ですが、今後、感染症の危険性を謳い文句に、現状のパンデミック条約案よりもさらに強制性が高い条約を課そうとしたり、治験への参画を強要するようなものが新たに盛り込まれないことも限りません。また我が国の政府は、国民に医療行為の責任を回避しつつ、国際機関との条約を権威の傘に、治験参画の参加へと誘導するプロパガンダをやらないとも言い切れません。

 我が国中心で積極推奨がなされている遺伝子ワクチン(mRNA+LNP)による治験(人体実験)で、アジュバントのLNPやスパイク蛋白の元々の毒性と細胞導入効率の高さに加え、バイアルの癌のプロモータ分子による汚染問題によって癌抑制遺伝子を破壊し、免疫寛容を引き起こし、IgG4を大量に誘導する報告がなされ、戦後最大の超過死亡を起こしてもなお、遺伝子ワクチンの人体実験はとどまるところを知らず、今年の10月からはレプリコンワクチンの実験を開始します。

 何もこれは政治が引き起こす被害の一例にすぎず、こうした人体実験の数々や粗大ゴミのようなエコ商品を政治案件でゴリ押しする圧政に対し、私達は眼を光らせ、政府が国民に事実上「強要」する様な政策や、医療行為を執行させるような動きに対しては私たち国民がおかしいと声を大きく上げる必要があります。いくら政府が腐っていても、被害を訴える世論が大きくなればなるほど、現行の憲法下ならば無視はできません。ビジネスになれば法曹界や弁護士の人たちも儲ける為なら乗り出すでしょう。我が国には未だ薬害やメガソーラーの一般家庭への義務化(小池百合子都政による強制、暴政)、金属を鬼の仇の如く使い、コモンレール方式のディーゼル車なんかの何十倍もNoxを出すEV推進による環境破壊、LGBT政策による公共施設の破壊その他諸々etcに対し、政府や国を相手取っての訴訟をビジネス化させる土壌が育っていません。

2023年9月11日付日刊薬業の記事より


2023年9月11日付日刊薬業の記事より
2023年9月11日付日刊薬業の記事より

 条約も同じで憲法との優位性は今日現在では結論が出ていません。しかし、こうした悪法が条約から通されそうだとなったら世間的に騒ぐ事によって、世間的な認知が広まり、条約は簡単には批准しづらくなるでしょう。
 現在の自民党憲法改憲案は国の秩序や社会構成が大きく変わることは明らかで、人権の削除や思想•言論の自由の保証を緊急事態条項などによって私たち国民にとって制限を課し、政府からの暴力も受け入れなければならなくなる内容である事は疑いようがなく、絶対に許してはならない事だと考えます。私たち一人一人では小さな力ですが、それでも政府の監視と声を上げる事が何より大切なのです。

自民党改憲案は論外

 今、憲法第九条をおしつけ憲法や台湾有事だ等と嘯き、中国やロシアを悪の枢軸国と勝手に定義し、憲法改正の必要性がテレビやメディアで盛んに叫ばれています。ここでは詳細に触れませんが、自民党憲法改正案の中には、個人の尊重より公の秩序を優先され、現行憲法では「天皇や国会議員に対し」、憲法の尊重及び擁護義務を明記していたのが、改正案では「国民に対し」、憲法遵守を強制する条文や、国家緊急権による授権の意味をもつ、「人権の項目の削除」や、国民への義務・強制の意を含んだ「緊急事態条項」の復活が含まれています。しかも、今回の緊急事態条項の中には感染症の項目も含む議論がなされており、改憲されれば当然ながら、戦争事業への国民の強制参画や日本人の「大好きな」公衆衛生医学の治験事業の参画を事実上強要される可能性が非常に高いと言ってよいでしょう。治験事業や他国への戦争参加もあるし、緊急事態を宣言している間は衆議院解散無し、選挙日の変更も可能です。なんでもありの凄まじい独裁政権が樹立します。まずは、自民党の改憲案をじっくり読んでみてください。

自民党日本国憲法改正案

大日本帝国憲法に存在していた緊急事態条項

 そもそも、大日本帝国憲法時代にも「緊急事態条項」は存在していました。この時代に、緊急事態条項はどのように運用していたのか、ご存知でしょうか。
緊急勅令 - Wikipedia
戦前の大日本帝国憲法には、
一、緊急勅令(八条)
二、戒厳大権(十四条)
三、非常大権(三一条)
四、財政上の緊急処分(七十条)
の四つの緊急事態条項があり、大日本帝国第八条第一項により、緊急の必要があるとする場合の規定として帝国議会閉会中に制定される勅令で、制定された1891年(明治24年)から1946年(昭和21年)の55年間で108回乱発されました(単純平均で年に1.5回発令されています。信じられますか?)。中には、議会で一度否決された法案を、緊急勅令で無理やり通した悪名高き治安維持法(この治安維持法はその後16年間で3回改悪、1928年には思想と犯罪と紐付け定義し、最高刑の死刑に厳罰化)や、1946年2月の新円切り替えの後、金融緊急措置令からの預金封鎖につながった実例もあります。

 治安維持法で帝国思想と異なる思想の国民や知識人を弾圧し、国民には国債を買わせて敗戦となり、国民は貧困に陥ったとどめに、戦禍によって生じた借金を、預金封鎖によって国民側にとってとどめを刺された実例が我が国家には存在するのです。そのような歴史を持つ我が国政府に授権を許し、改憲を許しても私達の命と生活など守ってはくれません。むしろ日本国民を地獄へと突き落す最悪の改憲案と言ってよいでしょう。そもそも、この30年以上、SDGs〜持続可能な開発目標〜という、長期にわたる貿易戦略でカルタゴを滅ぼしたローマ帝国の独裁官の名を取った英国フェビアン協会のイデオロギーを妄信し、あっちこっちで民を洗脳し、民や我が国から資産をむしり取るしか能のない人達が描いた憲法など碌なものではないのは当然でありましょう。あんな糞ゴミとしか言いようのない憲法改正案など、シュレッダーにかけてゴミ箱行きにして差し上げましょう。

さいごに

 長々と私の退屈な資料の引用記事をお付き合いいただき、ありがとうございました。日本国憲法は、「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」の三本柱が主であり、それは権力者による権力濫用によって悲惨な大戦の惨禍を引き起こした自省によるものが大きいと考えます。

 九八条問題は、そうした事から外国との協調主義の必要性を全文で説いています。権力を国民の元から引き戻し、人権を削除し、平和主義から
兵器開発を行い、医療分野では、mRNA+LNPワクチンやレプリコンワクチンの様な核酸•遺伝子ワクチンの開発を行い、再び戦争事業への参画を目論んでいる事は自明です。

 現在、与党はもちろん、野党も、経済界や医学会(主犯だろうけれど)でも改憲に関しては極めて容認の姿勢で、はっきり言うと、我が国の国家が再び権力を奪い、好き放題コントロールできる改憲を絶対に許してはなりません。

 現行憲法は、そうした権力者の自分勝手なエゴを抑制している存在なのは言うまでもありません。皆さま、ぜひ今一度、日本で生まれ育ち、あるいは他国から日本の素晴らしさを理解し日本を愛するみなさまひとりひとりで憲法を読んでみませんか?

あとがき

 長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。わからない事だらけで調べ上げ整理していくうちに40000字を超えてしまいました。冒頭でも述べた通り今回の第九八条問題はネットの解説記事やSNSを見てても納得がいく解説に行き着けず、あくまで自分の知見を深く、広げたいことと、納得するまで知ることを目的で書きました。
実は私、書いてみたいネタがたくさんありまくりでパンクしそうなほどあるんです。
次に書くときはもっと少なく簡潔に書こうと。。。いや、書けたらいいなぁ。
ではまたいつか。会う日まで。

参考文献
逐条注解 憲法一補訂版/村上尚文/立花書房
日本国憲法:解説と資料: 1947年/帝国憲法から日本国憲法への変遷/金森徳次郎他
解説 日本国憲法/東京教学社/野上修市 佐藤匡
小さな学問の書 日本国憲法/童話社
日本法思想史研究/創文社/長尾龍一
法哲学講義/笹倉秀夫/東京大学出版会
法思想講義上下/笹倉秀夫/東京大学出版会
自由からの逃走/エーリッヒ•フロム、日高六郎訳/東京創元社
統治行為不要説/九州大学学術情報リポジトリ/原島啓之関西大学准教授/九州大学法学部

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