ミステリやら何やら 伊須田百合 Easter Moai

徒然なるままに 気まぐれに更新

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最近の記事

美味しいWの殺し方⑥

〔ものすごくお久しぶり。SIMフリーのスマホに変えるので、今までのアドレスは使えなくなります。なのでこっちのアドレスにお願いします。電話番号は変わってないよ〕 〔ホントにお久しぶり!てか何年ぶりだ?元気だった⁉私は苗字が変わったよー(*´з`)(笑)〕 〔そうなの⁉おめでとう!全然知らなかったよ…実は私も変わったんだけど笑 元気だよー〕 〔連絡してなくてごめん…身内だけで式して、Facebookに写真載せて報告ってことにしたんだー。って、えええええ!そうなの⁉誰と⁉まさかリョ

    • 美味しいWの殺し方⑤

      あのこにメールをするのはいつぶりだろうか。最後に送信したのは20XX年の7月7日か。実に8年と22日ぶりじゃないか。返信は来なかったがまあ忙しいのかうっかりメールを消去してしまったのだろうと思いそのままにしていた。こんなに年月が経ってしまうとは。光陰矢の如し、とはよくいったものだ。思えばあのこはいつも忙しそうだった。 携帯電話などさほど興味はなくこの期間にメールアドレスを変えることもなかった。しかし夫がSIMフリーのスマートフォンを導入したのでそれに倣った。今までのメー

      • 美味しいWの殺し方④

         呼びかけた私に気付くと、彼女は目を細めながら小さく手を振ってくれた。 「かっこいい音だね」大きく息をついて伸びをしながら隣に腰かけた私に彼女は言った。普段無口な彼女から率先してそんな感想が聞けるのはとても意外に思えた。 「軽音部かなあ。かっこいいなあ」私は中学の頃吹奏楽部でドラムをやっていたけれども、私が小手先で打ち鳴らしていたものとはまったく違う音だった。まるで自分の好きな音を選んで自在に操り組み合わせ、曲を紡いでいく職人かのように思えた。 「何だかすごく音を出すのを楽し

        • 美味しいWの殺し方③

           彼女とは高校一年生のときからの付き合いだ。  クラスは全部で十あるうち、私はA組、彼女はJ組で、教室はそれぞれ長い廊下の端と端に位置していた。最初は顔を見たことがある程度だったが、友人の友人のそのまた友人ということで、たまに同じ会話の輪のパーツに嵌るくらいの間柄になった。  切れ長の目で、ひょろりと腕も足も体躯も細長い、ついでに髪も真っ直ぐ長い、白黒のチンアナゴみたいな彼女は、口数が少なくて、喋っているところをほとんど見たことがなかった。だからといって孤高の一匹というわけで

          美味しいWの殺し方②

          「今日はガンボスープ。アメリカ南部の家庭料理らしいよ」 そういって彼女は私の前にお皿を置いた。食欲をそそるスパイシーな香り。赤いスープに鮮やかな黄色のパプリカと緑のオクラ。紅白縞々のエビ。そして青緑のパセリに黒コショウ。真っ白な湯気がほわほわと立ち上りおなかが鳴る。 「では、いただきます」  ひとさじすくって口に運ぶ。コンソメの濃厚な味わいが拡がってすぐに、ケイジャンスパイスのパンチの利いた香りが内側から鼻をくすぐる。鶏肉はほろほろと口の中でほどけ、噛みしめると旨味が十二分に

          美味しいWの殺し方①

           かつては羽虫さえ殺すのを躊躇っていた自分が、今その動かなくなった肉体を見下ろしている。生臭い刺激が鼻腔に拡がる。見開かれた瞳はただただ黒く、波打ち際の小石のようにぬるりと光っている。いつか旅先の土産物屋で眺めた魔除けのオニキスもこんな感じだっただろうか。  ぼんやりと覗き込んでいると、 「どうして僕をこんな目に?」 「うん、こうなることはわかっていたよ」 「あの君が、こんなことをするなんて」 などのありきたりな台詞が頭の中になぜか勝手に浮かぶ。そして語りかけてきては消えてい