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新ブランドの所信表明

※)2021年2月、本アカウントを個人用から事業用に変更しました。
この記事は個人アカウント時代に民ノ布の中の人が書いたものです。


岡山県で、機能性のある服と伝統繊維に特化したブランドディレクション業を営んでいる岩崎と申します。
2015年に「機能性」と「野良着」を掛け合わせた作業着メーカーSAGYOを立ち上げ、現在も運営しております。
今回は2020年春に立ち上げる予定の「機能性」と「伝統繊維」を掛け合わせたパジャマのブランド"みんふ"について自分の思いをまとめる為にも書いてみようと思います。
・ブランドを始めるきっかけ
製糸業から始まり、戦争をきっかけに急激な発展を遂げた日本の繊維産業は、ここ何十年も「斜陽産業」と呼ばれ、崩壊寸前の危機的状況にあります。

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詳しくない方でもうっすらはご存知かと思いますが、材料の国外依存(綿の材料になる綿花の国内自給率はほぼゼロです)もあり、中国や東南アジアなどの発展途上国に中間工程(縫製や一部加工)の仕事が流れ、国内のほとんどの産地が衰退の一途を辿っていると言われています。


注)もちろん、当事者の熱意と外部の協力によって盛り上がっている産地(世界的にも有名になったタオル産地今治や、再生繊維やテック系の合繊開発が盛んな福井など)もあります。

私が住む岡山県にある児島エリアは、昔から学生服やデニムの一大縫製産地でした。
SAGYOの生産は児島で行っており、日常的に出入りしていると「経営が厳しい」「5年後にはもう(工場が)無いんじゃないか」「跡継ぎがいない」「自分の代で終わりにする」などのワードが耳に入ってきます。
実際私も、廃業により契約先を変えざるを得なかったことがこの5年で2回もありました。
こういう現状を目の当たりにし、何かせずはいられなかったというのが大きなきっかけです。
さすがに個人の力で産業構造を変えることは出来ませんが、「日本ではこんなに素晴らしい生地が織られている」ということだったり「衣服は工業製品でありながら人の手によってつくられている」という、無意識の中の事実をプロダクトを通して伝えることなら私にでもできるんじゃないかと思いました。
当初は、リブランディングのお仕事をさせて頂いた和布問屋さんに本業の生地卸以外の事業提案として「御社が扱う伝統繊維でプロダクトをつくりませんか?」と提案したのですが、リブランディングの成果が出て本業がお忙しくなった為にペンディングとなり、私がやるしかない!と腹を括ったという訳です。
2年前に先方に提案の引き下げとプロジェクトの引継ぎを申し出て、正式に私が個人で立ち上げることになりました。

・なぜパジャマなのか


ブランドの主役は何といっても日本国内で織り続けられている、その土地の風土に合った織物です。
生地の風合いを直接肌に感じてもらえる衣類として思いつくのは下着・肌着の類とパジャマ。
下着はストレッチ性が重要なので、伝統繊維をそのまま使うのは難しい…ということでパジャマをつくることにしました。
また、パジャマであれば流行り廃りなく、長く着続けてもらえるし、「寝る前に専用の衣類に着替えて布団に入る」という現代では消えかけている所作も再提案できるのではないかと考えました。

今は部屋着と寝間着とご近所着を一緒にしたワンマイルウェアの提案が盛んですが、私個人は起きている時間と寝ている時間の区分けをしっかりさせることで生活のメリハリがつくと思っています。

最後に商売くさい話ですが、既視感のない提案をしたいという気持ちも強く、普段着に比べて競合が少ない寝装のジャンルを選んだというのも大いにあります。

・"みんふ"という名称


みんふとは、「民の布」「みんなの布」の略称であり私の造語です。
実は、取引先の和布問屋さんに提案する時は別のブランド名を付けていました。
それは、"和布問屋が自社の審美眼で選んだ生地をつかったパジャマ"という前提から展開して付けた名前だったので、プロジェクトオーナーが私に移った時にブランド名を変える必要がありました。
改めて自分がどんな生地を掘り出したいのか、どういう思いで世間にお披露目したいのかをじっくり考える時間をつくりました。
考えて考えて表出してきたのが消えゆく生地のアーカイブとしての製品をつくりたいという思いでした。
実は、「伝統工芸品」であったり「産地ブランド」であったりで人々に名前を知られている国産生地はごくごく一部です。
下請け構造がある為、職人が廃業しても、組合が無くなっても、表に出てこず誰の記憶にも残らない…。でもとても実直で良質な生地が日本各地で今もひっそりと織られているのです。
祖父祖母の代から製法や材料を変えず、私達日本人の生活に寄り添ってきた素朴な生地達と今、新鮮な気持ちで出会い直してほしい。
そして、私も織機が止まる最後の時まで、そんな生地を買い続けたい。
そんな思いと原動力から民布(みんふ)と名付けました。
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ひらがなにしたのは、仮名文字が日本固有の文字であるというのが理由です。
私は台湾が好きでよく行くのですが、現地で入りたい店は現地の言語で名付けられた店だったりします。ローカルなお店で読めないメニューを適当に頼み、それが美味しかったりしたら、それだけで特別な体験になりますよね。
今後の海外展開を見据えて、敢えて外国人が読めないひらがなのブランド名を付けてみました。ひらがな自体、フォルムがかわいいですし、パッケージや下げ札のロゴをかわいいと思ってもらいたいという計算もあります。

ブランド名を付ける際に参考にしてほしいヤツ↓

・どんな生地を使うのか


では、具体的にどんな生地を使いたいのか。

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私は岡山県生まれで、大学も前の職場も京都。東に住んだことが無い、根っからの西日本人間です。
これは繊維産業以外でも言えることだと思いますが、細長い日本ですゆえ、西と東で"色"が全然違うんですよね。
繊維の場合、西日本は天然素材を使った素朴な織物が多く、東日本はファッション性に富んだ華やかな織物が多く作られています。北日本まで行くと気候に比例してニットが中心です。
西日本で暮らし、西日本で仕事をしてきた私は、まだまだ不勉強で西日本の産地のことしか分かりません。(しかも網羅出来ていません)
当面はひとりで運営していくつもりなので、欲を張らず、西日本の織物を中心にアーカイブしていこうと思っています。


・デザインについて


デザインする際に重要視した点は2つあります。

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ひとつは、捨てる生地をなるべく減らすこと。
洋服は身体に合わせて生地を立体的に添わせる作り方なので、曲線が多く、生地ロスも多いのですが、和服は生地を解いて再構成することを前提に作られているので、原則直線裁ち。洋服であれば切り落とす部分も畳みこんだり折り返したりして切り捨てません。
さすがに現代の生活で和服のルールを適用させると着づらい部分も出てくるので、概念だけ踏襲し、なるべく生地ロスをなくすパターンメイキングを心掛けました。
もうひとつは、寝ることに特化した服にすること。
現代人は多機能が大好き。先にも書いた通り、いわゆるクラシックなパジャマを着て寝ている人はほとんどいなくなり、Tシャツやジャージのような、コンビニぐらいは行けるようなワンマイルウェアを着て寝る人が増えています。
Tシャツでももちろん寝られるのですが、みんふでは「ちゃんと寝ること」も提案していきたいと思っています。
ちゃんと寝るには、寝るために余計な要素は取っ払いたい。
見栄えの為についてる左胸のポケットも要らないし、ウエストのゴムが洗う度ひっくり返ったりすることもあってはなりません。
どんな寝相にも対応でき、どんな年齢の方でもストレスなく着られるものを目指します。


・販路について

基本的には、SAGYO同様オンラインストアでの販売をメインにしますが、みんふでは卸売りも視野に入れた価格設定にしました。
生地のアーカイブの他に、生地そのものの地位向上(イチ素材から指名買いへ)、販路拡大(機屋さんに直接お金が入る仕組みも作りたい!)という目的もあるので、たくさんの人の目に触れる機会をつくらねばなりません。
営業を頑張りたいのは、アパレルセレクトショップよりもホテル業界です。
ホテルといっても、ビジネスホテルや安宿という意味でのゲストハウスではなく、ブティックホテル、デザインホテルといわれる新業態や、ゲストハウスという名目ながら、ドミトリーと個室でサービスを分けているようなネオゲストハウス(今私が勝手に付けました…)に、使って頂くのはもちろんお土産の提案も含め、売り込んでいきたいと思っています。

・現状


構想から2年。今年の夏にやっと1stロットを生産しました。
秋には正式発表したかったのですが、見過ごせない改良点が見つかり、発表を延期…。
先月パターン修正を終え、現在はサンプルを再制作中です。
サンプルが上がり次第ビジュアル撮影をし、クラウドファンディングで初回生産分の受注を取りたいと思っています。
(その過程もnoteに書いていけたらと思っています)
新しいことを始める時は、いつも不安が付きまとうのですが、今回に関しては、何人かのフリーランサーと一緒にチームで進めている為、不安よりもワクワクが勝っています。

みんふが世間に知られることで、「自分が今着ている服はどこでつくられているんだろう」から始まって、自分が暮らしている国の、世界的に見ても稀有な産業である伝統繊維産業に関心を持ってもらいたいと本気で思っています。
スタートはひとりでも、協力者の力を借りて小さいうねりをつくれば、それが大きい動きになっていくかもしれません。
これから春に向けてつっぱしるので、みなさん応援の程よろしくおねがいします!


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