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CorpseRegenerator.exe


「第ニと第四金曜は、16時迄の退勤をお願いします」


 それは、入場時に聞いた規約だった。

 私はシステム系派遣会社の社員である。といっても入社二年目、専らテストと保守がメインである。最初の派遣先は最悪で、残業続きの一年が続いた折、つい先日、この現場への異動が決まった。

 ここの仕事内容は、納骨堂の遺骨管理システムの運用保守であった。珍しいシステムだが、夜勤はなく、ほぼ定時で帰れる上に、二週に一回は早上がりできるため、前の現場とは雲泥の差であった。不具合も起きないので、正直座っているだけだ。これほど気楽な業務があるだろうか。

 ただ一つ、不思議な事があった。自分が早上がりする日の翌週、堂の遺骨数が幾つか減っているのだ。通常、遺骨の移動の際には通知と履歴が残るのだが、何故か金曜のそれには何の痕跡もないのだ。

 当然、上長に報告はしたが、「仕様通り」と返されたので、私もそれ以降追求はしなかった。自分が触っているのはシステムで、実際の納骨堂をよく知らなかったからだ。向こうの都合があるのだと思い、それ以降は遺骨減少も気にならなくなっていった。

 ちょっと変だが、楽な現場。そうして出勤し、退勤し、早上がりし……気づけば、半年以上が経過していた。



 ある日の事だ。

『あの実行ファイルは共有フォルダに上げるなとあれほど言っただろう!』

 壁向こうから叱責の大声が響く。隣は開発部だった筈だ。

『金曜の儀式に支障が出たらどうする』

(金曜?儀式……?)

 私は金曜の遺骨減少を思い出した。共有フォルダなら、保守からでも確認できる筈だ。今ならまだ間に合うかもしれない。思わず、私はすぐに共有フォルダを開いた。幸いにも、目当てのファイルはすぐに見つかった。

 謎の実行ファイル。金曜の現象の正体。胸が高鳴り。マウスを持つ手の震えを自覚する。その時。

「ちょっと、君」

 背後からの声。それは先ほど聴いた、叱責者の声であった。


(続く)

 

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