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【忍殺二次創作】ニュー・ニンジャズ、ア・ニュー・ビギニング #1


 ※この小説は、ニンジャスレイヤーTRPGで身内向けに行ったセッションを元に書き起こされた二次創作小説です。リプレイ風小説というより、完全に小説です。また、当時のデータは磁気嵐により回収困難であったため、載せていません。あくまで読み物としてお楽しみください。


 ひゅううううう。灰色の街を、砂塵を巻き込んだ風が駆ける。幾つかのビルは倒壊しており、かつて整備されていただろう道路上に、巨大な破片となって散らばっている。「ここがあのスンズク・ストリートかよ」誰かが言った。つい先日まで無人だったこの廃墟に、三人の来訪者が訪れたのだ。

「ここ、昔ゲーセンがあったんだよ。仕事帰りによく行ってた」先頭を歩いていた、黒髪のスーツ女性が言った。「アンタ、そういうのは興味無さそうだな」「生憎、縁のない人生を送っている」答えたのは、武士甲冑を着た長身の男。「オヌシはどうだ?かつてスンズクは若者向けの街だったそうだが」「……?よく覚えてない」アルビノめいた白髪の少女が首を傾げた。

 二人の女性に、一人の武士甲冑。荒廃した街を歩くにはあまりにも特異な組み合わせであった。他愛のない雑談をしながら、歩き続けること数十分。やがて、彼らは一つのビルの前で足を止めた。ニシグチ・ビルディング。五階建ての古びたビルだが、周囲の廃ビル群の崩壊具合に比べれば、かなり状態の良い方だと言える。

「改めてミッションを読み上げるぞ」ビル入口手前で、武士甲冑が懐からマキモノを取り出した。「標的は闇ハコビヤの脱走犯。某大手コーポの荷物を配達していた最中、荷物を強奪して脱走、同僚数名を殺害しつつ、遂にはスンズク・ストリートに潜伏」「それで討伐依頼が出された、と」黒髪スーツが続けた。「この私に依頼が回ってきたって事は……当然アレだよな」「そうだ」武士甲冑はもう一枚のマキモノを取り出す。「ニンジャだ」

「ニンジャネーム、ビッグキャリア。名前の通り巨体ニンジャ。想定戦力は彼と、数名のクローンヤクザ」アルビノ少女がマフラーを弄りながら暗唱。「スゴイな、よく覚えてら」「腕の良いメンターに育てられたのだろうな」武士甲冑がマキモノを仕舞った。「そして……そろそろ互いに名乗ってもいいだろう、”N”=サン、”E”=サン」「そうだな」「ええ」三人は互いの間隔を開けた。

 ネオサイタマには複数のフリーランス仲介メガコーポが存在する。彼らは往々にして違法多重請負をするため、依頼を受けたフリーランスは、契約上互いの依頼元などを明かすことが出来ない。そして何より、事業直前でなければ名前を名乗る事もできないである。慣習と契約が入り混じった複雑怪奇なルールを、しかし三人は淡々と実行していた。

「ドーモ、キャプテンザムライです」最初に名乗ったのは武士甲冑。フルフェイスによって表情は伺い知れない。「カタナが得意だ。ヨロシク」「イイネ」黒髪スーツが姿勢を正した。「ドーモ。ノワールです。ヒカリ・ジツが使える」髪の隙間から覗く瞳が金色に発光している。「最後は私。ドーモ、エリューです」アルビノ少女がゆっくりとオジギした。

「やっぱり三人ともニンジャか。だよな」ノワールが笑った。「正直、今回の案件には戦力過多じゃないかと思うんだが」「……そう?」エリューが生返事を返す。「……ここだけの話、荷物を奪われたメガコーポというのが、オムラ・ナムサンテックだと聞く」キャプテンザムライが声を潜めて答えた。「ゲッ、ナムサン案件か。重要な部品だったのかな」ノワールは冗談めかして手を合わせた。

 待ってほしい。彼らはオムラ・ナムサンテックと言ったのか?読者の方々の中には、聞きなれない方もおられよう。オムラ・インダストリが崩壊する前であれば、ネオサイタマ市民たちでさえ想像だにしなかっただろう。かの巨大メガコーポが倒産し、あまつさえカルト組織と合併し宗教系メガコーポとして蘇る、などとは。

「しかし、多少因果めいたものを感じるな。新オムラの荷物を奪った犯人が、旧オムラ崩壊の遠因となった地に逃げ込むとは」キャプテンザムライが独り言ちた。彼のニューロンには、あの日の出来事が今でも焼き付いている。一年前、飛来したキョート城がネオサイタマにもたらしたジゴクを。そしてあの日、キョート城を目掛けて発射されたトコロザワ・ピラーの雄姿を。

 一般的なネオサイタマ市民は、一連の事態をプロモーション行為だと今でも信じている。だが、裏社会に通じる者であれば、あれが如何に恐ろしい大戦だったかを知っている。ネオサイタマとキョートの戦争、両国の支配者たるソウカイ・シンジケートとザイバツ・シャドーギルドの全面衝突。滞空する両建物の破片が質量兵器めいて落下し、ここスンズクを中心に壊滅的被害をもたらした。

 最終的に、キョート城とトコロザワ・ピラーは謎めいた消失を遂げた。ソウカイヤとザイバツは共に滅びた。唐突に空いた玉座。果たして誰が後釜に座ったのか?たとえば、アマクダリ・セクトという組織がある。以前より水面下で勢力を増やし続けていた秘密結社。彼らは真っ先に玉座に手をかけたが、未だに完全な支配権を握れずにいる。

 急速復活を遂げた新オムラ、オムラ・ナムサンテック。アマクダリを見限り独自の支配路線を拡大するヨロシサン製薬。ネオサイタマ郊外で急速に勢力を伸ばす謎の教団、アカボシ・ゾディアック。ナゴヤ・ミッドランド周辺に突如出現した新興国、マサシランド。主を失った現代日本において、今や多くの勢力が闊歩している。我こそが新たな支配者たらんと。

 今回の任務も、そうしたパワーゲームの下で仕組まれている。ナムサンテックが奪われた荷物とは?ビッグキャリアが逃亡した理由とは?果たしてこの依頼に正当性はあるのか。成功した結果どうなるのか。「考えても仕方ない」エリューの決断的な言葉が、沈黙思考に陥りかけていたキャプテンザムライを我に返した。「いつまでこうしているつもり?早く行かないと、ビッグキャリアが逃げてしまうわ」「同感だ」ノワールは退屈そうに伸びをしている。

「ウム、すまない。余計な思考をした。改めて任務開始だ」「「了解」」大柄なキャプテンザムライを先頭に、三人のニンジャがニシグチ・ビルに突入した。時は2037年、ネオサイタマ。ニンジャスレイヤーなきこの世界で、新たなイクサが始まろうとしていた。


◆◆◆


 「……のじゃ?」目を覚ますと、一面の闇。「ここは……どこじゃ?わらわは一体……」身体を動かそうにも、何かに阻まれる。狭い。閉鎖感。少女は、何かに閉じ込められていることを悟った。

「誰か、誰かおらんのか?聞こえている者は?タスケテ!わらわ、わらわはーー」少女はもがく。出来る限り身体を揺らす。しかし、いくら待てども状況は変わらない。やがて少女は動きを止め……しばらくして再開した。「誰か……誰かタスケテ……」

 狭苦しい空間の中で、か弱い声が僅かに響いた。


(続く)


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